概要
リーシュマニア症とは、寄生虫の一種であるリーシュマニア原虫に感染することから引き起こされる病気を指します。病原体を媒介するサシチョウバエに刺されることから、人はリーシュマニア原虫に感染します。
リーシュマニア症は風土病としての性格を示しており、地中海沿岸、東南アジア、東アフリカなどの各国においてみられる病気です。リーシュマニア症は世界で年間70−100万人の方において発症しており、うち2-3万人ほどがなくなっていると推定されています。世界のなかでも貧しい地域でみることが多く、適切な医療を受けることなく死に至る方もまれではありません。診断から治療について病気が流行する発展途上国において医療環境が整っているとはいいがたく、今後とも根絶を目標とした努力が必要とされる病気であるといえます。
原因
リーシュマニア症は、リーシュマニア原虫と呼ばれる寄生虫に感染することから発症する病気です。リーシュマニア原虫は、サシチョウバエに寄生しており、環境衛生が整っていない地域においてサシチョウバエに人が刺されることから病原体に感染することになります。ただし、リーシュマニア原虫に感染したすべての人において病気が発症する訳ではなく、実際に症状を呈する人は少数であると考えられています。
リーシュマニア症は障害を呈する部位に応じて、内臓リーシュマニア症、皮膚リーシュマニア症、皮膚粘膜リーシュマニア症、の三つに分類することができます。このなかでも最も多いのは皮膚リーシュマニア症ですが、致死的になりうるのは内臓リーシュマニア症であり、別名「カラアザール」の名称でも知られています。
内臓リーシュマニア症は、バングラデシュやインド、ネパールなどを代表的に年間推定20-40万人の患者さんが発症していると考えられています。内臓に存在するマクロファージにリーシュマニア原虫が感染することが原因となって、発症すると考えられています。
皮膚リーシュマニア症は、アフガニスタン、アルジェリア、ブラジルなどの地中海沿岸から中東、南アメリカ大陸でみることが多く、推定60-100万人の新規発症があると推定されています。
リーシュマニア症は、サシチョウバエに刺されるという感染経路を有することから、媒介者が多く生息する環境地域において多く発症することになります。具体的には、貧困や都市計画が進み始めた地域、栄養失調などが発症に対してのリスクファクターであると考えられています。
症状
リーシュマニア症では、症状を呈する臓器に応じてさまざまな症状を呈することになります。
内臓リーシュマニア症では、原因となるリーシュマニア原虫に感染して数か月から数年で症状が出現します。発熱、体重減少に加えて肝臓や脾臓の腫大、貧血、免疫不全が出現し、無治療の状態では致死率は100%であると報告されています。
リーシュマニア原虫が感染するマクロファージは皮膚にも存在しており、感染後数週間から数か月の期間を経て皮膚の腫脹を呈するようになります。皮膚の損傷は強く、痛みを伴う潰瘍を形成し瘢痕形成に至ります。
皮膚リーシュマニア症に関連して、病原体に感染したマクロファージが粘膜へと移動して粘膜病変を発症することもあります。鼻や口の粘膜で病変が生じ、鼻血や粘膜破壊を伴うことがあります。
なお、HIVとの重複感染を起こした際には重篤化しやすく死亡率が高いことも知られています。
検査・診断
リーシュマニア原虫は、病変部位におけるマクロファージに寄生しています。そのため、リーシュマニア症の診断においては、病変部位(皮膚や粘膜、リンパ節、肝臓や脾臓、骨髄など)の検体を採取して顕微鏡的に病原体を同定することからなされます。また、内臓リーシュマニア症では血液検査を行い病原体に対しての抗体を測定したり、病状評価のために赤血球や白血球などの測定を行ったりすることもあります。
治療
リーシュマニア症の治療に際しては、発症した地域、原因となっている原虫のタイプ、症状を引き起こしている臓器、年齢、患者さんの健康状態など各種要因を加味して治療方針が決定されます。実際の治療に際して使用される可能性がある薬剤としては、アムホテリシンB、ペンタミジン、アゾール系(ケトコナゾール、イトラコナゾールやフルコナゾールなど)、パロモマイシン、SSGなどがあります。また、HIVとの重複感染により、リーシュマニア症の重症度が上がることも知られています。そのため、HIVをコントロールするための治療介入も必要となります。
リーシュマニア症は、治療的な観点はもちろんのこと、流行を抑えるような予防的なアプローチを行うことも重要になります。媒介者となりうるサシチョウバエを駆除する努力も必要ですし、病気が発症した際には流行を抑制するためにも正確なサーベイランスを行うことも求められます。
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