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患者として“伝える努力”を惜しまない――僕が家族性地中海熱という病気と向き合えるようになった理由

目次

「この病気は僕にとって“呪い”のようなもの」。そう主治医の先生に伝えた患者さんがいます。発症から20年ほどを経て、家族性地中海熱と診断された海野うんのさんです。子どもの頃から胸やお腹の“激烈な痛み”に苦しみ、「もう自分の人生はだめなんじゃないか」と思ったこともあるそうです。しかし、徹底した情報収集とコミュニケーションの工夫、そして周りの人たちの支えのおかげで、今では前向きに病気や治療に向き合えていると語ります。
家族性地中海熱の患者さんの1人である海野さんから、診断に至るまで、そして現在の病気との関わり方、その間の揺れ動く気持ちの変化、医師を含む周囲の人たちとのコミュニケーションで工夫されていることなどについて、お話を伺いました。

“人生の邪魔になる症状”に悩む日々

子どもの頃から定期的に胸やお腹が“激烈に”痛む

家族性地中海熱による発作が現れ始めたのは、小学校低学年くらいの頃からです。定期的に息ができないほどの胸の痛みに襲われました。もう尋常ではない痛みで、たとえるならナイフで胸を刺されているかのような感覚です。それが数日間続いては治るということを繰り返していました。このような胸痛とは別にお腹が痛くなることもありました。こちらは腸にガソリンを充満させて火をつけたような感覚で、どちらも“激烈”という言葉がぴったりのひどく強い痛みです。
胸痛は肋間神経痛ろっかんしんけいつう帯状疱疹たいじょうほうしん、腹痛は感染性胃腸炎や麻痺性イレウス、虫垂炎などと診断されて、手術の一歩手前まで進んだこともあります。あとから考えると発熱もありましたが、もっとも強い自覚症状は痛みだったので、少し熱っぽいと感じることはあってもまったくといっていいほど意識したことがありませんでした。

社会的な信頼得られず、退職せざるを得なかった

このような症状が定期的に現れるので、いつ発作が起こるか分からないという不安や恐怖を常に感じていました。いつも頭の中に「今痛くなったらどうしよう」「これから痛くなったらどうしよう」という思いがあるのです。
いったん症状が治っても、たとえば1週間後、1か月後に元気でいられる保証はどこにもありません。そのため、急に体調が変化する可能性を常に念頭に置いて生活していました。僕は、このような発作を“人生の邪魔になる症状”と認識していました。学校のテスト前、友だちや家族と旅行に行こうとしている前日……。よりによってこんなときに、という肝心な場面でいつも発作が起こるのです。
社会人になると、別の問題も出てきました。発作が起こると会社を休まざるを得ないので、仕事で関わる人たちと信頼関係を築くことがとても難しかったのです。直属の上司も「この人はいつ休むのだろう」と懸念を抱いていたと思います。上司に体調について尋ねられても、自分自身も今後の体調は分からないので何とも答えようがなく苦しい思いをしました。仕事で関わる人たちに「いつ体調が悪くなるか分かりません。そのときは休ませていただきます」と言っても、理解を得ることも信頼してもらうことも困難だろうと感じていました。発作が起こる間隔が短くなったことをきっかけに、会社員を続けるのは難しいと判断せざるを得なく退職しました。

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そして、確定診断へ――驚きと絶望、希望が入り混じり感情はぐちゃぐちゃに

子どもの頃から、とにかくさまざまな医療機関へ行きました。発作が起こるたびに受診する病院を変えたり、救急車を呼んで総合病院を受診したりしたこともあります。しかし、20年ほどの間、どこの医療機関を受診しても原因は分からないままでした。入院までして調べたのに、いつも自然に発作が治るので医師は首をかしげるばかりでした。
家族性地中海熱との診断に至ったのは、2021年のことです。このときのことを思い返すと、まさに奇跡が連続して起こったように感じます。胸の痛みで近所のペインクリニックを受診した際に、その先生が肋間神経痛ではないことに気付いてくれたのです。レントゲン検査を受けた結果、胸膜にわずかに炎症がみられたようで、その先生がすぐに総合病院に連絡してくれました。そのまま総合病院の救急外来を受診したのですが、救急外来の先生は診断に苦慮している様子でした。「昔から同じような症状が何度も起こっている」と伝えると、さらに悩んでしまったようで……。しかし救急外来の先生の後に、たまたま診察をしてくれた同院のリウマチ科の先生が家族性地中海熱をご存じだったのです。「もしかしたら家族性地中海熱かもしれない」と大学病院を紹介され、遺伝子検査を受けて確定診断に至りました。
自分が家族性地中海熱であると確定診断を受けたときは、驚きと絶望と希望が入り混じった複雑な感情だったことを覚えています。まずは病気が確定したことで、逃げ場がないような絶望の感情がわきました。弱音を吐くのは苦手な性格なのですが、このときはかなり落ち込みましたね。ただ、ずっと原因が分からないまま発作が繰り返し起こって、仕事もままならず「もう自分の人生はだめなんじゃないか」と思っていたところで原因が分かったので、その点については希望だなと感じました。さらに、それまで体質として認識していたものがれっきとした病気だったことに驚きもしました。こんなふうに診断前後の感情はぐちゃぐちゃで、なかなか整理がつかなかったというのが、正直なところです。

情報は鵜呑みにしない、必ずプロに確認することを徹底

「家族性地中海熱の疑いがある」と言われたときは、病名を聞いてもまるでぴんときませんでした。初めて聞いた病名だったので、「家族性ってなんだろう」「地中海熱ってなんだろう」と疑問が尽きなくて、インターネットでとにかく検索しました。難病情報センターや製薬企業などのサイトを穴があくほど見たのを覚えています。また、YouTubeで同じ病気で苦しんでいる方がいるのを知り「自分だけじゃなかったんだ」と心強く感じました。
患者会である「自己炎症疾患友の会」を知ったのもこの頃ですね。同会には確定診断に至った後、治療に迷ったときに実際の患者さんたちの意見を知りたいと思って入会しました。医師によるWEBセミナーなども開催されていて、病気や治療について学ぶ機会を得ることもできるので、入会してよかったと感じています。

また、自分で調べるなかでSNSのグループチャットにもたどり着きました。同じ病気の患者さんと直接やりとりする機会にも恵まれ、自分以外の患者さんの症状や置かれている状況を知ることができるので、とても心強く感じています。
僕は、家族性地中海熱を疑われたときから、気になることはとにかく全てインターネットで調べてきました。同時に、調べた情報は必ず専門家(プロ)の方に確認したり相談したりすることを徹底してきました。もちろん難病情報センターや製薬企業のサイトに掲載されている情報は正しいと信じていますが、それを “自分が正しく解釈できている”とは限らないと思っているからです。

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何かあったら相談できる人がいる――かかりつけ薬剤師さんが心の支えに

僕を診断時の絶望から救ってくれたのは、間違いなく周りの人たちの支えです。一人挙げるとすれば、信頼して頼りにしていた薬剤師さんの存在が非常に大きかったです。
この薬剤師さんとは、もともと副鼻腔炎ふくびくうえんの治療をしているときに、薬局に通い始めたことがきっかけで知り合いました。市販の薬に関して質問をしたときに一生懸命調べてくださったことが印象に残り、それ以来信頼を寄せるようになりました。家族性地中海熱の発作についても、確定診断に至る前から「実は胸やお腹がすごく痛くなることがある」と相談していました。家族性地中海熱が疑われると言われたとき、診断されたとき……、その都度親身になって話を聞いてくれました。診断結果が出たときは、家に帰るよりも先に、その薬局へ診断結果の用紙を持って報告に行ったほどです。そのときには、すでに先回りして治療薬について調べてくれていました。
この薬剤師さんには本当に感謝していて、頭が上がりません。その後、実際に治療を始めるときにも「何かあったら相談できる人がいる」ということが心の支えになりました。

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僕が自分から家族性地中海熱について話す理由

家族性地中海熱の治療を始めて一番変化したのは、何よりも出勤できる日が増えたことです。仕事で関わる人たちには、自分から病気のことを伝えています。就業時間は限られているものの、今では週5日働くことができています。

職場に限らず、家族性地中海熱のことを少しでも多くの人に知ってもらえるように、いろいろな人に自分のことを話すようにしています。たとえば、お子さんの発熱で悩んでいるような方がいたら積極的に自分の経験を交えて相談にのっています。自分の経験を伝えることによって、少しでもほかの人の役に立てたり不安を取り除けたりするのであれば、微力ながら嬉しく思うからです。ただ、この病気が指定難病ということもあり、相手が反応に困ってしまう可能性も考えて、過度に心配をかけすぎないようになるべく明るい雰囲気で話すように気をつけています。
また、原因不明の発熱や痛みに対して、家族性地中海熱を疑うようなお医者様が少しでも増えればと思っています。

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医師には、より伝わるような工夫を

症状だけではなく、置かれた状況や困り事をしっかり伝える

先生とコミュニケーションをとる際には、とにかく使う言葉に気をつけています。診断がつかなかった約20年間の経験から、自分が感じた症状を伝えるだけでは必ずしもよりよい治療にたどり着けないと感じているからです。自分が置かれている状況について、先生により正しく伝えるためにさまざまな工夫を行ってきました。
まず、先生には病気の症状だけでなく、この病気が自分にとってどのような存在か伝えるようにしています。たとえば、主治医の先生には「この病気は僕にとって“呪い”のようなものだ」と伝えたことがあります。なぜかというと、お話ししたように人生の大切な場面で決まって発作が起こるからです。僕を恨んでいる誰かが藁人形に釘を刺している場面を想像するくらい、おかしなタイミングで症状が現れると感じていました。本当につらくて困っているという僕の思いを反映した言葉が“呪い”でした。

体調の変化はメモを見せながら、“点”ではなく“線”で伝える

体調については、日頃から些細な変化もスマホのメモに残すようにしています。メモの内容は、たとえば「少し体調がおかしいなと感じた」、「お腹のあたりに違和感があった」といった内容です。
診察の前には、メモをもとに先生に伝えたいことを箇条書きにして整理し、優先順位をつけます。診察の時間は限られているので、伝えたいことを1から10まで全て共有するのはどうしても難しいからです。

そして診察の際には、書いたメモを先生にも見せながら話します。そのとき、体調の変化は“点”ではなく“線”で、つまり時系列と変化も併せて伝えることを大切にしています。たとえば単に「痛かった」だけではなく、「寝る前までは痛かったけれど、起きたら少し改善していた」というように、1つの出来事だけではなく経過をたどりながら共有します。大きな体調の変化はもちろんのこと、違和感など感覚的なものについても、先生が治療方針を決める判断材料になると考えているので、必ず伝えるようにしています。
医師とは長いお付き合いになります。だからこそ、少しでも自分の体調や困り事を正しく汲み取ってもらえるように、伝え方を工夫する努力も大切だと思っています。先生にも「この患者さんのために頑張ろう」と思ってもらえるように、態度や話し方も含めて振る舞うように心がけています。

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読者へのメッセージ――腹を括って前向きに進んでほしい

正直なところ、僕もいまだに病気や治療について悩んでいます。ただ、治療を受けるか迷っていたとき、主治医の先生の「合わなければやめればいいだけだから」という一言には背中を押してもらいました。現状では、家族性地中海熱は一生付き合っていかなければならない病気です。治療によって症状を抑えることはできても、完治することはありません(2024年時点)。上手に付き合っていくしかないのです。その事実に腹を括らなければ前には進めないと思っています。
僕は人生が嫌になるくらいの痛みに苦しんでいたけれど、結果的には今どうにかなっています。目の前の小さな問題を少しずつでも解決していくことが、この病気と向き合ううえで大切なことだと信じています。原因不明の発熱や痛みで悩んでいる方は、諦めずにぜひいろいろな先生に相談してほしいです。また、ご家族など周りの方には過剰に心配し過ぎないでほしいと思っています。僕自身心配してもらっても何とも答えようがない場合も多くて、それがストレスになってつらい思いをしたことがあったからです。
周りには必ず支えてくれる人たちがいます。だから、もし家族性地中海熱であると診断を受けたら、その事実と向き合い前向きに進んで行ってほしいと思っています。

患者さんインタビュー

FMF患者さんのインタビューをご紹介します。

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私の武器は“家族性地中海熱の患者としての経験”――自分が元気になれる選択を
茶園 知穂 さん
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家族性地中海熱の治療と仕事の両立――病気と共に前向きに歩んでいくために
藤岡 麻菜美さん、佐藤 梨花さん(仮名)、玉村ひとみさん
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