インタビュー

野球肘と離断性骨軟骨炎

野球肘と離断性骨軟骨炎
今井 晋二 先生

滋賀医科大学 整形外科学講座 教授

今井 晋二 先生

この記事の最終更新は2016年05月19日です。

少年野球の選手に多くみられるのが「野球肘」です。とくに小中学生では「離断性骨軟骨炎」や「骨端軟骨損傷」が多く一方、大人ではじん帯に影響を与えることが多くなります。肘におけるスポーツ障害の症状と治療について滋賀医科大学整形外科学講座教授の今井晋二先生に説明をしていただきました。

少年期の野球肘には投球している時や投球した後に関節に激しい痛みを感じます。野球肘には損傷する軟骨の部位によって内側型(小指側)と外側型(親指側)があります。小中学生の場合、外側の関節が投球動作に伴って関節面に圧迫力を繰り返すうち、関節の表面にある軟骨がこすれて損傷する離断性骨軟骨炎が起こります(図2)。内側では肘の骨端軟骨損傷が起こります。

図2.野球肘の原因

離断性骨軟骨炎の初期(透亮期)は軟骨が壊死を起こし始めた状態で、投球するときにだけ痛みを感じます。中期(分離期)になると軟骨にひびが入り、水がたまりやすくなり、肘を完全に伸ばしたり曲げたりすることが難しくなります。末期(遊離期)になると、肘の動きとともにはがれかけた軟骨が動くため、強い痛みが生じます。骨軟骨片が剥がれ落ちてしまうと、関節の中を骨軟骨片が軟骨に傷をつけながら自由に動きます。その骨軟骨片が関節内の狭い部分にはまり込んでしまうと、肘の曲げ伸ばしが困難になります。

一方、肘の内側靭帯には伸展力が加わり、小児ならば尺側骨端部障害、大人では尺側側副靭帯損傷が起こります(図2)。特に大人になって軟骨が成長して硬くなると外側の軟骨の痛みは生じないようになる代わりに、肘関節にあるじん帯が緩んだり断裂したりして痛みを生じるようになります。

野球肘の診断はレントゲン(図3)、CTやMRI(図4)により行います。初期の透亮期には骨の陰が薄くなった状態がわかり、進行すると分離像、遊離像(骨軟骨片が上腕骨小頭から分離し、剥がれ落ちそうな状態)がわかります。ただし、初期段階ではわかりにくい場合もあります。単純正面レントゲン像では描出必ず、tangential viewで撮影しないと誤診します(図3)。

図3.肘関節レントゲン所見
図4.肘離断性骨軟骨炎

透亮期や分離期の初期では投球を禁じることにより病巣が修復し、完全に治ることもあります。ただ、3ヵ月から6か月、場合によっては1年以上の長期にわたり投球動作を制限することもあります。また、投球の再開により再発するケースもあります。比較的年少の患者で逆に骨癒合が期待できる場合では手術を勧めることもあります。

進行したケース(分離期の後期、遊離期)では、再び投球ができるように、そして将来的な障害を残さないために、手術をお勧めします。具体的な手術としては、遊離した骨軟骨片を取り出した上で遊離した骨軟骨片を生体吸収性の釘でくっつけ、新たな骨ができるようにする方法(骨釘固定術)があります。遊離した骨軟骨片をくっつけることが難しい場合は他の部位で切り取った骨軟骨を移植し、関節表面の軟骨を形成します(図5.骨軟骨柱移植術、モザイク形成術)。

図5. 骨軟骨柱移植術(膝の場合)

また大人になってじん帯が損傷した場合にプロ野球選手でよく聞くのが、じん帯を切除してつなぐトミー・ジョン手術です。1970年代に大リーグ・ドジャースのチーム医師だったフランク・ジョーブ博士(故人)が手法を確立し、この手術を受けて復帰を果たしたトミー・ジョン投手にちなんで、この称で呼ばれています。元巨人の桑田真澄さんや、レンジャーズで活躍するダルビッシュ有選手もこの手術を受けています。

野球肘の治療法は患者さんごとに異なります。そもそも野球を続けたいのか、またどのレベルで続けたいのかを患者と話し合ったうえで治療方針を決めています。

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