家族性地中海熱の治療と仕事の両立――病気と共に前向きに歩んでいくために
家族性地中海熱という病気に向き合いながら、治療と仕事を両立させ、自分らしい生活を送る藤岡 麻菜美さん、佐藤 梨花さん(仮名)、玉村 ひとみさん。それぞれ異なる職業の3人に共通しているのは、病気だからと諦めることのない前向きな姿勢です。今回は、3人の方々の経験から、診断に至るまでの経緯や現在の生活、治療しながら仕事を続ける工夫についてお話しいただきました。
藤岡さん:
高校の女子バスケットボール部のヘッドコーチを務めながら、3人制のバスケットボールのプロチームに所属し、選手としても活動しています。
佐藤さん:
FP(ファイナンシャル・プランナー)事務所を経営しています。
玉村さん:
農業に従事しています。出産を経て、最近仕事を再開したところです。
藤岡さん:
幼少期からよく発熱していましたが、症状があると自覚したのは2020年ごろです。選手として、現在とは別のチームで活動していたとき、腹痛や高熱のため試合を欠場することが増え、「何かちょっと変かも」と感じるようになりました。40℃くらいの高熱で1週間入院したこともあります。しかし、医師からは「ストレスでしょう」と言われ、当時は原因が分かりませんでした。
約半年後に別の病院にかかったときに、初めて「家族性地中海熱の可能性がある」と言われました。ただ、遺伝学的検査など複数の検査を受けましたが、診断は確定せず、症状を抑えるための治療をしながら過ごしていました。
その2年後にまた強い症状が出始めたため、近隣で家族性地中海熱の治療を行っている病院を受診し、診断に至りました。
佐藤さん:
私も幼少期から原因不明の発熱で何度か入院したことがあります。成長とともに症状は落ち着きましたが、2020年ごろから毎月40℃ぐらいの高熱が1週間ほど続き、その後ピタッと治まることを繰り返すようになりました。発熱により新型コロナウイルス感染症が疑われ、何回も検査を受けましたが結果は陰性。結局原因が分からず、2021年に救急搬送されたときは、筋肉の細胞が壊れて痛みなどが出る“横紋筋融解症”が高熱のせいで生じたのだろうと言われました。
その後も発熱は続いたため、あらためて病院で検査を重ね、約1年後に「家族性地中海熱ではないか」という話が出たことをきっかけに膠原病内科を受診することになりました。遺伝学的検査を行っても異常はみられなかったのですが、症状や治療経過などから家族性地中海熱の診断がつきました。
玉村さん:
私は2006年ごろ、20歳のときから高熱が3日間ほど続く症状を繰り返していましたが、病院ではかぜによる症状と言われていました。2008年ごろに医療機関に勤め始めたことがきっかけとなり、膠原病内科の医師から遺伝学的検査をすすめられました。そして、家族性地中海熱と診断され、2009年ごろから治療を開始することになりました。当時は非常に苦労しました。
藤岡さん:
原因が分からない状況で試合を休むことが増えて、チームメイトに申し訳なく思っていました。体調不良の連絡を入れることも心苦しかったです。診断が確定したときは、両親は不安そうでしたが、私はようやく原因が分かって治療が進められることに安堵したのを覚えています。
佐藤さん:
私も診断が確定したときはホッとしました。事前に家族性地中海熱以外の病気の可能性や、命に関わる病気であった場合の見通しなど、さまざまなことを医師から聞いていたためです。両親には責任を感じさせてしまったかもしれませんが、治療法があることに安心してくれて、今では協力してくれているので、名前の付いた病気でよかったと思っています。
玉村さん:
私の場合は診断されたのが皆さんよりも前の2008年で、当時はまったく知られていない病気でした。もちろん、インターネット上などにも情報がほとんどない状況です。診断されたときは不安でいっぱいで、絶望的な気持ちでした。
玉村さん:
医療機関に勤めているときに診断してもらい心強かったのですが、当時は周囲の理解を得ることは難しかったと思います。「また入院するの」と言われることもあり悩んでいて、仕事を続けるのが難しい状況でした。発熱するなど体調を崩すことがよくあり、早退させてもらって治療を受けていました。
藤岡さん:
選手としてコートに出られない自分を責めてしまうときもありましたが、「無理しないで」「自分のできる範囲でいいよ」と声をかけてくれたチームメイトやスタッフの皆さんに助けられたと思っています。とはいえ、同じ病気の人が少ないと聞いていたので、気持ちを共有できる相手がいないとは感じていました。
佐藤さん:
私は元々、ファイナンスのコンサルティング会社に勤めていたのですが、症状が出て休んでしまったときに担当のお客様にご迷惑がかかることを大きなストレスに感じていました。ただ職場の方たちは病気を理解してくださり、治療に慣れるまでの期間に在宅勤務を取り入れるなど自分のペースで働かせていただいたことに感謝しています。現在は起業し、スケジュール調整をしながら仕事に取り組んでいます 。
藤岡さん:
今も症状として倦怠感を感じることはありますが、プレッシャーや不安が減り、仕事に集中できています。また、私の母校でもある高校で指導をするなかで、先生方も協力してくださり感謝しています。
玉村さん:
私も転職した今は、正直なところ不安は多々ありますが、日常生活を過ごしやすくなりました。
藤岡さん:
選手生活を続けながら治療を始めた過渡期のころに、所属していたチームから退団し環境の変化を経験しました。現在ヘッドコーチを務めている職場では、私が体調を崩したときに備えて、アシスタントコーチや部活動の顧問が代理で対応できる体制を作り、働きやすい環境を整えていただいています。病気への理解が得られ、自分のペースで長く働けるような環境に身を置くことは大事なのではないかと思っています。
佐藤さん:
私は家族性地中海熱と診断された年に起業しました。FPとして勤めた経験を生かして、病気やライフイベントによりキャリア形成が難しくなった女性をサポートさせていただいています。自身の経験がお客様に寄り添うことにつながり、天職に出会えたと思っています。
そのなかで私が感じたのは、体調の波と付き合うためにはある程度自分の裁量を持てる環境を作る必要があるということでした。知識や技術を身につけ、自分が働きやすい環境を作っていくことが大切だと考えています。
玉村さん:
私にとって大きなライフイベントは結婚と出産です。出産を諦めていたときもあったのですが、妊娠中に使える薬の選択などについて主治医とよく話し合ったうえで妊活を始めました。気になる症状を一つひとつ伝えて細やかに治療を見直してもらい、元気な男の子を無事に授かることができました。
藤岡さん:
定期的な通院をすることと、どんなに忙しくても睡眠時間をしっかりと確保することです。疲れがたまると発熱や倦怠感につながることが多いため、7時間以上の睡眠をとるように気を付けています。
佐藤さん:
仕事のスケジュールを過密にしないように心がけています。また、月経周期に合わせて微熱が出たり体がだるくなったりすることがあるため、産婦人科の側面からも診療を受けています。
玉村さん:
現在は農家で働いているので体力を使う作業が多いですが、職場では皆さんが負担の少ない仕事に回してくれるなど、配慮してくれています。シーズンによって加工のほうに回してもらったり、体調が悪いときは無理せずに伝えたりしていますし、調子がよいときは積極的に作業を引き受けるなど、普段からコミュニケーションをとるようにしています。また、私も月経時に体調が悪くなるため、現在はそのことも医師に相談しています。
佐藤さん:
私の場合、夫が特に不安に感じていることは私からは詳しく説明せず、一緒に診察室に入って主治医に聞いてもらうようにしていました。専門家から説明してもらったほうが、余計な心配をかけないで済むと考えたからです。協力してくれる家族にも、主治医と直接話してもらうことは大事だと思っています。
藤岡さん:
私も、今とは別のチームで選手として活動していたとき、トレーナーさんが「不安だと思うから一緒に付いていくよ」と言ってくださり、診察時にいろいろと質問をしてくださったのはありがたかったです。たとえば、処方してもらった薬を飲んでも効果が感じられないと思ったときは言いづらかったのですが、トレーナーさんのおかげで、直接聞きにくいと感じていたことも確認できたので助かりました。
佐藤さん:
私の主治医は気さくな方で話しやすいのですが、少し言いにくいと思ったのは「セカンドオピニオンを受けてみたい」ということでした。思い切って伝えたところ、専門的な病院を紹介してくださってありがたかったです。複数の医師から意見を聞いた結果、間違いないという確信を得て、病気と向き合っていく覚悟ができたので、言ってよかったと思っています。
玉村さん:
主治医が変わったときなど、言いたいことをうまく伝えられないときはよくあると思います。私の場合は家族に同行してもらい、症状などを第三者の視点で伝えてもらうようにしています。そばで見ていて感じたことなどを直接医師に話してもらうと、自分の言葉だけよりも伝わりやすいと思います。
玉村さん:
子どものころから根底にあるのは、“病気になっても普通の女の子”という思いでした。足が痛くても歩いていくし、遊ぶことを諦めたくないというような気持ちです。出産のときも大変で周囲には迷惑をかけたかもしれませんが、やりきったという達成感とうれしさがありました。病気だからといって諦めたくないという気持ちで、毎日を過ごしています。
佐藤さん:
私は、負けたくないという気持ちもありますし、病気がありながら頑張っている姿を“かっこいい”と思ってもらえるのはラッキーなことだと受け止めるようにしています。
藤岡さん:
私はスポーツ選手でありながら病気を抱えている立場で、発信力のあるポジションにいると感じていました。自分が悩んでいるなら、同じような状況にある人がきっといるはずだと思い、自分の取り組む姿勢や前向きな姿勢を見てほしいと考えました。1人でも多くの方に希望を届けたいと思い、情報発信をしています。プレッシャーを感じることはあまりなく、誰かのためになるなら実践すべきだと思っています。
玉村さん:
診断に至るまでの長い経過を発信するとともに、結婚や出産に対する不安を抱えている方に経験を伝えていけたらと考えています。現在は、SNSを通じて同じ病気の方々と知り合い、情報交換をしたり質問にお答えしたりもしています。そのなかで、患者同士のつながりはとても大事だと感じるようになりました。
ほかの患者さんの意見や経験を知ることで、診察のときなどに「こういう症状に困っている患者さんがいて、私も同じです」と医師に具体的に伝えやすくなりますし、不調があることを患者同士で共有し合うだけでも安心したり、「次の診察で相談してみよう」と前向きな気持ちになれたりするのではないかと思います。
佐藤さん:
同じ病気の方と話す機会が初めてで、こんなにも心強いのかと感じました。また、病気と向き合いながら無事に出産や育児をされている方の話を聞けて、今後のライフイベントに対する不安が少し和らぎました。
今後は難病の患者さんやそのご家族に対して、FPとして情報発信をしていきたいと考えています。悩んでいる方々に少しでも役立てることがあれば、うれしく思います。
藤岡さん:
家族性地中海熱の診断がついた後、私が動画でそのことを発表したときに大きな反響がありました。「勇気をもらいました」「私も病院に行ってみます」など、多くのコメントが寄せられています。最近も、私のSNSでの投稿に対して「家族性地中海熱について調べたらここにたどり着きました」といったメッセージをもらうことがありました。自分の経験を共有することで、少しでも役に立っているならよかったと思います。
今日は、職場や環境が異なっても、皆さんが前向きに病気と向き合い、どうやってうまく付き合っていくかを考えている姿勢に感動しました。こうしたつながりや機会が得られたことは、私にとって大きなギフトです。この機会を通じて、少しでも多くの方に前向きな姿勢を伝えられればと思います。
藤岡さん:
ある程度は仕事を選択できる環境で、なるべくストレスを抱えないことが大切だと感じています。また、自分の症状を理解してくれる場所に身を置くことも大切で、そういった環境を家族や周囲と協力して見つけることが理想的だと思います。
佐藤さん:
治療や仕事に対して、諦めずに前向きに取り組むことが大切だと考えています。薬が効かないと言われても別の薬を試すこと、ストレスを減らすこと、月経周期と関連して体調が変化するなら産婦人科の医師に相談することなど、一つひとつの行動が症状の改善につながることがあります。私自身もそのような経験をしました。また、家族ともしっかりと話し合い、協力してもらえる環境を作ることが大切だと思います。
玉村さん:
病気があっても全てを諦める必要はないというメッセージを伝えたいです。たとえば、病気だからといって社会に出るのをやめる、遊びに行くのをやめるといったことは必要ありません。体調がよいときは普通に仕事をしたり、リフレッシュしたりして、体調が悪いときはしっかりと休みましょう。体調に合わせてメリハリをつけた生活をすることが大切だと思います。
FMF患者さんのインタビューをご紹介します。