インタビュー

エーラス・ダンロス症候群とはどんな病気?

エーラス・ダンロス症候群とはどんな病気?
三宅 紀子 先生

横浜市立大学 医学部 遺伝学教室

三宅 紀子 先生

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この記事の最終更新は2018年09月06日です。

エーラス・ダンロス症候群とは、皮膚の過伸展性、関節の過可動性、結合組織の脆弱性が主にみられる症候群で、指定難病のひとつです。原因などにより複数の病型に分類されており、それぞれ症状や経過、対処法が異なります。適切な治療を行うためには、なるべく早く診断を確定することが大切です。

今回は、エーラス・ダンロス症候群とはどんな病気なのか、横浜市立大学医学部の三宅紀子先生にお伺いしました。

皮膚の過伸展性(通常よりも伸びてしまう)、関節の過可動性(可動域が異常に増大している)、結合組織の脆弱性(組織と組織をつなぐ部分がもろくて弱い)という3つの症状がみられる症候群のことを、エーラス・ダンロス症候群といいます。

皮膚の過伸展性とは?

健康な皮膚は、刺激や異物から肌を守る役割を担い、弾力性があってすべすべした状態を保っています。

エーラス・ダンロス症候群では、たとえば腕の表面をつまむと、正常の範囲を明らかに超えて伸びる状態がみられます。また、結合組織の脆弱性から、けがによる裂傷(皮膚が裂けてできる傷)が多発しやすく、治癒した後に(へこ)んだような(あと)萎縮性瘢痕(いしゅくせいはんこん))を形成することがあります。

関節の過可動性とは?

関節とは、2つ以上の骨が連結する部位を指し、場所によって可動域が異なります。たとえば、肩の関節は可動域が広く脱臼しやすい、足首の関節は3本の骨ががっちりと組み合わされており負担に強いといった違いがみられます。

エーラス・ダンロス症候群では、関節の可動域が異常に増大した状態が起こります。そのため、自然な状態でもさまざまな関節で脱臼を繰り返しやすいという特徴がみられます。

結合組織の脆弱性とは?

結合組織とは、全身の組織と組織をつなぐ部分を指します。腱や靭帯、皮下組織などが該当しますが、骨や軟骨も広義の結合組織に分類されます。エーラス・ダンロス症候群では、結合組織が脆弱になる状態が起こります。そのため、骨と骨を強固につないでいるはずの部分がもろくなるなどの異常がみられ、皮膚と骨・関節にさまざまな症状が現れます。

エーラス・ダンロス症候群は、原因や症状、遺伝する形式などにより複数の病型に分類されています。1998年以降は6病型とその他の病型に分類されていましたが、原因となる遺伝子の解明が進められた結果、2017年には新しく分類されて13病型になりました。

エーラス・ダンロス症候群は、およそ5,000人に1人の割合で発症すると考えられています。病型ごとに頻度が異なり、非常にまれな病型もあります。

エーラス・ダンロス症候群は、生まれつき起こる遺伝子異常が原因で発症する病気です。生活習慣や妊娠時の行動などとエーラス・ダンロス症候群の発症には、関連性がないと考えられています。

原因となる遺伝子の多くは、コラーゲンに関連する遺伝子であることが報告されています。皮膚、骨、血管、結合組織にはコラーゲンが多く含まれているため、エーラス・ダンロス症候群に共通した症状が引き起こされると考えられています。

エーラス・ダンロス症候群の原因となる遺伝子は、親から子どもへ受け継がれる可能性があります。遺伝する確率は病型によって異なります。たとえば、常染色体優性遺伝形式で遺伝する病型には、古典型、血管型、関節過可動型などがあります。常染色体劣性遺伝形式で遺伝する病型には、筋拘縮型などがあります。

常染色体優性遺伝形式とは?

両親のどちらかが病気をもっている場合、子どもは2分の1の確率で同じ病気を発症するという遺伝形式です。子どもは、親がもつ2本の染色体を1本ずつ受け継ぐため、変化があるほうの染色体を受け継ぐ確率は2分の1となります。両親が病気を持っていない場合でも、突然変異により子供が病気になることがあります。

常染色体劣性遺伝形式とは?

両親から受け継いだ染色体の両方ともに病気を起こす変化を持っている場合に、子供が病気を発症するという遺伝形式です。この遺伝形式の場合、両親は変化のある染色体を一本ずつもっていても病気にはなりません。両親がそれぞれ変化のある染色体を一本ずつもっている場合、その子どもは4分の1の確率で病気を発症します。つまり、母親からだけ変化を受け継ぐ場合、父親からだけ変化を受け継ぐ場合、両親から変化を受け継ぐ場合、両親のどちらからも変化も受け継がない場合という4つのパターンが考えられる中で、病気を発症するのは両親から変化を受け継いだ場合という1パターンのみです。

エーラス・ダンロス症候群では、すべての病型に共通して、皮膚の過伸展性、関節の過可動性、結合組織の脆弱性という3つの症状がみられます。それに加えて、病型ごとに特徴的な症状が現れます。また、病気が発見されやすい時期や経過は病型により異なります。

エーラス・ダンロス症候群の13病型とその特徴は以下の通りです。

皮膚の過伸展性と萎縮性瘢痕、全身の関節の過可動性が特徴です。常染色体優性遺伝です。

類古典型は、1998年の発表ではテネイシン欠損による関節型に分類されていた病型です。古典型と同じように皮膚の過伸展性と全身の関節の過可動性がみられますが、ベルベットのような皮膚の感触があり、萎縮性瘢痕を伴わないこと、内出血を起こしやすいことが特徴です。脱臼を伴うことがあり、肩や足首が多いとされています。常染色体劣性遺伝です。

心臓弁型は、大動脈弁や僧帽弁などの心臓弁に異常がみられる病型です。その他、皮膚が薄い、出血しやすいといった症状が現れます。常染色体劣性遺伝です。

血管型は、エーラス・ダンロス症候群のなかでも命に関わる症状が起こる可能性のある病型です。大動脈解離、血管破裂、血腫*、妊娠時の子宮破裂大腸穿孔(だいちょうせんこう)などの症状が現れる場合があり、血圧をコントロールする薬の投与や手術療法が検討されます。常染色体優性遺伝です。

血腫…血液が軟部組織の隙間に貯留した状態。

エーラス・ダンロス症候群のなかでも多くみられる病型です。特に関節の症状が重く、全身に関節の過可動性がみられます。一方、皮膚の過伸展は軽度です。また、腹壁のヘルニアや、骨や筋肉に持続的な痛みを感じるなど、多彩な症状がみられます。常染色体優性遺伝です。

多発関節弛緩型は、生まれつき両足の股関節に脱臼がみられる病型です。それに加え、全身に関節の過可動性がみられ、脱臼・亜脱臼(不完全脱臼)を繰り返すことや、皮膚の過伸展を伴うことが特徴です。常染色体優性遺伝です。

皮膚脆弱型は、特に皮膚の症状が重い病型です。生まれつき、あるいは赤ちゃんのときに皮膚裂傷を生じるなど、皮膚の脆弱性が顕著にみられるのが特徴です。常染色体劣性遺伝です。

後側彎型は、生まれつきの筋緊張低下(筋肉の緊張が低下すること)や、生まれつきあるいは生後に発症する後側彎(脊柱が後ろに曲がること)を特徴とする病型です。常染色体劣性遺伝です。

脆弱角膜症候群は、特に目の症状が現れる病型です。角膜が薄く、進行性の角膜変形、青色強膜、網膜剥離などを伴う場合があります。常染色体劣性遺伝です。

脊椎異形成型は、多くの場合は15歳頃までの小児期に低身長がみられ、筋緊張低下や四肢の骨が曲がるのを特徴とする病型です。常染色体劣性遺伝です。

筋拘縮型は、日本で発表された病型です。2017年に新しく筋拘縮型として13病型に分類されるまでは、古庄型*と呼ばれていました。

生まれつき多数の関節に拘縮(関節が固まって動かない状態)がみられます。特に内反足(足首が内側に曲がった様子)がみられます。成長するにしたがって関節が柔らかくなり、脱臼を起こしやすくなる進行性の病型です。また、特徴的な顔貌が共通してみられます。打撲等により巨大皮下血腫が起こり、出血性ショック*2に至る場合があり注意が必要です。常染色体劣性遺伝です。

古庄型…信州大学医学部遺伝医学教室の古庄知己先生が提唱した病型。

2出血性ショック…大量出血のため体内の血液量が減少し、体に十分な血液や酸素が送れなくなった状態。

ミオパチー型は、生まれつきの筋緊張低下(年齢により改善する)や筋萎縮がみられることのある病型です。近位の関節(膝、股関節、肘)の拘縮や、遠位の関節の過可動性がみられることがあります。常染色体優性遺伝と常染色体劣性遺伝の二つの遺伝形式が報告されています。

歯周型は、小児期から思春期に発症する重い難治性の歯周炎や、歯肉欠損(欠けた状態)がみられる病型です。常染色体優性遺伝です。

  • 横浜市立大学 医学部 遺伝学教室

    日本小児科学会 小児科専門医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医

    三宅 紀子 先生

    1999年に長崎大学医学部を卒業後、長崎大学医学部付属病院小児科に所属。専門分野である分子遺伝学、人類遺伝学、小児科学の研究に尽力し、2010年より横浜市立大学医学部遺伝学・准教授を務める。多数の論文を発表。

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