インタビュー

アイカルディ症候群とはどんな病気?

アイカルディ症候群とはどんな病気?
三宅 紀子 先生

横浜市立大学 医学部 遺伝学教室

三宅 紀子 先生

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この記事の最終更新は2018年08月27日です。

アイカルディ症候群とは、脳の異常である脳梁欠損(のうりょうけっそん)・目の異常である網脈絡膜裂孔(もうみゃくらくまくれっこう)てんかん発作の一種である点頭てんかん(スパズム発作)という3つの症状を特徴とする、指定難病のひとつです。発症する原因や仕組みについては今のところ解明していませんが、国内外にて研究が進められています。

今回は、アイカルディ症候群の原因と症状について、横浜市立大学医学部の三宅紀子先生にお伺いしました。

アイカルディ症候群は、脳梁欠損、網脈絡膜裂孔、点頭てんかん(スパズム発作)を特徴とする病気です。この3つの症状が確認されることで診断がつけられます。

また、患者さんのほとんどは女性ですが、その詳しい理由は明らかになっていません。

2008年に報告された米国の研究によると、複数の国際的な情報源をあつめて調査した結果、408例のアイカルディ症候群の患者さんが確認されています。この調査の結果から、アメリカ全土における患者数は853例以上と考えられ、全世界においては数千例以上の患者さんがいると推測されています。

罹患率については正確な人数は不明ですが、本研究では、アメリカで1/105,000~1/16,500出生、オランダで1/93,000出生と推定されています。この結果から、アイカルディ症候群の患者さんは、およそ9万~17万人にひとりの割合で発症するのではないかといわれています。

出生数に対する罹患数(incidence rates per live births)で算出。

アイカルディ症候群の原因については、現時点では明らかになっていません(2018年6月時点)。

しかし、基本的には、ランダムに突然起こる遺伝子の異常(突然変異)が原因で発症すると想定されています。

アイカルディ症候群が発症する仕組みや、患者さんのほとんどが女性である理由についても、明らかになっていません。しかし、突然変異が原因ということを想定したうえで、いくつかの仮説が立てられています。

X染色体上の遺伝子の変異により発症するという仮説

アイカルディ症候群は、X染色体上の遺伝子の変異により発症するのではないかと推測されています。

X染色体とは、性別を決める役割をもつ染色体(性染色体)のひとつです。女性はX染色体を2本もっていますが、男性は1本しかもっていません。そのため、男性では、X染色体の異常が起こった場合にその影響を受けやすいといわれています。アイカルディ症候群を発症した男性は、1本だけもっているX染色体に異常が起きることにより、生まれる前に命を落とすのではないかと考えられています。

ただし、非常にまれですが男性の報告例はあります。そのメカニズムとして、男性でX染色体が2本以上あることを特徴とするクラインフェルター症候群という病気の患者さんの場合では、アイカルディ症候群を発症しても生存できるのではないかと推測されています。

染色体…生物の遺伝情報を伝える遺伝子を含む物質。

常染色体上の遺伝子の変異により発症するという仮説

アイカルディ症候群は、常染色体(性染色体以外の染色体)上の遺伝子の変異により発症するという仮説も立てられています。

常染色体とは、基本的には男女ともに22対(44本)ずつもっている染色体のことです。常染色体上の遺伝子に変異が起こると、赤ちゃんは先天異常(生まれつきの病気)をもって生まれてくることがあります。アイカルディ症候群もこのような仕組みで起こるという可能性が考えられています。

アイカルディ症候群を親子で発症した例は報告がなく、遺伝する可能性について正確なことは明らかになっていません。アイカルディ症候群の子どもが生まれた場合は、基本的に突然変異により発症したと想定されます。また、兄弟で発症したという報告は今までに1姉妹例しかなく、次のお子さんもアイカルディ症候群を発症する確率は非常に低いと考えられています。

脳梁欠損とは、生まれつき起こる脳の奇形のひとつです。右脳と左脳をつなぐ繊維の束である脳梁(のうりょう)という部分が、少し小さくなったり(部分欠損)、失われたり(完全欠損)した状態を指します。

典型的には網脈絡膜裂孔がみられます。これは、網膜や脈絡膜という、目の奥に広がる膜状の組織に裂け目ができること(裂孔)をさします。この症状は、アイカルディ症候群に特異的な所見(状態)とされています。

点頭てんかんとは、てんかんの一種です。てんかんとは、脳の細胞が異常な活動をすることにより、さまざまな発作が引き起こされる病気です。

点頭てんかんの特徴は、首、体幹、四肢の筋肉の瞬間的な収縮をともなうスパズム発作で、この発作はうなずくような動作に見えます。アイカルディ症候群では多くの場合、生後1年頃までに最初の発作が起こるとされています。

アイカルディ症候群では、ほとんどの患者さんに発達の遅れがみられます。発達の遅れには個人差があり、脳の奇形の程度やてんかんの重さが関係していると考えられています。

網脈絡膜裂孔以外にも、小眼球症(生まれつき眼球が小さい状態)や、眼振(持続的な眼球運動がみられる状態)などがみられる方もいます。

側弯(そくわん)(背中の骨が曲がること)や、背骨や肋骨の形に変化がみられることがあります。

  • 横浜市立大学 医学部 遺伝学教室

    日本小児科学会 小児科専門医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医

    三宅 紀子 先生

    1999年に長崎大学医学部を卒業後、長崎大学医学部付属病院小児科に所属。専門分野である分子遺伝学、人類遺伝学、小児科学の研究に尽力し、2010年より横浜市立大学医学部遺伝学・准教授を務める。多数の論文を発表。

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