横浜市立大学附属市民総合医療センターは、三次救急医療を担う高度急性期病院としての機能を備え、市民の方々を支えています。同院の薬剤部では、患者さんが安心して薬物療法を受けられる環境づくりを目指してさまざまな取り組みを行い、日々の業務に尽力しています。
薬剤部長の橋本真也さんと、薬剤部 担当係長の小杉三弥子さんに、薬剤部の理念や、安全、安心な薬物療法を提供するための取り組みについてお話いただきました。
横浜市立大学附属市民総合医療センターの薬剤部では、現在53人の職員(非常勤を含む)が働いています(2020年1月時点)。調剤、薬品管理はもちろん、患者さんに薬の飲み方や副作用に関する説明を行ったり、医師や看護師といった医療スタッフへ薬に関する情報を提供したり、薬物療法に関わるさまざまな業務を担う存在です。
さらに、入院されている方だけではなく外来で通院される方々が適切な治療を受けられることを目指し、地域の薬局との連携(薬薬連携)にも力を入れています(詳しくは記事2をご覧ください)。この背景には、がんによって継続的な治療を受けながら生活する市民の方の増加があります。
私たちは、“薬の専門家として患者さんが安心して治療を受けられる環境をつくる”を理念に掲げています。薬の専門家、責任者として、質の高い薬物療法を提供するためにできることを日々考え、業務に落とし込んでいます。
たとえば、抗がん剤による治療では副作用について不安を抱える患者さんがいらっしゃいます。そのようなときには、制吐薬(吐き気止めの薬)で吐き気を抑えることに努めるとともに、患者さんが不安に感じる点は十分に説明します。患者さんの抱える悩みをできるだけ取り除き、安心して治療を受けられる環境をつくりたい、という思いがあります。
薬剤部の業務は大きく2つに分類されます。1つは、“中央業務”とも呼ばれる一般的に知られている薬剤師の業務で、処方に基づき薬を用意する仕事です。また、入手した医薬品情報のチェックや院内への発信、医師や看護師からの薬に関する質問に答えるのも重要な仕事です。そのほかにも、医薬品の管理、病院情報システムのマスタ管理など、薬剤部の業務は多岐にわたります。
もう1つは、“病棟業務”です。患者さんのベッドサイドに伺って服薬指導を行ったり、病棟で医師、看護師と共に患者さんの薬物療法の内容を検討したりします。患者さんの薬物療法について医師や看護師、栄養士などの専門家が集まって考え、治療方法を決定するなかで、薬剤師は薬の専門家として、薬の選択や投薬方法について意見を出します。このような多職種によるチーム医療を通じて、患者さんが安心、安全な治療を受けられる環境づくりを目指しています。
最近では、この2つに加えて、“薬剤師外来”を始めました。外来では、がん治療を受けている患者さんとの面談時間を設け、副作用などさまざまな情報を聴き取ります。「手がガサガサになってきた」などの相談があったときは、生活への影響を確認し、改善方法を患者さんと一緒に考えます。お薬の使用・服用方法を指導し、そのうえで必要に応じて医師にお薬の変更・追加などの処方提案を行います。
より安心で安全な薬物療法の提供を目指して、特殊な治療を必要とする方や症状が重い患者さんの場合、必ず薬剤師もカンファレンスに参加するようにしています。たとえば、腎移植では移植後に免疫抑制剤の服用が必要であるため、薬の内容や飲み合わせなどについて話し合います。がん治療でも同様です。
薬剤部では日々数多くの薬剤を扱うため、ヒューマンエラーを防ぐことが非常に重要です。そのためにシステムを整備し、機械的にエラーを防ぐ取り組みもしています。
たとえば、電子カルテで薬を処方する際の間違いをなくすために、マスタ上の登録、検索条件などを工夫しています。薬にはたくさんの種類があり、似ている名称も多いです。一例として、アテノロール(不整脈用剤)とシルニジピン(血圧降下剤)は最初の2文字が同じですが、主たる薬効が異なります。そのため、マスタで3文字以上入力しないと検索できないように設定することで、エラーの予防に努めています。さらに、14日分までしか処方できない薬であれば、それ以上の日数を選択できないよう設定する、併用が禁忌とされている薬は同時に入力できないようにするなど、エラーを未然に防ぐ工夫を重ねています。
プレアボイドとは、“Prevent and avoid the adverse drug reaction”という言葉を基にした造語で、“薬による有害事象を防ぐ”という意味があります。
日本病院薬剤師会では、薬剤師が薬物療法に直接関与し、薬学的な視点からケアを実践して患者さんの不利益(副作用、相互作用など)を回避、あるいは軽減した事例をプレアボイドと呼び、報告を収集しています。
当院ではプレアボイドの考え方に基づき、患者さんの様子や過去の薬歴、副作用歴などから処方された薬のリスクに気づいた事例を日本病院薬剤師会に報告しています。このような事例を蓄積し、薬剤師間で共有することで、院内の薬剤師の能力が向上したり、処方チェックの視点が広がったりすることを期待しています。
次の記事では、本記事の後編として、チーム医療への関わり方や地域薬局との連携についてお話します。
橋本 真也 さんの所属医療機関
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