横須賀市医師会は、行政とともに在宅医療を推進しています。
台湾では、2060年に高齢化率が3割を超えると予測されており、在宅医療に注目が集まっています。本記事は、2018年2月7日に、横須賀市医師会が台湾から在宅医療学会の視察団(医師、看護師など多職種、全27名)を招き、セミナーを行った際のレポートです。
まず、横須賀市医師会副会長の千場純先生、横須賀市健康部長の惣田晃さんより、台湾視察団のみなさまへ歓迎の挨拶がありました。
横須賀市健康部 地域医療推進課の川名理惠子さんが、「横須賀市における在宅医療・介護連携推進の取組み」についてお話しされました。
2018年2月現在、神奈川県 横須賀市の人口は約41万人、高齢化率(人口のうち65歳以上が占める割合)はおよそ30%です。2040年には、横須賀市の人口は現在よりも約10万人減少し、高齢化率は36%ほどに上昇すると推測されます。1)
1)出典:横須賀市都市政策研究所「横須賀市の将来推計人口(2014年5月推計)」
2018年2月現在、全国における死亡数(年間)は約130万人です。全国の死亡数は増加傾向にあり、2040年には年間に166万人の死亡数になると推測されています。このような流れのなかで、横須賀市においても死亡数は増加していくことが予測されます。
横須賀市の死亡場所別死亡数を、2005年と2016年で比較してみます。
2005年データ(死亡数の総数 3,731名)
2016年データ(死亡数の総数 4,456名)
上記から、横須賀市では病院で亡くなる方の数は8割から6割ほどに変化しており、ゆるやかな減少傾向にあることがわかります。一方、自宅で亡くなる方の数は倍以上に増加し、全体の2割ほどとなっています。また、老人ホームで亡くなる方についても、5倍ほど増加しています。
横須賀市民(2016年11月1日時点で介護認定を受けていない65歳以上の方1,600名)を対象に、人生の最期を過ごしたい場所についてのアンケート「横須賀市高齢者福祉に関するアンケート(2016年11月)」を実施しました。結果は以下の通りです。
医療機関・・・病院
上記から、人生の最期を自宅で過ごしたい方は全体の6割以上であることがわかります。
これまでお話ししたデータの結果をまとめます。
以上から、横須賀市では在宅での看取りが増加することが予想できます。そこで私たちは、2011年から、在宅医療の体制づくりを始めました。
まず「在宅医療の現場における課題」をテーマにして、医療・福祉関係者へのヒアリングを行いました。
ヒアリングを通して、医師との壁を感じているケアマネジャーの方々や、訪問看護師とのコミュニケーションに疑問を感じているヘルパーの方々など、あらゆる意見を聞くことができました。
その結果、本当は患者さんのために頑張ろうとしている方々が、情報共有の不足からジレンマを抱えている現状が浮き彫りになったのです。
私たちは、在宅医療にかかわる方々の連携を深め、ネットワークを構築することを目的として「在宅療養連携会議」をつくりました。
<在宅療養連携会議の機能>
当初、11名のメンバーでスタートした在宅療養連携会議ですが、2018年現在は19名に増員しました。次項では、当会議で実際に抽出された課題についてご説明します。
市民の方々に「在宅医療とは何か」を伝え、理解してもらう必要があります。そのために私たちは、以下の取り組みを行っています。
・まちづくり出前トーク:職員が地域に出向き、在宅医療について話します。
・在宅療養ガイドブックの作成:市民が在宅医療や在宅看取りをイメージできるような情報を冊子にまとめ、配布しています。
・在宅療養シンポジウム:多くの市民を対象にして、在宅医療や在宅看取りをテーマに毎年1回シンポジウムを開催しています。
・横須賀版リビング・ウィルの作成:リビング・ウィルとは「意思決定能力のあるうちに、自身の終末期医療について希望を述べること」です。横須賀版では、簡単でわかりやすい内容にまとめています。
在宅医療にかかわる多職種が連携する必要があります。そのために、医療と介護の関係者が同じ場所に集まる「多職種合同研修会」を開催しています。
また、連携のツールとして、多職種が互いに注意すべきマナーやエチケットを明文化した「よこすかエチケット集」を作成しました。これは、合同研修会などで実際に集められた意見をもとに、多職種が協力して完成させたツールです。
在宅医を増やすための取り組みとして、横須賀市と横須賀市医師会で「開業医対象医療セミナー」や「在宅医同行研修」を開催しています。
在宅医療関係者のスキルアップのために、「ケアマネジャー・ヘルパー対象研修」や「病院出前セミナー(病院のスタッフが、自宅へ帰った患者さんの生活への理解を深めるためのセミナー)」を実施しています。
これまでは横須賀市と横須賀市医師会が中心となって、さまざまな職種をつなげてきました。しかし、現在は在宅医療にかかわる専門職同士の連携が随分と進んでいます。
今後ますます高齢化が進み、独居の方も増えていくなかで、医療・介護関係者だけでは手が足りなくなる可能性があります。そのような場合には、ボランティアや地域の方々の協力が必要になるでしょう。
私たちはこれから、行政と医師会、医療・介護関係者はもちろんのこと、地域の方々を含めて在宅医療を支える環境をつくっていきたいと考えています。
横須賀市医師会副会長の千場純先生が、「横須賀市医師会の在宅医療推進の取組みと在宅医療の手法」についてお話しされました。
私は長らく、膠原病リウマチを専門とする医師として働いてきました。膠原病(自分の免疫システムが、誤って自分の正常な細胞を攻撃してしまう病気)やリウマチは全身の病気であり、治療ではあらゆる専門職、診療科との連携が必要です。
私は、1998年に横須賀市医師会に入りました。そこで改めて多職種連携の必要性に気づき、多職種連携に向けて取り組みをスタートしました。その一部をご紹介します。
以下、各種研修会等への参加を行なっています。
そのほかにも、以下の活動を行なっています。
横須賀市の医療機関を対象に、在宅医療に関するアンケートを実施しました。
240医療機関のうち、有効回答は169件(回答率70%)でした。
アンケートの結果から、横須賀市の医療機関のうち約半分が在宅医療を行なっており、そのうち半分ほどが在宅診療支援診療所、つまり24時間体制で在宅医療を行なっていることがわかりました。
在宅療養支援診療所の要件
・保険医療機関たる診療所であること
・当該診療所において、24時間連絡を受ける医師又は看護職員を配置し、その連絡先を文書で患家に提供していること
・当該診療所において、又は他の保険医療機関の保険医との連携により、当該診療所を中心として、患家の求めに応じて、24時間往診が可能な体制を確保し、往診担当医の氏名、担当日等を文書で患家に提供していること
・当該診療所において、又は他の保険医療機関、訪問看護ステーション等の看護職員との連携により、患家の求めに応じて、当該診療所の医師の指示に基づき、24時間訪問看護の提供が可能な体制を確保し、訪問看護の担当看護職員の氏名、担当日等を文書で患家に提供していること
・当該診療所において、又は他の保険医療機関との連携により他の保険医療機関内において、在宅療養患者の緊急入院を受け入れる体制を確保していること
・医療サービスと介護サービスとの連携を担当する介護支援専門員(ケアマネジャー)等と連携していること
・当該診療所における在宅看取り数を報告すること 等
引用元:”5.在宅療養支援診療所について”厚生労働省
横須賀市で在宅医療を行う医療機関を対象に、過去1年間の訪問診療と往診の件数を調べました。
<訪問診療>
<往診>
調査の結果、ほとんどの診療所で過去1年間の訪問診療が20回未満、往診が10回未満ということがわかりました。そこで、横須賀市のすべての在宅療養支援診療所(32か所)を対象に、追加調査を実施しました。
横須賀市のすべての在宅療養支援診療所を対象に、追加調査を行いました。(2011年6月28日データ)質問項目は以下の通りです。
上記グラフの赤丸部分をご覧ください。調査の結果、在宅患者数は少ないながら、看取り患者さんの数が多い診療所(診療所Aとします)の存在に気づきました。
そこで私たちは、診療所Aがどのように在宅医療を行っているのか調査しました。
診療所Aは、メタボリックシンドローム、リウマチ、ホームケアを重視するケアクリニックです。在宅医療においてポイントとなる、3つの取り組みをご紹介します。
<在宅医療でポイントとなる3つの取り組み>
1つ目は、独居や認知症の患者さん(特に高齢の方)の見守りと見廻りを行う看護師の存在です。
2つ目は、患者さん以外の住民が集まれる地域の拠点づくりです。たとえば「しろいにじの家」では、地域支援のカフェや相談事業、イベントの開催などを行い、患者さんと地域の方々が集う場所になっています。
3つ目は、医師や看護師が白衣を脱いで街に出ていくことです。白衣を脱いで患者さんやご家族、地域の方々と接することで、医療従事者への恐れや違和感を減らし、壁のないコミュニケーションを培うことが目的です。
在宅医療は、生活の場(介護・福祉との連携)で展開される点において、病院医療とは大きく異なります。よって在宅医療は、病院医療とはまったく別の医療形態であると考え、取り組むべきといえます。
診療所が主導して在宅医療に取り組む場合には、多職種連携を行う努力と、地域をケアする視点が必要です。これらは、ミクロな地域包括ケアシステム*の構築につながると考えています。
地域包括ケアシステム:高齢者の尊厳を保持することと自立生活支援を目的として、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられるよう、地域の包括的な支援・サービスを提供する体制
在宅医療にかかわる医療従事者は、看取りに臨む患者さんのリビング・ウィル(生前意思表明)と、エンドオブライフケア(終末期ケア)にかかわる倫理観を共有しておく必要があります。
なぜなら、「患者さんがどのように終末期を過ごしたいか」を共有・理解することで、より適切な治療、コミュニケーションが可能になり、患者さんの最期をより実りあるものに近づけられるからです。
これから横須賀市医師会が担うべき役割は、大きく5つあると考えます。
まず1つ目は、地域の医療、介護、患者さんの間で連携をコーディネートし、適切な治療を提供できるよう調整する役割です。
2つ目は、急性期(病気が始まり、病状が不安定かつ緊急性を要する期間)医療機関や先進医療(保険診療の医療水準を超えた最新の先進技術として、厚生労働大臣から承認された医療)機関と地域の診療所をつなぎ、地域医療連携を推進する役割です。
3つ目は、行政と診療所の間に立ち、連携をスムーズに行う橋渡しの役割です。
4つ目は、地域住民の啓発と公衆衛生管理を行う役割です。実際に横須賀市では、胃がんリスク検診などを行い、病気の予防と早期発見に努めています。
5つ目は、地域医療の質と医療モラルを保持するための見張り役です。1つ1つの診療所が責任を持って地域医療に取り組むことで、公益性が認められると考えています。
日本の医療は、2040年に向けて厳しい時代を迎えるでしょう。そこには、高齢化や人口減少、貧富格差など、さまざまな問題があります。
しかし、横須賀市はそれらの問題に対してあらゆる取り組みを進め、よりよい医療を提供できる環境を整えていきたいと考えています。
横須賀市内で在宅医療を展開し、横須賀市医師会理事を務める磯崎哲男先生が、「在宅医療における病診連携」についてお話しされました。
病診連携とは、効率的・効果的な医療の提供を目的に、地域の病院と診療所が機能や役割を分担し、連携することです。
診療所の役割として、以下の3つが重要であると考えます。
在宅医療で、実際に私たちが使用しているバッグの中身をおみせします。
おもに看護師が持つバッグのなかには、聴診器、点滴セット、床ずれ処置のセット、自宅で注射を行う器具や薬剤、自動血球計算機、携帯用の超音波機器など、あらゆるものが入っています。
在宅医療の現場では、小型で持ち運びが便利な医療機器が役に立ちます。
たとえば、ある携帯用の超音波機器は、自宅で胸水や腹水の状態を観察できます。また、採血結果を短時間で測定できる機器や、女性でも持ち運べる大きさのポータブル超音波検査機器なども活用します。
このように医療機器を活用して自宅での診療範囲を広げ、また、看護師と医師が連絡を取り合うことで、タイムラグの少ない治療が可能となります。
小磯診療所では、在宅医療の患者さんからの電話は初めに担当の看護師が対応し、看護師だけでは判断できないケースで医師に連絡をとるシステムを採用しています。
基本的に看護師が患者さんの状況を把握し、医師は集まった情報をもとに診断を行います。このシステムのメリットは、医師の負担を軽減できる点です。
在宅医療では、患者さんの自宅に何度も足を運びます。そのため、ケースによっては環境の問題が生じることがあります。たとえば、大雨や雪など悪天候時あるいは酷暑や寒冷な日の訪問、長い階段や狭い通路などを通る家への訪問などです。
在宅医療では、さまざまな患者さんを診療します。患者さんのケースによっては、家庭の問題が生じることがあります。
在宅医療には上記のようにさまざまな問題がありますが、一方であらゆる可能性があります。
私たちはこれから、厳しい時代を迎えようとしています。そのなかで、医療にかかわる多職種がそれぞれにタスクを分化し、医療の効率化を測る必要があります。
在宅医療においては今後も病診連携を進め、横須賀市の方々をサポートしていきたいと考えています。
講演後、台湾視察団は3グループにわかれ、各グループに横須賀市医師会の医師が加わって、意見交換と質疑応答を行いました。
横須賀市医師会と台湾視察団の方々で集合写真を撮影し、横須賀市医師会による台湾視察団へのセミナーは、和やかに終幕しました。
医療社団法人小磯診療所 理事長
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