私の武器は“家族性地中海熱の患者としての経験”――自分が元気になれる選択を
「病気を経験して自分は強くなれたと思う」と語るのは、家族性地中海熱の患者さんである茶園 知穂さんです。しかし発症当初は、つらい気持ちを周囲に分かってもらえず強い孤独感を抱いていたといいます。
そこから持ち前の前向きな姿勢と行動力で、病気と上手に付き合いながら人生を切り開いてきました。「人と関わる仕事がしたい」という思いで始めた介護の仕事では、自身が指定難病の患者であることを生かし、人に寄り添うケアを心がけているといいます。茶園さんに、診断に至るまでの経緯、病気を経た生活や仕事の変化、日々の生活で心がけていることなどについてお話を伺いました。
体調の変化を最初に自覚したのは、小学生の頃です。それ以降、高熱や腹痛、関節痛などが度々現れ、入院したこともあります。いずれの症状も大体数日で治まり、診断がつかず原因不明として扱われていました。
本格的な発症は19歳の頃だと思います。風邪をきっかけに40℃を超える高熱、そして関節や胸の痛みが現れました。原因が分からないまま治療を受けたのですが、よくなることはなく経過。その後、膠原病を疑われて治療を受けたところ痛み自体はやや楽になりましたが、何十か所という医療機関を回ったものの診断がつかず数年が経過しました。そして自己炎症疾患の疑いで治療を受けたことをきっかけに、家族性地中海熱の確定診断を受けました。19歳頃に高熱や痛みなどが現れてから、診断までに7年ほどを要しました。
特につらかったのは、高熱と関節の痛みです。熱は40℃を超えることもしばしばありました。同時にやってくる関節痛は天気が悪くなると特に痛みが増すことが多く、朝起きた時点で痛くて動けないこともありました。また私の場合、生理が症状に影響しました。本格的に発症する半年前くらいから、生理のときに薬でコントロールできないくらいの痛みが起こるようになったのです。微熱や倦怠感は常にあったのですが、生理期間中は症状がより強く現れ、起き上がれないこともありました。
お話ししたような発作が起こるものの、家族性地中海熱は見た目ですぐに分かるような病気ではありません。さらに一時的に症状が軽減するので、つらさを理解してもらえず、精神的にかなり追い込まれたこともあります。原因が分からずにいたときには、「精神的な影響によるものではないか」などと言われたこともありました。
また、急な体調不良によって予定を断らざるを得ない場合も少なくありませんでした。そのため「発作が起こるのではないか」と常に不安を感じて、予定が立てづらいのも難点でした。
仕事の選択にも影響しました。小学生のときに入院したことがきっかけで看護師を志すようになりましたが、発作を理由に学校に通い続けることができず、志半ばで看護師への道を断念したのです。
家族性地中海熱の疑いがあると聞いたときは、もう未知の世界という感じで「なんだろう、それ?」というのが率直な感想でした。しかし診断を受けたときは、原因が分かり治療の道筋ができたことに安堵感を抱いたことを覚えています。
診断・治療を経て、一番大きな変化は予定が立てやすくなったことです。私は夜から朝にかけて発作が起こることが多くて、症状で眠れない日も多かったのですが、睡眠がきちんと取れて規則正しい生活を送ることができるようになりました。生理のときの不調なども、だいぶ改善されました。
体調が安定したことで少しずつですが、仕事もできるようになりました。看護師になることを諦めてからも、人と関わることが好きだったので介護の仕事に携わるようになりました。現在は、無理のないよう柔軟な勤務ができるように調整していただきながら、元気なときは全力で仕事に取り組むよう心がけています。
最初に働いた職場は難病の患者さんが多く、そういった方たちと関わるなかで、経験とともに、さらに高度な知識や技術も身につけたいと思うようになり、介護福祉士や難病に関する資格を取得しました。
介護の現場で、家族性地中海熱の患者であることが生かされていると感じることがあります。利用者さんの中には、病気があるものの病院が苦手な方や、副作用を心配して治療を受けたがらない方もいらっしゃいます。そういったときに利用者さんから相談を受けたり、意見を聞かれたりすることがあります。これはもう、治療を続けている私にしかできないケアだと思って、協力を惜しまないようにしています。患者として治療を受けたくないと感じてしまう気持ちも理解できるので、自分自身の経験も踏まえ、患者さん本人が納得のいく答えが出せるよう、不安な気持ちに寄り添いながら対応することを心がけています。結果として、利用者さんの「病院に行ってみよう」「治療を受けてみよう」という前向きな姿勢につながると、嬉しく思います。また「あなたが頑張っているから、もう少し私も頑張ってみる」と言っていただいたこともあり、病気があっても誰かの原動力になれていると思うと嬉しいです。
発症して間もない頃は、診察のときに「症状があってしんどいです」と先生に訴えても、伝わっていないように感じることがありました。それが理由で、病院に行きたくなくなり治療をやめてしまったこともあります。
しかしその後、困っている症状などに耳を傾けてくださる先生と出会えて、心が救われました。私が自覚している複数の症状を挙げてくださり「1個1個症状をよくしていこう」と提案してくれたのです。その結果、治療に前向きに取り組めるようになりました。現在の主治医の先生も、常に前向きな姿勢で接してくれます。受診したときには仕事で困ったことや、日常生活の何でもないことなどなんでも話せる存在です。
先生に自分の訴えがうまく伝わっていないと感じるときには、言葉だけではなく記録をもとにお話しするとよいと思います。私自身、症状を記録したノートや、体温を記録した熱型表を活用して症状を伝えるよう工夫していたことがあります。
私の場合は、睡眠不足や疲れ、ストレスがあったり、脂肪の多い食事が続いたりすると症状が出やすいことが多いです。そのため、とにかくよく寝て、疲れをためないことを心がけて生活してきました。
私自身は寝ることが何よりのストレス発散につながるので、仕事がお休みの日は自宅でゆっくり過ごしたり、よく寝たりするよう心がけています。また、食べることも大好きなので、脂肪食が多くならないよう気を付けつつ、美味しいものを食べたり、友人と会ったりして元気をもらうこともあります。
現在の職場には、家族性地中海熱であることを伝えています。症状が出ると休まなければならない可能性もあるので、一緒に働く人たちに病気のことを知ってもらっているほうがお互いに働きやすくなると考えています。
入職時には、自分は今このような病気を発症していて、どういう治療を受けていて、発作時はどのくらいお休みをもらう必要がある、という内容をまとめて自主的に提出しました。医師の診断書を提出するだけでもよかったのかもしれませんが、発作が出るパターンや症状の詳細は自分にしか分かりません。周囲の方たちにとっても「こんな病気があったのか」という発見につながりますし、知ってもらうきっかけとしてよかったと思っています。私自身は、不調に慣れているため知らず知らずのうちに無理をしてしまうことも多いです。そんなときに職場の方たちが「体調が悪そうに見えるよ」とか「顔色が悪くなってきたよ」と気付いて教えてくれることもあり、ブレーキをかけるきっかけになります。周囲の方々の配慮には、とても感謝しています。
家族性地中海熱を発症して、体調的にも精神的にもつらく感じられる場面が多々ありました。今は、症状が出ないように気をつけながら、うまく病気と付き合うことができています。また、病気になったから考えられたこと、成長できた部分があり、私ならではの生き方につながっていると感じています。精神的にもすごく強くなれて、この経験は自分の武器だと思って生きています。
この病気になったから知り合えた方たちも少なくありません。SNSを通じて同じ病気の患者さんに声をかけていただいて、そこからつながった方たちが患者会である「自己炎症疾患友の会」にも導いてくれました。発症した当初は「誰にも分かってもらえない」と感じて孤独感を抱くことも度々ありましたが、今では「1人じゃない」と強く感じます。家族性地中海熱の患者さんたちとは、日頃からSNSなどを通じて症状や治療について情報共有しています。
家族性地中海熱はここ数年、認知度が上がっていると思いますが、いまだに診断がつかずに悩んでいる方も少なくないと思います。私の経験がそのような方たちの役に立てればという思いで、SNSで自分の経験を発信することもあります。今後は、病気を抱えながら仕事をしたいという方たちの力になれるよう、自分の経験を踏まえて就労のサポートにも携わることができればと考えています。
家族性地中海熱の患者さんは発熱や痛みが周期的にやってきて、精神的につらくなる場面もあるでしょう。しかし、指定難病とはいえ治療によって健康な方と変わらないような生活ができる場合もあると思います。とにかく心の安定を大切にして、主治医の先生などと相談しながら今よりも自分が元気になれる選択をしてほしいです。また、元気なときは思いっきりストレス発散することも必要だと思います。
ご家族など周りの人たちは苦しそうな姿を見るのはつらいと思いますが、患者さんに前向きな言葉をかけてあげると気持ちが楽になることもあるかもしれません。私自身、周りの方たちが基本的に病気になる前と変わらない態度で接してくれたことが、治療の励みになりました。常に前向きな言葉をかけてくれる友人も多くて「きっと、あと数日で症状が落ち着くよ。落ち着いたら遊びにいこう」と励ましてくれることもあり、調子が悪いなかでも気持ちが前向きになるので、ありがたいです。
診断されたばかりの方は、戸惑うことが多くてストレスを感じる場面もあるでしょう。でも、1人じゃないということを忘れないでください。同じような経験をしている患者さんがたくさんいらっしゃいます。私自身、発症して診断を受けたときには孤独を感じていましたが、お話ししたように今では心強い仲間がたくさんできました。また、病気のことを知り、力になってくれる人も増えました。
主治医の先生や同じ病気の患者さんなど、いろいろな方とコミュニケーションをとりながら、ぜひ前向きに毎日を過ごしてほしいと思います。
FMF患者さんのインタビューをご紹介します。