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補綴(ほてつ)とは。「補い・綴る」義歯(入れ歯)の役割

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  • 公開日:2016/08/29
  • 更新日:2016/08/29
補綴(ほてつ)とは。「補い・綴る」義歯(入れ歯)の役割

虫歯や外傷で歯の一部が欠けたり失われたりしたとき、かぶせ物や入れ歯(義歯)で補うことを歯科の専門用語で「補綴(ほてつ)」といいます。義歯の果たす役割やさまざまな義歯治療について、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科教授の水口俊介先生にお話をうかがいました。

補綴(ほてつ)とは?

補綴という言葉は一般には馴染みが薄いと思いますが、義歯によって失われた歯を「補う」という意味と、「綴る」=義歯を口の中で有機的につなげる(噛み合わせ、見た目を整える)という意味を持っています。

一般的にはブリッジや総入れ歯など、いわゆる取り外し式の入れ歯を義歯(ぎし)と呼ぶことが多いのですが、専門的な用語として義歯や補綴(ほてつ)という場合には、さまざまな種類のものが含まれます。

義歯(入れ歯)の役目とは

●虫歯や外傷で歯の一部が欠けた・抜けた

●歯の神経を抜いた

●歯が無くなった

●使っているかぶせ物や入れ歯が合わない・壊れた・外れる・失くした

このような場合には義歯による治療を行います。その際に重要なことは、上記のようなさまざまな理由によって損なわれた歯の「咬み合せ(かみあわせ)」を回復するということです。

咬み合せの回復には、「形態」と「機能」の回復に加えて、もうひとつ重要な役割があります。それは残っている器官、あるいは組織を守るということです。たとえば、歯列の一部がなくなったときに放置していると、なくなった歯と噛み合っていたもう一方の歯が伸びすぎてしまったり、他の歯が動いてきてしまったりすることがありますが、義歯で欠けた部分を補うことによってそれを防ぐことができます。

口の中の咬み合せは多くの歯によって複雑な形になっています。ここには力学的にある理想的な条件があり、できるだけそれに近づけるような形にしておかなければなりません。それを作り上げることが義歯のもっとも重要な目的であるといえます。

義歯治療はただ単に食べ物を噛めるようになればいい、あるいは見た目を整えればいいというものではなく、その裏にはより重要な役割があります。このことがひいては全身の状態や健康長寿にもかかわってきます。

かぶせ物による治療

クラウンによる治療

虫歯が進行したり歯が欠けてしまったりした場合には、欠損した部分を金属やレジン、セラミックなどで補い、機能や外観を回復させます。咬み合せを回復させるためには、ただ穴を詰めるというだけではなく、出っ張りとへこみを作る必要があります。

クラウン装着前・後(写真提供:水口俊介先生)
クラウン装着前・後(写真提供:水口俊介先生)

ブリッジによる治療

歯が1〜2本なくなった場合には、両隣の歯を土台として橋を渡すようにつないで治療します。クラウンと同様に金属やレジン、セラミックなどでなくなった歯を補い、機能や外観を回復させます。

ブリッジ装着前・後(写真提供:水口俊介先生)
ブリッジ装着前・後(写真提供:水口俊介先生)

ファイバーポストによる治療

歯の神経を抜くと、生木が枯れ木になるように歯がもろくなります。そこで歯の根の破折を防ぐために支台(しだい)と呼ばれるコアポストを入れます。従来の保険診療ではコアポストの素材は金属でしたが、グラスファイバーを用いたファイバーポストが2016年1月より保険適用となりました。

特殊なかぶせ物による治療(保険外診療)

  • メタルボンドクラウン
  • ジルコニアクラウン、ジルコニアブリッジ
メタルボンドクラウンとジルコニアクラウン
メタルボンドクラウンとジルコニアクラウン

 

従来からよく用いられているメタルボンドクラウンは、内側に金属が入っており、外側にポーセレンというセラミック(陶材)を七宝焼(しっぽうやき)のように焼き付けます。内側の金属が融ける温度と外側のセラミックが焼ける温度の差を利用して作成します。

ジルコニアクラウンは内側にジルコニア(人工ダイヤモンド)を使用し、メタルボンドと同様に各素材の温度特性の差を利用して作られています。ジルコニアは最終的に焼成(しょうせい)すると素材が縮むため、その割合をコンピューターで計算してあらかじめ大きめに作っておきます。したがって、CAD/CAM(記事2「高齢化社会における義歯(入れ歯)治療の重要性と最新のトピックス」を参照)というコンピューター制御によるシステムで作成する必要があります。

部分入れ歯(ブリッジ・インプラントなど)による治療

人工の歯とそれを支える部分床、固定するためのバネやワイヤーなどを使った取り外し式の義歯を部分床義歯(ぶぶんしょうぎし)といいます。歯の一部を失ったことによって損なわれる「噛む・話す」などの機能を回復させます。

部分入れ歯による治療(東京医科歯科大学 義歯外来のページより引用)
東京医科歯科大学 義歯外来のページより引用

特殊な部分入れ歯による治療(保険外診療)

  • コーヌス・クローネ義歯
  • 磁性アタッチメントを利用した義歯

 

特殊な部分入れ歯(東京医科歯科大学 義歯外来のページより引用)
東京医科歯科大学 義歯外来のページより引用

コーヌス・クローネ義歯とは、Konus(コーン、円錐)Krone(クラウン、冠)という名前の通り、円柱ではなくわずかにテーパーがついた円錐状の支台の上にぴったりと合う内冠を作成し、その上に歯の形をした外冠をかぶせます。そしてその間に人工歯やプラスチックの床(しょう)をつけて装着します。

コーヌス・クローネ義歯の構造

コーヌス・クローネ義歯は、接着剤やセメントで固定するのではなく、患者さん自身が押し込んで金属の内冠と外冠が嵌合(かんごう・ぴったりとはめ合わせること)するような形で固定します。

コーヌス・クローネ義歯はつけているときの見た目はよいのですが、外したときには咬み合せがなくなりますし、審美性もよくありません。また、患者さんの口の中の状態によっては、すべての欠けた歯をコーヌス・クローネにできるとは限りません。それがベストな方法であるかどうか、さまざまな条件を検討して総合的に治療方針を決定します。磁性アタッチメントも基本的には同様の構造ですが、維持力がそれほど強くありません。従来に比べれば維持力は向上していますが、それでもがっちり固定した場合や、コーヌス・クローネのように嵌合したものよりは弱いといえます。

しかし逆にいえば、横方向に滑ることについてはある程度許容性があるため、残っている歯への負担が少ないという利点があります。そのような特徴を考慮した上で、部分的に磁性アタッチメントを使うこともひとつの方法です。

部分入れ歯の基本的な考え方と選び方

コーヌス・クローネや磁性アタッチメントによる義歯はいずれも保険外診療となりますが、ケース・バイ・ケースで症例を選び、力学的な状況などを考慮して治療法を選択します。

基本的に部分入れ歯の場合、保険診療で作れるプラスチック(レジン)の部分床に金属のバネをつけたものよりも、ベースを金属で作る金属床義歯(きんぞくしょうぎし)のほうが長持ちしますし、残った歯への負担も少なくて済みます。

金属床義歯のイメージ
金属床義歯のイメージ

 

入れ歯は口の中である程度動くものですが、当たって痛いからといってベースの部分を不当に柔らかい素材で作ってしまうと、歯に対して計算できない力がかかってしまいます。そのため、義歯には剛性(ごうせい・変形に抵抗する力)が求められます。ある程度剛性が高ければ、どこにどのような力がかかるかという目算が立てられるからです。

保険診療で作るプラスチックの義歯は、金属床義歯に比べて剛性の点で劣るということと、汚れやすいという欠点があり、残っている歯に対する細菌学的な問題が生じる可能性もあります。

総入れ歯(全部床義歯)による治療

上下すべての歯を失った方には総入れ歯(全部床義歯)を作成します。

総入れ歯による治療(東京医科歯科大学 義歯外来のページより引用)
東京医科歯科大学 義歯外来のページより引用

特殊な総入れ歯(保険外診療)

  • 金属を使った入れ歯
  • インプラントを利用した入れ歯

金属を使った総入れ歯(全部床義歯)のメリットは、前項で述べた部分床義歯の場合と共通する部分もありますが、最大の利点は金属のほうが薄く装着感がよいということです。

インプラントを利用した部分入れ歯は、主に下顎側の義歯で用いられます。左右2か所にインプラントを打ち、そこで固定するというものです。2本だけですべての咬み合せを作ることはできませんが、そこにプラスして義歯を組み合わせることで全部の咬み合せを作ることができ、なおかつインプラントがあることで義歯の動きがより少なくコントロールされ、装着感が向上します。

義歯(入れ歯)治療の費用の目安は?

費用は症例によって、また何本分の義歯を作るのかによって変わります。東京医科歯科大学の義歯外来における一般的なケースでは、たとえば保険診療で総入れ歯を作る場合の自己負担額は1万円弱(上下の場合は約2万円)というところです。ただし、それに加えて歯形取りや咬み合せの調整、その後の管理などで別途2〜3万円が必要になります。

また、1個の部分入れ歯で左右両側にわたるような大きめのものを作ると、30〜40万円ほどになります。そこに含まれるコストとしては、たとえば材料に白金加金(はっきんかきん)という白金と金の合金を20〜30g使うと、材料費だけでかなりの金額になります。

もちろん、それ以外の金属を使えば費用を安く抑えることはできますが、それを作る歯科技工士の人件費など、他にもさまざまなコストが発生します。したがって、このような義歯を保険診療でカバーすると、確実に赤字になってしまいます。

このような理由から、義歯治療を保険診療で行うにはさまざまな難しい問題があり、韓国などでは義歯を保険診療から除外しています。また、アメリカでは州によって一部の義歯が保険適用となっている場合もありますが、通常は保険診療にはなっていないのです。

 

 

水口 俊介

水口 俊介先生

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野教授

東京医科歯科大学で歯科補綴学を修め、大学院で高齢者歯科学分野教授として教育・研究に携わっている。高度な専門技術が要求される全部床義歯において、CAD/CAMなどコンピューターを活用した診療支援システムを研究・開発するとともに、歯学部附属病院の義歯外来において診療も行っている。

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