概要
ハンチントン病とは、第4染色体に局在するハンチンチン遺伝子(HTT)の変異によって、不随意運動などの運動症状、精神症状、行動異常、認知障害が現れる遺伝性の神経変性疾患です。
このような症状は、運動機能や認知機能などをつかさどる脳の大脳基底核や大脳皮質が萎縮することで生じ、突然発症した後ゆっくりと進行していきます。
主に成人になってから発症し、30歳代に多い傾向がありますが、小児期に発症することもあれば高齢期になって発症することもあります。20歳以下に発症するものは若年型ハンチントン病と呼ばれ、その割合は全体の10%程度とされています。
日本におけるハンチントン病の頻度は100万人あたり7人程度と非常にまれな病気です。現在のところ根治的な治療法はなく、国の難病に指定されています。
原因
ハンチントン病の原因は、第4染色体に局在するハンチンチン遺伝子(HTT)の変異によるもので、遺伝子の一部が異常に長く繰り返されることで発症します。
ハンチンチン遺伝子(HTT)の中には、3つの塩基配列(CAG:シトシン・アデニン・グアニン)が繰り返し配列している部分が存在します。通常ならこの繰り返し配列が26回以下ですが、ハンチントン病の患者さんでは36回以上に伸びています。
これはハンチンチン遺伝子(HTT)の突然変異によって起こりますが、なぜ長い繰り返し配列が生じるかについてはまだはっきりと分かっていません。
なお、ハンチントン病は常染色体顕性(優性)遺伝形式を示す遺伝性の病気であるため、両親のどちらかがハンチントン病にかかっている場合、50%の確率で子どもが受け継ぎます。
また、CAGの配列回数が多いほうが若年に発症し、症状が重くなります。配列回数は下の世代にいくほど多くなる傾向があるため、親よりも子どものほうが重症化しやすくなります。
症状
ハンチントン病では、脳の大脳基底核や大脳皮質が萎縮することによって、不随意運動をはじめとする運動症状、性格変化や行動変化などの精神症状が現れ、徐々に認知障害も出てくるようになります。
症状の出方は患者さんによってさまざまです。運動症状から始まる場合もあれば、精神症状から発症する場合もあります。
運動症状
ハンチントン病の運動症状は舞踏運動と呼ばれる不随意運動です。これは自分の意思とは無関係に体が動いてしまう不随意運動の一種で、手先が不規則に動く、首を動かす、しかめ面をする、頻繁にまばたきをする、舌打ちをするなどの症状が現れます。お箸を使う、字を書くなどの細かい動作がしにくくなることも多く、また同じ動作を続けるのが難しくなるために物を落とす、転ぶなどの症状もみられます。発症初期には、一見落ち着きがないように周囲から見られることが多いです。
病気が進行するとあらゆる動作がしにくくなって、歩く、食べる、話すなどの動作も困難になっていき、日常生活に介助が必要な状態となります。
精神症状
精神症状としては、怒りっぽくなる、不機嫌になる、感情が不安定になるなどの性格変化、何かにこだわって同じことを繰り返すといった行動変化がみられることがあります。
意欲の低下、幻覚、妄想、うつ状態、不眠などの症状が現れることもあり、衝動的に自殺を図ろうとする場合もあります。
認知障害においては、アルツハイマー病などの病気と異なり、ハンチントン病では物忘れや記憶障害が軽い場合がほとんどで、記憶障害よりも注意力や遂行能力の低下が表立ちます。
検査・診断
ハンチントン病では、家族歴がある場合には、問診や身体診察、画像検査(頭部CT検査・頭部MRI検査)によって、ほとんどの場合診断がつきます。しかし、家族歴がはっきりしない場合には、診断を確定するために遺伝子検査が必要です。遺伝子検査は、患者本人または保護者などの代諾者の同意のもと行われます。
遺伝子検査では一般的な血液検査と同じように採血し、血液中のDNAを解析してCAGの繰り返し配列の長さを確かめます。
治療
現在のところ、ハンチントン病の根本的な治療法はありません。したがって、症状を軽減させるための対症療法とリハビリテーションが中心となります。
精神症状に対しては抗精神病薬や抗うつ薬、抗てんかん薬など、舞踏運動にはテトラベナジンという薬が用いられ、このような薬の内服によって症状の緩和を図ります。
併せて、運動機能の低下を防ぐために理学療法が行われます。また、精神症状や認知機能の低下には作業療法が有効な場合もあります。
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