ハンチントン病は遺伝子の一部が変化することによって運動機能や認知機能に影響を及ぼす遺伝性の病気です。ゆっくりと進行し、介護が必要になることもあるとされていますが、ハンチントン病は治療できる病気なのでしょうか。また、日常生活で周囲の方々が気を付けることは何なのでしょうか。国際医療福祉大学三田病院神経内科部長の後藤順先生にお話をお聞きしました。
うつ症状をはじめとした精神症状には、オランザピンなどの非定型抗精神病薬をはじめ、ベンゾジアゼピン系薬剤、抗てんかん薬が投与されます。また、不随意運動に対してはモノアミン枯渇薬のテトラベナジンを中心として、保険適応外ですがハロペリドールなどの定型抗精神病薬が用いられることもあります。Lドーパ含有薬は不随意運動を増悪させるおそれがあるため、併用してはいけません。
ただしうつ症状や神経症症状などの精神的症状、また不随意運動などの運動障害の症状に対して、これらの薬はあくまでも症状を緩和させる薬であり、薬で根本的な治療を行うことは不可能です。
ハンチントン病患者さんは、病気が進行するにつれてあまり体を動かさなくなってしまうことが多いと言われています。また、精神症状や認知機能の低下も著しく現れます。そのため、運動機能低下や精神症状の改善を目指すリハビリテーションは重要です。ただしリハビリテーションで何をしてあげられるか、私たち治療者は考えないといけません。
ハンチントン病の患者さんは、リハビリテーションに積極的とは言えません。そのため、リハビリテーションをした方がいいからと言ってリハビリをすぐに取り入れられるかというと、そううまくはいかないのです。また、歩行障害は麻痺などと違って理学療法でコントロールできるものではありません。精神症状は扱いが難しく、精神科医との連携も視野に入れる必要があるでしょう。
ハンチントン病は、周囲の全面的な支えを必要とし、やがて寝たきりになることも少なくない難病です。ですから家族や周囲の方々は、食べ物を細かく切る、ペースト状にして食べやすくするなど栄養面の管理をはじめ、身の回りを清潔にしてあげるなど衛生面の管理が必要となります。また、トイレや着替え、入浴などの基本的な動作も介助が必要になる可能性があります。そのため、おむつを用意してあげたり、着替えやすい衣服を用意してあげたり、浴室を介護用にしたりなど、衣食住に伴う備品や設備を整えておくことも大切です。
ハンチントン病の患者さんはなかなか積極的に治療に取り組もうとしない傾向があります。ですから、介護者と患者さん双方のフラストレーションがたまらないためには、一つ一つに言及するよりも、患者さんを自由にさせてあげる姿勢で臨んだほうがいいと思われる側面もあります。
QOLはクオリティ・オブ・ライフの略です。QOLは世界保健機関(WHO)において、「その個人の目標、期待、基準および心配事に関連づけられた、生活状況に関する個人個人の知覚」(中島孝訳)と説明されています。つまり、身体的な満足だけでなく、精神的な満足を得てもらうことが患者さんの生活の質を向上させるために必要だということです。
では、ハンチントン病の患者さんにとって、何をもってQOLの向上と言えるでしょうか?
この病気を代表とした神経変性疾患は、治療法がないものが多いです。時間が経つにつれて病気が進行し、様々な機能が失われていきます。
現代の医療技術をもってすれば、失われた機能を補ったり延命させたりすることは可能です。しかし、それが本当にハンチントン病患者さんにとっての幸せといえるのかを、私たち周囲の人間は常に考えていかなければなりません。ある人は「これが患者さんにとって最適な方法だ」と考えても、別の人は「そんなことをしてはいけない」と考えている可能性があります。ですから、一律に「これがQOLの向上だ」と言い切ることはなかなかできないのです。
ハンチントン病そのものを治すことは、現代の医療ではできません。
確かに患者さんに対して手を尽くし、様々な医療行為を施せば命そのものを延ばすことは可能です。しかし、どんな手を施しても病気はじわじわと悪化していきます。どちらを取るかという問題は、ハンチントン病に限らず様々な疾患に対してもいえることですが、とくにハンチントン病のような時間をかけて進行する病気の場合、どのようにしていくことが本当のQOLの向上かを今一度考えてみる必要があるでしょう。
国際医療福祉大学 医学部教授、国際医療福祉大学市川病院 脳神経内科
国際医療福祉大学 医学部教授、国際医療福祉大学市川病院 脳神経内科
日本神経学会 神経内科専門医・指導医日本内科学会 認定内科医日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会 臨床遺伝専門医・指導医
東京大学医学部を卒業後、同大学医学部付属病院神経内科・国立療養所東京病院神経内科・国家公務員共済組合連合会虎の門病院神経内科・マッギール大学留学を経て、国際医療福祉大学三田病院神経内科教授・部長。日本神経学会認定医の資格を所有し、日本神経学会の代議員も務めるなど、神経学分野において圧倒的なスペシャリティを持つ。執筆論文・執筆著書ともに数多く発表されており、神経疾患治療の発展に大きく貢献している。
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