職場や学校で問題が起き、強いストレスを感じた際に「適応障害」を発症することがあります。適応障害とは強いストレスを感じた際に、ストレスに圧倒されて柔軟な対応ができなくなってしまう状態です。このことがひいてはそのストレスの原因となる環境の問題の解決を遠のけてしまうことになります。症状は精神面と行動面からみられ、どちらもその方らしさを失っている状態です。問題の解決ができず、強いストレスを感じて学校や職場に行けなくなってしまう方もいます。
適応障害とはどのような疾患で、具体的にはどのような症状がみられるのでしょうか。適応障害の治療や周りのサポートと合わせて岡山県精神科医療センターの耕野敏樹(こうのとしき)先生にお話を伺いました。
適応障害とは、職場などで強いストレスを感じた際に、ストレスに圧倒されて柔軟な対応ができなくなってしまう状態です。大切なことはストレスの感じ方は個人によって大きく異なるということです。同じ問題に直面しストレスを感じても、適応障害になるかどうかは個人差があります。
適応障害に罹患すると柔軟な対応ができなくなることによって、原因となった問題がより大きくなったり、解決により多くの時間を要するようになったりすることもあります。そのため、適応障害が確認されれば早急に何らかの対応を検討していくことが必要です。
適応障害の症状には行動面の症状と、精神面の症状があります。ここでは代表的な症状についてご説明いたします。しかし症状には個人差があるので、適応障害の患者さんが下記で挙げる症状すべてを認めるわけではありません。
適応障害の行動面の症状では、回避傾向が強くなります。たとえば職場で強いストレスを感じた場合に、その職場に行けなくなることがあります。それまでできていたことができなくなるなど、柔軟な対応ができなくなっている状態です。
<適応障害の行動面での症状>
など
適応障害の精神面での症状は個人差があります。不安を強く感じる方や、イライラしやすい方などさまざまです。
<適応障害の精神面での症状>
上記の症状以外にも物事に集中できなくなる患者さんや、緊張が取れない患者さんもいます。そのため、不眠症などを併発する場合もあります。
適応障害では職場に行けなくなることや、それまでできていた物事ができなくなるなどの症状が生じます。問題に圧倒された場合に回避的な行動が増えることは、一般に共通した傾向です。そのため、周りに「なまけている」と誤解されることがありますが、辛い思いをしている個人に責任を帰して、その人が「なまけないようにする」という対策を取るだけでは上手くいかないという場合も少なくありません。なかにはこれらの症状により家族関係がこじれることや、職場の人間関係を悪化させることがあります。
子どもの時期というのは、そもそも社会への適応を目指して練習している時期であるといえます。そのため、適応障害と敢えて診断するには一般的な適応水準から外れている医学的な原因があらかじめ想定され精神医学的な精査を含めた治療が求められるような場合や、適応障害になるきっかけとなった事体に対する介入が医療の役割でしか果たせないような場合など、個人のニーズに沿った形で慎重に検討していく必要があります。大人の場合と異なり、多くの場合学校などの教育機関でストレスの原因となった環境の調整が行われており、診断に至らないような場合も少なくありません。
一方でもちろん子どもでも適応障害と診断されることはあります。子どもが適応障害となった場合には、イライラすることや攻撃的な行動を取ることがあります。また、赤ちゃん返りのような行動を認める子どももいます。こういった症状はご家族を不安にさせる症状になりますが、思春期の適応障害一般の理解をもとに医療機関と相談することで、安心して対応していくことが可能になります。
適応障害は強いストレス(葛藤的状況)が原因になるといえます。強いストレスを感じる環境はいじめや、本人が孤立していると強く感じる環境、威圧的な上司がいる職場などさまざまです。
適応障害の治療は環境調整と薬物療法の2つに大別されます。下記でそれぞれについてご説明いたします。
適応障害の治療はまず職場や学校などの環境をできるだけ詳しく知っていくことから始めます。こうして生活環境を一緒に確認していく作業を行うことで、客観的な状況を把握していくことはもちろん、患者さんの主観的な体験を尊重していきながら、どのようなことにストレスを感じてきたのかということを一緒に確認することができます。どのようなことが問題なのかということが明確になれば、環境調整へとつなげてゆきます。必要であれば医師の診断書を提出し、部署の調整や休職などの手続きをします。また、学校の場合には保健室登校をしながら、教員が教室の環境調整を行うことがほとんどです。
環境調整が始まったら、次に抗不安薬や抗うつ薬などによる薬物療法を行うことを検討します。症状そのものが環境調整の妨げになっているような場合や、環境調整後も適応障害がすぐに緩和せず、苦痛が強いような場合が対象になります。
適応障害の薬物治療では抗不安薬や抗うつ薬を使用します。抗うつ薬ではセロトニン・リアップテイク・インヒビター(通称SSRI)やベンゾジアゼピン系などです。それぞれ不安に対する効果があります。一方でこれらの薬物には副作用もあり、眠気がでるなどの鎮静作用や、躁状態(そうじょうたい:気分が著しく高揚した状態)などに注意しながら投与していく必要があります。また、SSRIは薬を飲み始めて10日以内は異物感や不快感を覚えることがありますが、こちらは飲んでいるうちに治まります。
適応障害の症状が何年も続く場合、興味関心がなくなり、抑うつ気分が強い場合にはうつ病の可能性があります。また、それまでと違う環境になっても同じ症状が繰り返される場合には、適応障害とは別の問題があるかもしれません。
<適応障害の症状が長く続く場合に考えられる疾患>
このほかにも神経発達になんらかの影響があることが考えられます。
適応障害の患者さんと付き合いの長い友人やご家族は、強いストレスを受けた場合には患者さんにみられるような反応は一般的なものなのだという理解をもとに、今まで通りの付き合いをすることが大切です。適応障害の患者さんはストレスの原因となった問題に圧倒されてしまっている状態です。そのため、普段の自分らしい振舞いができなくなっています。
患者さんの本来の姿を知っている友人やご家族の方は「ここは症状だ」「ここは患者さんの本来の姿だ」と判断し、サポートしていくことが大切です。そのため患者さんの本来の姿を認識するための手段として適応障害の症状を知ることが重要です。
適応障害の患者さんは症状によって生活リズムが崩れていることがあります。崩れている生活リズムによって、より緊張感が増すこともあります。それまでの日常生活で行っていたように、自分の好きなことや楽しみを味わうことや、小さな達成感を感じる体験は大切になります。多くの場合、病気が出る前の日常生活の中にそういったこれまで生活をおくる中で培った生活の知恵が隠れていますので、あらためて生活リズムを戻すことを意識することで、そういったものを再発見することに繋がることもあります。
適応障害を原因に休職や休業をしている方の場合、職場の同僚や学校の友人に会いそうな場所に行くことは控えたほうが、その都度理由を説明しないといけないようなプレッシャーを避けられるため、安心して療養できるような場合もあります。
どういった場面で不安を感じるのか、「自分らしい」とはどういうことなのかを考え克服する過程のなかで、自分はどういう人間なのかを認識が深まる場合もあります。なかには適応障害などの疾患にかかることで自分らしさに気が付く患者さんもいます。病気に罹患したことは大変つらいことではありますが、そのなかで体験する自分に対しての理解が深まる場面や過程については、病気が回復した後にも大切にしてほしいと考えています。
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