脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)は、突然発症し、治療後に手足のしびれや麻痺、言語障害などが残る恐れもある病気です。急性期治療と共にリハビリテーションが必要になることも多く、日常生活や仕事への復帰は、周囲と相談しながら進めることが大切です。労働者健康安全機構中国労災病院では、脳卒中をきたした患者さんに対して、治療と仕事の両立を目指す「両立支援」を積極的に行っています。本記事では治療就労両立支援センター所長/同院第二リハビリテーション科部長の豊田章宏先生に、脳卒中の患者さんへ両立支援を行うことの意義や経緯、両立支援コーディネーター養成に向けた取り組みについてお話しいただきました。
わが国の脳卒中後の復職率に関するまとまった例数での報告は少なく、報告者による差も大きかったのですが、平均で30~40%程度といわれていました。労働者健康安全機構は2004年より、労災疾病等13分野研究の1分野として脳卒中患者さんの職場復帰に関する研究を行ってきました。
この研究のなかで、2005年から2006年の1年間にかけて登録された464例の脳卒中リハビリテーション患者さんについて、脳卒中の発症直後から1年半後まで、復職に関する追跡調査を行いました。この結果、退職後新規就労と配置転換就労を含めた復職率は、51%にとどまることが明らかにされました。どのような支援が欲しいと感じたかについて患者さんにアンケートをとったところ、職業リハビリテーション連携や産業医連携という声が多数見受けられました。
そこから当機構では、患者さんが職場復帰するためには、患者さんと産業医・職場をつなぐ「両立支援コーディネーター(旧 復職コーディネーター)」の存在が必要であるという議論を交わしてきました。
2010年、厚生労働省の「治療と就労生活の両立支援事業」に関する受託研究が開始となりました。この受託研究では、2005年に実施された研究で挙げられた両立支援コーディネーターの存在の重要性をより探究するため、脳卒中患者さんに対する両立支援コーディネーター介入モデル事業を実施しました。この試行的介入の結果、患者さんの復職率が70%以上に向上したのです。
厚生労働省は、国として両立支援コーディネーターを計画的に増やす方針を定めています。2017年3月、「働き方改革実行計画」が公布されました。働き方改革実行計画では、病気の治療と仕事の両立を社会的に支援する仕組みの構築を目指して、両立支援コーディネーターを2020年までに2,000人養成する目標が掲げられています。
当機構では、厚生労働省から発出された通達に基づいた内容で、両立支援コーディネーターを養成するための基礎研修を実施しています。
基礎研修プログラムは1日かけて行われ、受講者は労務管理、社会資源、産業保健、基本的な医療の知識などについて学びます。プログラム終了後、受講者には受講修了証が授与されます。2019年5月現在、全国で約2500名が受講されていますがまだまだ足りません。全国各地のブロックごとに講師を配置できるよう養成もしているので、基礎研修はさまざまな地域で受けることができるようになります。
基礎研修のほか、本部では、応用研修を実施しています。応用研修は、基礎研修を受講したうえで、医療機関での両立支援業務に携わる方が対象です。脳卒中、がん、メンタルヘルス、糖尿病の4分野をそれぞれ想定した事例について検討・発表します。応用研修は基礎研修にくらべて、より実践的なプログラムといえます。
当機構は、がん・脳卒中・糖尿病・メンタルヘルスの疾患4分野をモデル事業に、両立支援のあり方を構築してきました。また、当院では脳卒中のモデル事業の中核施設として、脳卒中の患者さんを積極的に支援してきました。
2019年度からはこうした「モデル」を取り払い、病気の種類にかかわらず、治療と仕事の両立に困っている方であればどなたでも支援できる仕組みを作りたいと考えています。
脳卒中の患者さんで手足に麻痺という障がいが残っても、元気に生活しておられる方はたくさんいらっしゃいます。しかし実際には、「病気の状態」と「障がいがある状態」は、正しく区別されていないのが現状です。障がいが残っていても仕事に就きたい方に対して、早期段階から両立支援コーディネーターが寄り添い、必要な情報を患者さんや勤め先と共有できるようになれば、仮に勤め先に産業医や産業保健スタッフが在籍していない患者さんの場合も、職場復帰に向けて取り組むことができるのではないかと考えています。
「記事2」では、当院で活躍する両立支援コーディネーターを2名交えて、彼女たちが実際に行っている脳卒中の患者さんへの両立支援の事例や課題について、お話ししたいと思います。
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