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患者さんと医療機関・企業をつなぐ両立支援コーディネーターの役割とは?両立支援にかける思い

患者さんと医療機関・企業をつなぐ両立支援コーディネーターの役割とは?両立支援にかける思い
豊田 章宏 先生

豊田 章宏 先生

住吉 千尋 さん

独立行政法人労働者健康安全機構 中国労災病院

住吉 千尋 さん

河野 紫織 さん

独立行政法人労働者健康安全機構 中国労災病院

河野 紫織 さん

目次
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この記事の最終更新は2019年06月06日です。

記事1」では、脳卒中の患者さんへの両立支援や両立支援コーディネーターの重要性について、労働者健康安全機構中国労災病院治療就労両立支援センター所長/第二リハビリテーション科部長の豊田章宏先生にお話しいただきました。引き続き記事2では、豊田章宏先生と、同院で両立支援コーディネーターとしてご活躍されている住吉千尋さん、河野紫織さんのお三方に、両立支援における実際の流れや工夫、コーディネーターとしての思いをお話しいただきました。

コーディネーター
写真左:河野さん、写真中央:住吉さん、写真右:豊田先生

住吉さん:

当院の場合、リハビリテーションスタッフが治療の早期段階から患者さんと関わっているため、両立支援コーディネーターはリハビリテーションスタッフから依頼を受けて患者さんとお会いするケースが多いです。もちろん、主治医や看護師からの依頼を受けて患者さんとお会いする場合もあります。

両立支援の進め方としては、まず患者さんの抱えていらっしゃる悩みや思い、不安なことなどをお伺いして、コーディネーターとして何ができるかを患者さんと相談しながら、お手伝いする内容を一緒に考えていきます。基本方針が定まったら、患者さんへのフォローを開始します。

豊田先生:

両立支援コーディネーターは、まず患者さんの「思い」を聞きます。患者さんによって、困っていることや必要とするフォローの内容は異なります。患者さんに寄り添ってあらゆる支援を進めるためにも、まずは患者さんの思いや価値観、考え方をコーディネーターが理解することが大事です。

患者さんのなかには、職場に遠慮する気持ちが強く、職場復帰したい気持ちがあるにもかかわらず、復帰をためらってしまう方もいます。不安や遠慮の気持ちから起こる不必要な退職を食い止められる存在こそが、病院に所属する両立支援コーディネーターだと考えます。ですから、なるべく早い段階で両立支援コーディネーターと患者さんがお会いできるように、私も意識しています。

住吉さん:

私は両立支援コーディネーターですが、ソーシャルワーカーでもあります。心理的サポートももともとソーシャルワーカーは普段から行っていて、これは両立支援コーディネーターとしても必要な支援のひとつだと考えています。患者さんに接する際は、悩みや不安をじっくりと聞かせていただいています。

回復期の脳卒中の患者さんに対しては、院外の就労支援機関やリハビリテーション専門施設と連携して、スムーズに移行できるように心掛けています。

施設に実際に足を運び、患者さんの状況確認や、担当者との情報共有を行ったり、逆に施設からご相談いただく形で施設に伺ったりすることもあります。両立支援をスムーズに行うためには、医療機関と院外連携施設で顔のみえる関係性を作ることも必要だと考えています。

このほか、住宅ローンの問題が起きた場合は銀行に、自動車運転の再開が問題になっている場合は自動車学校や免許センターに行くこともあります。復職後の通勤に問題がないか、患者さんの自宅から職場まで公共交通機関を使って移動してみることもあります。患者さんの抱える問題や悩みごとに応じて、そのときそれぞれの課題に合わせた支援を行っています。

両立支援コーディネーターとしての仕事は片手間にできる範囲の仕事ではありません。先ほどお話ししたように、患者さんの状況に応じて外出する頻度も多く、1人の患者さんにかける時間も長く必要となることが多いです。両立支援を行って患者さんが職場復帰できた後も、当院の場合は1年程度定着確認の期間を設けているので、なかには支援開始から3年以上のお付き合いとなる患者さんもいます。

住吉さん:

患者さんご本人がご自身の障がいに気づかないまま、「自分は支援を受けなくても大丈夫」と考えていらっしゃることがあります。しかし、そのような患者さんが高次脳機能障害(脳に損傷を負ったことが要因で起こる認知障害)をきたしたことが、復職後に問題となり、対応が必要になったケースは珍しくありません。

脳卒中を発症した患者さんで障がいが残存している方や、復職前の時点で勤め先での配慮が求められると想定できる方の場合は、必要に応じて勤め先の担当者と連絡を取り合い、患者さんの病気や障がいについて共有させていただくこともあります。以前、両立支援コーディネーター、リハビリテーションスタッフ、脳神経外科の先生、企業の担当者によるカンファレンスを開催して、患者さんに合った仕事を検討したことがありました。カンファレンスでしっかりと話し合った結果、患者さんも勤め先もお互いの不安が解消され、患者さんにあった仕事内容で、患者さんが復職することができました。

豊田先生:

脳卒中の患者さんには、目に見える手足の麻痺以外に、高次脳機能障害やしびれ・痛みなどの後遺症が残ることがあります。こうした後遺症は目に見えないので、一般企業が障がいについて理解したり、病気と障がいを区別したりすることは難しいかもしれません。患者さんの障がいの程度や必要な配慮など、障がいと、障がいを抱えた方の就労に対する理解を社会全体で深めていくことが大事です。

住吉さん:

豊田先生のおっしゃるように、障がいへの理解がよりスムーズになれば嬉しいです。企業の規模や事業内容によっては、患者さんが働ける状態になっていても、職場復帰が難しい場合があります。障がいへの理解が社会的にもっと浸透して、その方に合った仕事を会社が検討できる社会になれば、両立支援はより普及していくのではないかと考えています。

当院所在地である広島県では、自動車運転の再開もクリアしなければならない課題のひとつです。東京などの都会では公共交通機関が発達しており、職業ドライバーの方に対する自動車運転の再開の支援が中心となりますが、当院周辺では、ほとんどの住民が生活するために車を必要とします。広島県を含めて、地方に住む脳卒中の患者さんの自動車運転再開は考えるべき課題だと思います。

両立支援コーディネーター

住吉さん:

現時点では両立支援を受ける必要がない場合でも、患者さんには、気軽に相談できる窓口があることをお知らせしておくことが大切だと考えます。

当院では、担当医師や看護師の方々に、研修会などを通じて両立支援の相談窓口があること、早まって仕事を辞めてしまう前にまずは窓口を活用し、ご相談いただきたいことをお伝えいただくようにお願いしています。両立支援が必要になったときには、窓口の存在を思い出して、お気軽にご相談していただけると嬉しく思います。

住吉さん:

私は両立支援コーディネーターの一員として、「働きたい」という方の思いが叶えられる世の中になってほしいと考えています。

生きがい、お金を得る、社会参加など、「働きたい」と考える理由は一人ひとり異なります。現在の日本では、どのような理由であれ、一人ひとりの「働きたい」思いに対する受け皿がなかったり、進行性の病気であれば断られてしまったりすることがあります。これからは、よりいっそう、病気の治療と仕事の両立を目指す方々の「働きたい」という思いが叶う世の中になってほしいと願っています。

河野さん:

現在の日本では、両立支援の窓口となる場所は限られてしまっています。これからは場所を限定されずに、あらゆる場所で患者さんの思いを聞けるよう、両立支援が社会的に浸透して広がっていけば嬉しいです。

住吉さん:

仕事は生きるうえで非常に大切なことです。しかし、生活のことや趣味、お金のことなど、大切なことは、仕事以外にもたくさんあるかと思います。

両立支援コーディネーターは、患者さんに寄り添いながら、患者さんの困り事に応じてその都度何ができるかを一緒に考えさせていただきます。一人で抱え込みすぎず、どんな些細なことでもお気軽にご相談していただきたいです。病気になってからも、自分らしく生きるための方法を一緒に考えられるよう、お手伝いさせていただきます。

河野さん:

病気になってからのことは、患者さん一人だけではなく、家族や会社を含めて関係者全体で考えることが大事です。まずは周囲の方に相談してみてください。周りの方に患者さんの声を届けて、周囲を巻き込みながら今後のことについて考えていくことが大事です。不安なことや不明点があれば、両立支援コーディネーターが全面的にサポートします。

豊田先生:

患者さんには、病気になってもどうか諦めずに、今の状況でも可能な楽しい人生を送ることを考えてみてください。両立支援コーディネーターや私たち医師が、いつでもあなたのことを見守り支えます。

病気になってしまったからと、医師や勤め先に相談することを遠慮する必要はありません。むしろ、治療に専念するときは休んでよいのだという気持ちで、状態が落ち着けば、できることから社会参加を始めて自分らしく生きてください。

そのためには患者さんが自分自身の障がいを受容することも大切です。病気になってからもできること、逆にできないことを明確化して、できないことはできないと伝える強さも大切でしょう。

「かつてできていたことができない」ということはとても辛いことだと思いますが、無理をして再発したり、状態が悪化したりすることを、あなたも家族も職場も、誰も望んではいません。病気を背負ってからの人生を、頑張りすぎない範囲であなたらしく過ごしていただくことが、我々の願いです。

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