概要
高次脳機能障害とは、脳卒中や事故などによって脳が損傷し、知的機能に障害が生じた状態です。
人間の脳は大脳、小脳、脳幹にわかれ、知的機能や運動機能、生命維持機能などの重要な役割を司ります。中でも大脳は脳の大部分を占めており、外部から受ける刺激や情報の処理、運動機能、感情のコントロールや物ごとの記憶などの知的機能を司ります。
大脳は前頭葉、後頭葉、側頭葉、頭頂葉の4つからなります。言語・思考・記憶・行為・学習・注意などに関わる機能を持ち、このような脳のはたらきを高次脳機能といいます。それぞれが持つ主な役割は以下のとおりです。
- 前頭葉……体を動かす指令を出す、感情や話す・書くなどの動作をコントロールする、物ごとを判断・記憶する
- 後頭葉……目に入る情報を認識・処理する
- 側頭葉……耳からの情報を認識・処理する、言葉を理解する、物ごとを記憶する
- 頭頂葉……刺激を感じ認識する、読み・書き・計算をするはたらきに関わる、後頭葉からの視覚情報や側頭葉からの聴覚情報を受けて情報を処理する
高次脳機能障害は脳の損傷される部位によって症状が異なりますが、もっとも多くみられる症状は相手の言っていることが理解できない、思うように話すことができないといった失語症です。治療は、言語療法や作業療法、理学療法での認知リハビリテーションが中心となり、脳の機能回復と症状の改善を目指します。
原因
高次脳機能障害は脳血管障害や頭部外傷、感染症など、さまざまな原因によって脳が損傷を受けることで生じます。
原因の多くは脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳血管障害です。次いで交通事故や高所からの転落などで頭を強く打つことで生じる頭部外傷、そのほか脳炎、脳腫瘍、低酸素脳症などが挙げられます。
症状
損傷を受けた部位によって言語・思考・記憶・行為・学習・注意などに関連する症状が現れ、日常生活や社会生活に支障を生じます。
失語・失行・失認
- 言葉がなかなか出てこない
- 読み書きができない
- 相手の話を理解できない
- 簡単な動作や一連の動作がうまくできない
- 見ているものや聞こえている音が何か分からない など
記憶障害
- どこに行ったか、何をしたか、何を食べたかを忘れる
- どこに物を置いたかを忘れる
- 新しいできごとを覚えられない
- 何度も同じことを言う、何度も同じ間違いをする
- 忘れていることに気が付かない など
注意障害
- ぼんやりとしていてミスが多い
- 複数のことを同時にすると混乱する
- 周囲のことにすぐ気をとられ落ち着かない
- 人の話を聞きながらメモを取ることができない
- 周りの状況に気が付かない など
遂行機能障害
- 計画を立てて物事を遂行できない
- 人に指示されないと行動できない
- 約束の時間に間に合わない
- 仕事を途中で投げ出してしまう など
社会的行動障害
- 興奮しやすく大声を出したり暴力的になったりする
- 自己中心的な行動をとる
- パニックになりやすい
- 目の前に欲しい物やしたいことがあると我慢できない
- 1つのことに対するこだわりが強くなる など
検査・診断
現れている症状と、それによって日常生活や社会生活に支障が生じていないかを確認します。原因となる脳の病気がないかを調べるためには頭部CTや頭部MRIなどの画像検査や、頭皮に電極を装着して大脳の活動状態を調べる脳波検査などを行います。また、神経心理学的検査という高次脳機能障害がどの程度の状態なのかを評価するための検査を行い、最終的に症状、画像検査、神経心理学的検査の結果から総合的に診断します。
治療
高次脳機能障害の治療は、言語療法や作業療法、理学療法などによる認知リハビリテーションが中心となります。高次脳機能障害自体の改善を目的としたリハビリテーションと、失ってしまった機能を代償するリハビリテーション(たとえば記憶障害に対しては重要なことや予定などを書き留めておくメモリーノートの使用など)を組み合わせて行います。
高次脳機能障害は患者本人が病気を十分理解することが難しく、また、外見上分かりにくいために周囲から理解されづらいといった側面があります。そのため周りの人が病気を正しく理解し、患者本人ができることとできないことをしっかりと把握したうえで、必要に応じてサポートすることが大切です。
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