ドラべ症候群は、1歳までの乳児期に発症する病気です。この病気では、けいれんが繰り返し起こり、非常に高い確率で知的障害が認められるといわれています。
治療では、主に薬によって症状を和らげます。さらに、日常生活ではいくつか注意すべき点があるといわれています。それはどのようなことなのでしょうか。今回は、ドラべ症候群の診療に長く携わっていらっしゃる国立精神・神経医療研究センター病院の須貝 研司先生に、ドラべ症候群の診断や治療についてお話しいただきました。
ドラべ症候群の原因や症状に関しては、記事1『てんかん性脳症のひとつ-ドラべ症候群ってどんな病気?』をご覧ください。
ドラべ症候群の診断では、症状と経過の確認が重要です。具体的には、発熱や入浴など体温の上昇に伴ってけいれん発作を繰り返すことや、5分以上けいれんが持続するけいれん重積があることを確認します。さらに、体温の上昇などのきっかけがない、突然のけいれんも起こる場合には、この病気の可能性が高まります。そして1歳前では頻繁な発作にもかかわらず発達の遅れがないようであればこの病気の可能性があります。
また、1歳を過ぎた頃から発達の遅れや歩行時のふらつきが現れるようであれば、この病気が強く疑われます。
脳波検査や脳のMRI検査(磁気を使い、体の中の断面を見る検査)を行います。しかし、1歳よりも前にこれらの検査結果からドラべ症候群の診断を行うことは困難です。
それは、記事1でお話ししたように、ドラべ症候群では、1歳より前には脳波のてんかん性異常が現れることは、通常ないといえるからです。さらに、1歳以降に現れる脳波の異常も、この病気特有のものではありません。そのため、検査結果を参考にしながら、お話ししたような患者さんの症状と経過を確認し、徐々に病気を確定していく場合が多いです。
上記の症状と経過があり、さらに、遺伝子検査によって遺伝子異常がみつかれば、診断が確定します。しかし、記事1でお話ししたように遺伝子異常がみられるケースは全体の約80%です。
遺伝子に異常がみられない場合には、症状と経過の確認が大切になります。
ドラべ症候群以外にも、乳児や子どもにけいれんが起こる病気はたくさんあります。そのため、診断ではほかの病気との鑑別が大切になります。
幼少期であれば、熱性けいれん*との鑑別が大切になります。熱性けいれんは体温の上昇に伴いけいれんが起こることが特徴です。そのため、体温の上昇とは無関係のけいれんが起こるようであれば、鑑別のための大切な情報になります。
また、PCDH19関連症候群と呼ばれる病気も鑑別すべき病気のひとつです。PCDH19関連症候群は、PCDH19遺伝子の異常によって女児のみに起こり、けいれん発作と知的障害を生じる病気です。入浴など体温の上昇に伴いけいれん発作が起こるため、特に発症初期は鑑別が難しいといわれています。
しかし、PCDH19関連症候群はドラべ症候群より運動失調症状が軽く、歩行時のふらつきはあまりみられません。また、知的障害もドラべ症候群と比べると軽い傾向があります。遺伝子検査で診断されます。
*熱性けいれん:生後6か月から6歳までの乳幼児期に起こる38度以上の発熱に伴って起こるけいれん発作。
ドラべ症候群は、主にてんかん発作を止める効果のある抗てんかん薬によって治療を行います*。1つの薬でてんかん発作を止めることは難しいため、複数の薬を使用する場合が多くなります。また、患者さんによって効果のある薬は異なるため、医師と共に試行錯誤しながら治療を行うことが多くなります。薬による治療が有効な場合、半年から1年の間、てんかん発作が起こらないケースもあります。
また、けいれん重積となり、けいれんが止まらないときには病院を救急受診し、急いでけいれんを止める治療を行います。
*2022年11月に新たに効果が期待できる内服薬が発売されました。2歳以上の患者さんに保険適用され、他の抗てんかん薬による治療効果が十分でない場合に併用されることがあります。
ドラべ症候群では、けいれん重積を防ぐため坐薬が使用されますが、必ずしも有効ではありません。ヨーロッパでは、同じ効果が期待できる口の中に入れ粘膜から吸収される薬(口腔内粘膜投与の薬)*がすでに販売されています。日本でも、2017年より臨床試験が始まりました。
この薬は、口の中の粘膜に入れると10分前後でけいれん発作が治まります。坐薬では電車や飛行機の中など外出時に使用することが難しいのですが、口の中に入れる薬であれば外出時など人前でも使用することができます。
*2018年8月現在、てんかん重積に対する静脈注射薬の口腔内粘膜投与は保険適応外です。
また、けいれん発作を止める効果のあるケトン食療法を行うことがあります。ケトン食療法とは、食事の中で糖質や炭水化物を減らし、脂肪でエネルギーを補給する治療法のことです。ドラベ症候群では、ケトン食療法によるけいれん発作抑制効果が認められています。
ケトン食療法の導入には、保護者の努力が必要です。たとえば、学校に通っていればみんなと同じ給食を食べたがることもあります。また、知的障害がみられる場合、食べてはいけないものを伝えても食べてしまうこともあります。これらのため、ケトン食療法を継続するためには、ご家族の努力も必要になります。
記事1でお話ししたように、ドラべ症候群は、入浴や発熱など体温の上昇によってけいれんが起こりやすくなります。そのため、入浴時のお湯の温度を38度以下にしたり、浴槽には入らずシャワーだけにするなどを心がけることが、けいれんを防ぐことにつながります。
また、予防接種後の発熱がきっかけとなり、けいれんが起こる可能性があります。そのため、ドラべ症候群の方へ予防接種を行うときには、事前にけいれんが生じる可能性を考えることが必要です。けいれんを止める坐薬の準備や、けいれんが止まらなくなったときに受診する病院を決めておくなどの準備が大切になります。
ドラべ症候群の患者さんの中には、光刺激がきっかけとなりミオクロニー発作(そして大発作に至る場合も)を起こしてしまう方がいます。そのため、患者さんによっては、外出時にはサングラスや帽子などで光を遮断する必要がある場合もあります。
ドラべ症候群の患者さんは、てんかん発作や知能の遅れのために、保育園や幼稚園ではなく療育センター*に通うケースが多いと思います。
しかし、可能ならば、保育園や幼稚園に通うことも検討していただければと思います。それは、保育園や幼稚園に通うことで、たくさんの言葉に触れることができ、お子さんの社会性や言葉の発達に役立つからです。
必ずしもスムーズに入園できる場合ばかりではありませんが、何かあったときに近くの病院が受け入れてくれるという条件で、ドラべ症候群の患者さんを受け入れてくれる場合もあります。もしも入園を希望する場合には、諦めずに受け入れてくれる幼稚園や保育園を探されてはいかがでしょうか。
ドラべ症候群には、患者さんのご家族が中心となり運営するドラべ症候群患者家族会があります。この患者家族会は、治療法や日常生活について相談できる場になっています。同じ悩みをもつ方たちの貴重な情報交換の機会になりますので、ご家族は連絡を取ってみるとよいと思います。
*療育センター:発達の遅れのある子どもへ訓練などを行う施設
けいれんを繰り返すなど病気を疑う症状があれば、早めに受診し、診断を受けてください。病気であることがわかれば、早期に治療に取り組むことができます。
しかし、ドラべ症候群の患者さんの中には薬による治療を行ったとしても、効果が現れない場合もあります。そのときには、医師と共に別の薬や治療法を検討してください。
けいれんを繰り返したり知的障害が残ったりするという情報を聞き、不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、必ずしも重症化する方ばかりではありません。ドラべ症候群であっても、治療によってけいれんが数か月にわたり止まる場合もあります。さらに、知的障害があっても言葉を話し、会話することができる方もいらっしゃいます。
もしも、身近な方がドラべ症候群で不安があったとしても、積極的に主治医と共に治療に取り組んでください。また、可能であれば本人の生活をなるべく制限することなく、遊びや旅行も行っていただきたいと思います。
重症児・者福祉医療施設「ソレイユ」川崎小児科 副施設長、 聖マリアンナ医科大学 小児科 客員教授、東京医科大学小児科 兼任教授、東京都立東大和療育センター 非常勤医師
日本小児科学会 小児科専門医・出生前コンサルト小児科医日本小児神経学会 小児神経専門医・名誉会員日本てんかん学会 てんかん専門医・てんかん専門医指導医・名誉会員日本臨床神経生理学会 認定術中脳脊髄モニタリング認定医・指導医(脳波分野)・指導医(筋電図・神経伝導分野)日本重症心身障害学会 理事・評議員米国てんかん学会 フェロー(FAES)
小児神経科の医師として、主に難治性てんかんやけいれん重積の治療、重症心身障害医療、神経難病などを専門としている。豊富な知識と経験、高い技術とともに、じっくりとした診療で患者さんやそのご家族から信頼を集めている。
須貝 研司 先生の所属医療機関
「ドラベ症候群」を登録すると、新着の情報をお知らせします