インタビュー

日本人に多い早老症のひとつ・ウェルナー症候群の原因や症状とは?

日本人に多い早老症のひとつ・ウェルナー症候群の原因や症状とは?
千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学講座 教授 横手 幸太郎 先生

千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学講座 教授

横手 幸太郎 先生

ウェルナー症候群は、世界の中でも日本人の患者さんが最も多く、20歳頃から老化徴候が現れ、早く老化が進むように見える早老症の一つです。

ほとんどの方に白髪や脱毛、両目の白内障が生じるなど、実際の年齢よりも老化が進んでいるように見える点が特徴です。

このような加齢に伴う老化が進むのは外見だけではありません。糖尿病やコレステロール、中性脂肪の異常を意味する脂質異常症に罹患する方も多く、動脈硬化や悪性腫瘍が進行しやすいことも明らかになっています。

千葉大学医学部附属病院の横手 幸太郎先生は、長年にわたりウェルナー症候群の診断や治療に取り組んでいらっしゃいます。今回は、同病院の横手 幸太郎先生にウェルナー症候群の原因や症状についてお話しいただきました。

早老症・ウェルナー症候群とは?

20歳頃を境に急速に老化が進行する、早老症のひとつ

ウェルナー症候群は、1904年にドイツの医師であるオットー・ウェルナー氏により初めて報告された疾患です。老化が早く現れ、進行するように見えることから、早老症(身体のさまざまな部位に老化の徴候が実際の年齢よりも早く出現し、進行するように見える疾患の総称)の一つといわれています。

ウェルナー症候群の多くは、思春期まではほとんど症状がみられず、20歳頃からさまざまな症状が現れる点が特徴です。

白髪

ほとんどの方に白髪や脱毛、両目の白内障が生じることに加え、腕や足の筋肉や皮膚が痩せて固くなるため、実際の年齢よりも老化しているように見えることが多くなります。

このような外見の変化だけではなく、糖尿病や脂質異常症(コレステロール、中性脂肪の異常)に罹患する方も多く、動脈硬化や悪性腫瘍が進行しやすいことが明らかになっています。

また、なかには足の傷がいつまでも治らない難治性皮膚潰瘍(なんちせいひふかいよう)ができ、感染を繰り返し重症化してしまう方もいます。これは、皮膚の細胞が老化し、皮膚を再生する能力が落ちてしまうことによって発生すると考えられています。

ウェルナー症候群の発症における男女差

ウェルナー症候群の発症に男女差は認められず、患者さんの男女比は概ね1対1です。

なぜウェルナー症候群は日本人に多いの?

2017年現在、ウェルナー症候群の患者さんは、日本人に2000〜3000名ほどいると推測されています。これは、世界で最も多い数であるといわれており、実際に世界中で報告されているウェルナー症候群の患者さんの約6割は日本人です。

日本地図

近親婚により発症しやすくなると推測されている

なぜ日本人にウェルナー症候群が多いのかというと、その原因は未だ明らかになっていません。常染色体劣性遺伝病であるウェルナー症候群は、いとこ同士やはとこ同士など親戚同士の近親婚によって発症しやすくなります。

たとえば、日本とともにウェルナー症候群の患者数が多い地域に、イタリアのサルジニア地方があります。このサルジニア地方は、島国の閉鎖社会であるといわれています。一般的に、周囲と交流がないような隔絶された地域では近親婚が増加する傾向にあり、この近親婚が疾患の発症の一因になっていると推測されています。

実際に、30年前の研究では、ウェルナー症候群の多くが近親婚により誕生した患者さんでした。しかし、近年の国内調査では、約半数が近親婚とは関係なく誕生した方たちであることがわかっており、近親婚以外で誕生された患者さんの割合が高くなっているようです。

ウェルナー症候群の原因

WRNと呼ばれる遺伝子の異常が原因で発症

ウェルナー症候群は、WRNと呼ばれるDNAヘリカーゼ遺伝子の異常が原因となり発症することが明らかになっています。WRNは、身体の設計図であるDNAを複製したりDNAが傷ついたときに修復する働きを持ちますが、この遺伝子に異常が生じることでウェルナー症候群は発症するといわれているのです。しかし、なぜWRNの異常が老化につながるのか、その詳細は明らかになっていません。

ウェルナー症候群は子々孫々受け継がれていく疾患ではない

もともと、人は両親から受け継いだ遺伝子を一対(2つ)ずつ持っています。ウェルナー症候群は、2つの遺伝子の両方に異常があるときに発病することがわかっています。異常が生じた遺伝子を2つ受け継ぐ可能性は、4人に1人ほどの確率であるとわれています。

子供を抱くお母さん

患者さんの両親は、それぞれ一つ疾患の原因となる遺伝子を保有し、自身は発症していないケースがほとんどです。患者さんのお子さんが同じように発症する可能性は、200〜400人に1人以下と考えられているため、ウェルナー症候群は子々孫々受け継がれていくような疾患ではないということができるでしょう。

ウェルナー症候群の典型的な症状と診断

ほぼすべての患者さんに現れる両側性の白内障

ウェルナー症候群の典型的な症状は、ほぼ100%の確率で現れる白内障です。ウェルナー症候群の患者さんは、40歳までに必ずといっていいほど白内障に罹患します。重症度には個人差がありますが、両目ともに罹患する両側性の白内障であることがわかっています。

また、ほとんどの患者さんに、白髪や脱毛など毛髪の変化が現れます。

白内障とアキレス腱の石灰化から診断

40歳までに白内障が現れた患者さんのうち、X線撮影によりアキレス腱の石灰化(せっかいか)が認められれば、まず間違いなくウェルナー症候群と診断されます。

実際にウェルナー症候群の方のうち、8割の方は、このアキレス腱の石灰化の症状が現れます。つまり、客観的な診断には、アキレス腱の石灰化を評価することが有効です。

ウェルナー症候群の診断を受けるには?

早期発見のためには大学病院等の受診が有効

ウェルナー症候群の診断や治療を受けるためには、専門的な医療機関の受診が望ましいでしょう。たとえば、千葉大学医学部附属病院では、30年以上にわたりウェルナー症候群の診療に積極的に取り組んでおり、現在でも、全国からウェルナー症候群の患者さんを受け入れています。

当院のほかにも、名古屋大学医学部附属病院、奈良県立医科大学附属病院、大阪大学医学部附属病院などはウェルナー症候群の診療を専門的に行っており、正確な診断と早期治療のためには、これらの医療機関への受診が有効でしょう。

大学病院

皮膚科や整形外科からの紹介も

ウェルナー症候群の患者さんは、初診で皮膚科や整形外科を受診する方が少なくありません。それは、お話ししたように、ウェルナー症候群を発症すると難治性皮膚潰瘍といって足に潰瘍ができやすくなるためです。

これらの診療科には、ウェルナー症候群の知識がある医師が少なくないため、同疾患を疑う場合には大学病院など専門的な医療機関を紹介してくれることでしょう。

このため、足やかかと、ひじなどに治りにくい傷ができた場合には、まず皮膚科や形成外科を受診することが早期発見につながると考えています。

ウェルナー症候群の治療や予後、治療法確立に向けた取り組みに関しては、記事2『ウェルナー症候群の治療と予後・治療法確立に向けた取り組み』をご覧ください。