横浜市立大学附属市民総合医療センターは、三次救急医療を担う高度急性期病院としての機能を備え、市民の方々を支えています。同病院の薬剤部では、患者さんたちが安心して治療を受けられるような取り組みを行い、日々の業務に尽力しています。
前編では薬剤部の業務や取り組みについてお話していただきました。本記事では、薬剤部長の橋本真也さんと、薬剤部 担当係長の小杉三弥子さんに、専門/認定薬剤師の活動や、地域における安心、安全な薬物療法の提供に向けた“薬薬連携”の取り組みについてお話しいただきます。
専門薬剤師および認定薬剤師とは、特定の医療領域に専門性を持ち、日本病院薬剤師会をはじめとする各団体や学会などから認定された薬剤師です。たとえば、がん専門薬剤師(日本医療薬学会認定、以下同)や、がん薬物療法認定薬剤師(日本病院薬剤師会認定、以下同)などの種類があります。
当院にはさまざまな分野における専門/認定薬剤師が在籍しており、感染症や緩和ケアなど専門的な薬物療法を必要とする場合に、それぞれのチームに各領域の認定薬剤師が入ります。たとえば、がん性疼痛(がんによる痛み)に対して医療用麻薬といわれるオピオイド鎮痛薬を使う場合がありますが、オピオイド鎮痛薬の適切な量はケースによって異なります。そのような場合に、緩和薬物療法認定薬剤師(日本緩和医療薬学会認定、以下同)が介入し、患者さんの様子を確認しながら、薬の量や種類、ほかの薬剤との組み合わせなどに関して意見することがあります。
記事1でお話しした外来業務に関連しますが、当院は“薬剤師外来”を設置しています。
薬剤師外来では、主にがん患者さんを対象として、がん薬物療法認定薬剤師が面談を行います。化学療法(抗がん剤による治療)を行う場合には、薬の用量や副作用対策などを医師と共有し、必要に応じて提案も行います。たとえば、面談時のヒアリングで患者さんが「制吐薬を飲んでもまだ吐き気がつらい」とおっしゃるときには、薬剤師から担当医に薬の追加や変更などを提案することがあります。これにより担当医が患者さんの状況を把握でき、処方を決定する助けにもなります。また、患者さんに対して薬に関するアドバイス(服用のタイミングや飲み方など)を行うこともあります。
このような取り組みの主な目的は、治療の副作用を軽減して可能な限り患者さんの負担を抑えること、そして患者さんご自身がセルフケアを行うためのサポートをすることです。
患者さんの背景を考慮したうえで適切なケアを行ったり医師と連携したりするという業務には、まさに“薬の専門家”としての能力が求められますし、責任も大きいです。しかし、患者さんが安心して治療を受けるために欠かせないものであり、大切な業務です。
近年、がん患者さんの平均在院日数が短くなっている一方で、外来患者数は増加しています。つまり、通院しながら治療を受けるがん患者さんが増えているということです。
このような流れのなかで、私たちは、患者さんに安心、安全な薬物療法を提供することを目指し、“薬薬連携”の取り組みを行っています。薬薬連携とは、薬局薬剤師と病院薬剤師の連携(つまり、外来と入院における服薬情報の連携など)を指します。その具体的な取り組みについてご紹介します。
通院で化学療法を受ける方のために、がん化学療法に関する情報をお薬手帳に記載しています。調剤薬局でもらう薬の情報シールと同じように、当院で受けた点滴などの情報を貼ることで、患者さんが病院でどのような治療を受けているのか、その内容と履歴を薬局の薬剤師が把握することができます。その結果、病院で受けた注射剤と処方された内服薬の相互作用がチェックでき、適切な服薬指導につながるのです。
地域の薬局と協力して、トレーシングレポートを通じた情報共有を行っています。トレーシングレポートとは、薬局で患者さんから聞き取った情報(指示を守って服薬しているか、残薬調整、健康食品の服用など)を医師へフィードバックするレポートです。これにより、病院(医師、薬剤師)と薬局薬剤師が連携し、よりよい治療を目指しています。
“レジメン”とは、治療に用いる抗がん剤の種類や量、投与する期間、手順などを時系列で細かく示した計画書です。レジメンは非常に重要な情報である一方、病院が共有をしなければ薬局の薬剤師は分からない情報のひとつです。実際、薬局とレジメンを共有している病院は5%ほどしかなく、薬局の薬剤師ががん患者さんの対応に当たり不足している情報として、“レジメンごとの内服期間や休薬期間などのスケジュール”がもっとも多く言及されています。
このような背景から、当院では、倫理委員会の審査を行ったうえで、がん化学療法のレジメン情報と治療概要、薬局で説明するべき事項を、薬剤部のホームページで公開しています。これにより薬局の薬剤師が化学療法の詳細を把握することができ、適切な服薬指導が可能になります。
当院では、患者さんの身体情報や検査値などを処方箋に記載することで、薬局の薬剤師が患者さんの状態と処方内容の関連性を把握できるようにしています。これにより、薬局の薬剤師は、より精度の高い処方チェックが可能になりますし、処方内容の裏付けとなる情報(たとえば、病院側が腎機能の低下を考慮して当該処方内容を決定したことなど)を得られるので、薬局から病院への不要な問い合わせを削減できます。これは、病院と薬局間の信頼性を保つこと、緊急性、重要度の高い問い合わせを拾い上げることに大切な役割を果たしているでしょう。
当院は2018年に、院外処方箋の問い合わせの一部を不要とするPBPM(Protocol-Based Pharmacotherapy Management)契約を横浜市南区薬剤師会と締結しました。
これにより、横浜市南区薬剤師会に所属する薬局は、薬の銘柄や剤形を始めとする規約内の変更に関して、医師への問い合わせを省略し、薬剤師の判断で処方の修正が可能になりました(ただし、必ず処方変更報告書の提出が必要)。たとえば、嚥下機能(食べたり飲み込んだりする機能)が低下している患者さんへの処方薬の形状を、錠剤ではなくOD錠(口腔内崩壊錠:口の中に入れると唾液で溶けるタイプの製剤)や粉薬に変更することができます。
PBPMの適切な運用は、医師と薬剤師の負担を軽減し、また、患者さんの待ち時間短縮につながると期待されています。
私はもともと薬局の薬剤師として2年間働き、その後、病院で働くようになりました。ですから薬局と病院の薬剤師の仕事を知っているつもりですし、お互いの得手・不得手も分かります。病院の薬剤師は患者さんの診療の現場に携わり、カルテ情報などを総合して処方の最適化に努めています。一方、薬局の薬剤師は地域に根ざし、患者さんの生活背景を把握したうえで、患者さんに寄り添い最適な医療を提供できるように努めています。また、保険医療制度に明るい方も多いです。そのようなお互いの特色を尊重し、しっかりと連携を取ること、そして患者さんが安心、安全な薬物療法を受けられるような環境をつくりあげること、それが今の私たちに課せられた大切な使命だと思っています。
私は病院の薬剤師なので、患者さんと接する機会は病棟や外来などに限られていますが、当然のことながら、患者さんは病棟だけでなく、退院後にも自宅で薬物療法を継続しながら生活されます。ですから、決して“退院して終わり”ではなく、患者さんの生活を考慮したサポートをする必要があります。そのためには、地域の薬局との連携が重要なのです。私たち薬剤師の一人ひとりがそのような考えを忘れず、これからも残された課題の解決に尽力したいと考えています。
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