インタビュー

不妊症によるストレスをケアするために、女性ができること

不妊症によるストレスをケアするために、女性ができること
髙宮城 直子 先生

Naoko女性クリニック 院長

髙宮城 直子 先生

目次
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不妊症で悩む女性の中には、強いストレスを抱える方も少なくないでしょう。過度のストレスは生活の質を悪化させるだけではなく、不妊の状態を継続させる可能性もあるため、妊娠を目指すうえでも適切なストレスケアが大切です。

Naoko女性クリニックの髙宮城 直子(たかみやぎ なおこ)先生は、「自分に合ったストレス解消方法を見つけて、前向きな気持ちで不妊治療に取り組んでほしい」とおっしゃいます。ストレスを和らげるために、具体的にどのような方法があるのでしょうか。妊娠を目指すうえでも大切なストレスケアの方法についてお話を伺いました。

不妊症とは、避妊せずに性生活を送っても1年間妊娠しない状態をいいます。ただし、近年は晩婚化が進み、不妊症の方の年齢が上昇しています。たとえば、40歳以降に妊娠・出産を考えるのであれば加齢によって妊娠しづらくなっていることが考えられますので、1年間という期間を待たずに少しでも早く受診・相談されることをおすすめします。

不妊症は、女性側だけではなく男性側に原因があるケースもありますが、今回は女性側の不妊症の原因についてご紹介します。

卵管の問題が不妊症の原因になっていることがあります。卵管とは、卵子や精子の通り道であり、受精した卵子が着床*するまで育つ場所です。この卵管が、性感染症の1つであるクラミジア感染症や炎症によって通りにくくなってしまったり完全に塞がってしまったりすると、受精が難しくなるため妊娠しにくくなります。

*着床:子宮に受精卵が接着してから妊娠成立までの過程。

子宮の様子
素材提供:PIXTA/加工:メディカルノート

排卵の問題が不妊症の原因になっていることもあります。たとえば、排卵がたまにしか起こっていないケースです。毎月排卵があれば1年間に12回妊娠のチャンスがありますが、排卵の回数が少なければその機会も減少してしまいます。そのため、月経不順の方は早めの相談をおすすめします。また、排卵後に、子宮内膜を受精卵が着床しやすい状態に保つ黄体ホルモンが十分に分泌されていないことによって、妊娠しにくくなる場合もあります。

子宮内腔に子宮筋腫*や、炎症による癒着など何らかの異常があるために受精卵の着床が妨げられてしまい、妊娠にいたらないケースもあります。

*子宮筋腫:子宮筋層にある平滑筋に生じる良性腫瘍(りょうせいしゅよう)。

甲状腺ホルモンや乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)の異常によって、妊娠しにくくなることがあります。また、検査をしても原因が分からない場合には、卵子の質に問題がある、卵管が卵子をうまく取り込むことができないために受精できなくなっている、といったケースもあるでしょう。

初婚年齢の上昇に伴って、近年は不妊症の治療を受ける方たちが増加傾向にあり、不妊治療によって生まれた子どもは約14人に1人という報告もあります(2019年データ)。不妊症の方の中には、治療による強いストレスを抱える方も少なくないと思います。たとえば、不妊治療中に周囲からの「子どもはまだ?」という言葉に傷ついたり、友人や家族の妊娠を素直に喜べない自分にがっかりしたりというお話を聞くこともあります。

残念ながら、不妊治療は頑張れば必ず報われるという世界ではありません。「こんなに頑張ったのに妊娠できなかった」と落ち込んでしまうこともあると思います。また、治療期間や費用の見通しを立てることが難しく、いつ終わるのか分からない真っ暗なトンネルを進んでいかなければならないように感じることもあるでしょう。不妊治療を受ける患者さんの中には、気が付くとうつ状態になっていたという方もいらっしゃいます。

ストレスは不妊症の一因にもなりうることが分かっています。過度のストレスがかかると排卵をコントロールしている脳の視床下部(ししょうかぶ)が影響を受け、月経が止まり排卵がなくなることがあるのです。排卵がなくなると、さらに不妊の状態が続いてしまう可能性があるため、妊娠を目指すうえでも適切なストレスケアが大切です。

ストレスがかかっていることを自覚するためには、以下のような変化に注意してほしいと思います。肉体的な変化では、急にやせてしまう、過食や拒食になるといった症状が現れたら強いストレスがかかっている可能性を考えてください。

精神的な変化では、仕事や家事が手につかない、テレビや新聞の内容が頭に入ってこないといったものがあるでしょう。このような状態が2週間以上続く場合には注意が必要です。

定期的な運動

ストレスをケアして妊娠を助けるためには、定期的な運動をおすすめしています。特に筋トレに取り組むとよいでしょう。筋トレをすると成長ホルモンが出て、卵子の成長にもつながります。糖代謝が改善して卵子の質がよくなった方もいます。また、体の血流がよくなるので血流に乗ってホルモンの流れもよくなります。

自律神経を整えるヨガもおすすめです。心と体、両方のバランスを整えることができるでしょう。また、体幹や太ももを鍛えるスクワットも効果的だと思います。ゆっくりとスクワットをすると、少ない回数で筋トレになるのでおすすめしています。

排卵日の後に“着床しやすいように”と動かずにじっとしているという方もいらっしゃいますが、「むしろどんどん運動したほうがいいですよ」とお伝えしています。

PIXTA
提供:PIXTA

食事

食事は、バランスよく取ることをおすすめしています。特に月経量が多い方は鉄分不足になりやすいので、鉄分をしっかり取ることができる食事が大切です。鉄分が少ないとうつ状態になりやすくなり、さらに強いストレスを感じるようになるという悪循環に陥ってしまうこともあります。

また、妊娠を目指すためには、鉄分、葉酸、ビタミンDなどが豊富に含まれている食事が大切です。これらの栄養素は不妊治療中だけでなく妊娠してからも必要になりますので、どうしても不足してしまうという場合はサプリメントなどを上手に活用して補うよう心がけましょう。

鍼灸やマッサージ・アロマ

ほかにも、鍼灸やマッサージを受ける方法もあります。心と体を癒やすことで、ストレスが和らぐと思います。また、ストレスで気分が落ち込んでいる方にアロマの香りを少し嗅いでいただくと、表情が急にパッと明るくなることもあります。

このように、ストレスをケアするためにさまざまな選択肢があるので、自分に合う方法を見つけていただきたいと思います。

ストレスケアの一環として、不妊カウンセラーによるカウンセリングを受ける方法があります。不妊カウンセラーは不妊で悩んでいる方へ、妊娠や出産、不妊について正しい情報を提供できるよう日本不妊カウンセリング学会などで研修を受けています。体外受精などの不妊治療を行っている施設に常駐していることが多く、患者さんが適した治療を受けることができるようカウンセリングやケアを行っています。

また心療内科を受診して治療を受ける方法もあります。気分が落ち込む期間が長く自分で気持ちをコントロールしにくい、不眠が続いているといった場合には受診を検討してみるようおすすめしています。

私は、不妊症の悩みはパートナーと2人で共有しながら第三者に相談するほうがよいケースもあると思っています。つらい気持ちが続くようであれば、カウンセラーや医師に相談することも検討してください。

ストレスをケアするために、漢方薬による治療を受ける方法があります。漢方薬の中には心が落ち着く、落ち込んだ気分が改善するなどの効果が期待できるものがありますので、それらを取り入れるのもおすすめです。

東洋医学では、問診とともに、舌を診たり、お腹を触ったり、手足の冷えを診たりして原因を探っていきます。

 “気・(けつ)・水”の巡りのバランスが崩れるとよくない、と考えるのが東洋医学の基本です。エネルギーの状態が悪ければ気の異常、血の巡りが悪ければ血の異常、むくみ体質であれば水の異常といった具合に原因を見定めていきます。

上記のように診察を行ったうえで、一人ひとりの患者さんに合う漢方薬を選びます。そして、漢方薬を飲み始めてから2~3週間後にきちんと効果が出ているかをチェックします。副作用が出ていないかも確認し、合わないと判断した場合にはほかの漢方薬に変更することもあります。

むくみが減った、冷えが改善したといった効果は2週間程で実感できることが多いですが、体質を改善するには3か月程かかることもあります。

不妊症によいとされているものや、イライラや不安などの症状に効果が期待できるものを組み合わせて一緒に飲んでいただいたり、片方だけ飲んでいただいたりと、患者さんによって処方はそれぞれ違いますが、うつのような状態が落ち着き不妊治療に取り組めるようになるといった効果がみられています。

漢方薬による治療を受けたいときには、漢方治療に対応している病院やクリニックを受診することをおすすめします。保険診療で受けることができるケースもありますので、まずは相談してください。漢方治療を行う先生は全身を診ますので「漢方で整えてほしい」と伝えれば、その方の心身のバランスを整えるよう努めてくれると思います。

私自身もともと咳喘息(せきぜんそく)があり、なかなか咳が止まらずつらい時期がありました。そんな折、薬剤師さんに漢方薬をすすめられて飲むようになると症状の改善につながり、とても驚きました。当時は体外受精にも取り組んでいましたので、不妊症の患者さんにも漢方薬が役立つに違いないと考えたのです。

漢方薬による治療に取り組むようになって、冷えや便秘、生理前の不調などの症状を緩和し、体全体のバランスを整えて妊娠しやすい体に近づけていく効果が期待できると実感しています。

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漢方薬にも副作用がないわけではありませんから注意が必要です。たとえば、甘草(かんぞう)が入っている漢方薬を服用すると、ごく一部の方にではありますが、むくみや血圧の上昇といった副作用がみられることがあります。

また、妊娠したら飲んではいけない漢方薬もありますので、妊娠反応が出たら妊婦さん用のものに切り替える必要があります。飲み忘れることがあっても大きな問題はありません。神経質になる必要はないでしょう。

お話ししたように、ストレスをケアするための方法はたくさんあります。ご自分に合ったケア方法を見つけていただき、不妊治療を受ける場合には前向きな気持ちで臨んでいただければと思います。

不妊治療はパートナーと二人三脚で行う治療ですから、2人が仲よく元気でいることが大切です。プラスアルファで子どもがいたらもっといい、という気持ちで過ごしていただくとよいでしょう。また、自分1人で不安や悩みを抱え込むことなく、周りにヘルプを求めてほしいと思います。

残念ながら、不妊治療を頑張ったからといって100%報われるとは限りません。だからこそ、子どもができたら、できなかったらなど、さまざまなパターンを考えつつ自分の生きがいも大切にしてほしいと思います。趣味やスポーツ、ライフワークといった楽しみも忘れず、ストレスの少ない不妊治療を実現していただきたいと願っています。

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