近年、医療の世界ではさまざまな分野のガイドラインが作られ、活用されています。活用される理由として、ガイドラインは科学的エビデンス(根拠・証拠)に基づいた検査や治療、予防法が記載されているからです。
今回は、愛知県がんセンター中央病院乳腺科部長兼副院長で、2018年版の乳癌診療ガイドライン作成委員会の委員長でもある岩田広治先生に、ガイドラインが作られる目的や、乳癌診療ガイドラインの作成手順についてお話しいただきました。
医療におけるガイドラインとは、エビデンス(根拠・証拠)に基づいた、もっとも効果があるとされる標準的な検査、治療、予防といった事柄が記載されたものです。
ガイドラインが作られるまでの治療は、エビデンスに基づいたものではなく、経験が豊富で地位の高い医師の意見だけで治療方針が決まってしまうケースも少なくありませんでした。そのため、本当に効果があるのか、安全なのかという重要なことが曖昧なまま、治療が行われていました。しかし、ガイドラインが医療の世界に入ってきたことにより、エビデンスに基づいた効果の高い標準的な医療を、多くの患者さんに提供できるようになりました。
ガイドラインを作成する目的としては、第一に、しっかりとしたエビデンスに基づいた治療を提示するということが挙げられます。
また、乳癌診療ガイドラインの場合、乳がんの専門医ではない方でもガイドラインを参照すれば、乳がんの診療方法が分かるように作られています。このように、専門医以外の方々でも、その病気に対してある程度の治療方針を理解できるようにすることで、医療の均一化を図るということも、ガイドラインを作成する目的です。
ガイドラインに載っていない治療法は、安全性が確立された本当に効果のある治療法なのかという大切なことが、まだはっきりとは証明されていないものです。しかし、ガイドラインに記載されている治療法は、すでに世界中の検証データで安全性と効果が証明されている治療法です。そのため、ガイドラインに基づいた治療を行うことで、100%とはいえませんが、多くの患者さんの予後をよくすることが可能となるのです。
患者さんの中には、「標準的な治療」というと、並みの治療であり、松竹梅の中では梅であると考えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。しかし、私たち医師が、ガイドラインの中で使っている標準的な治療とは、今現在できる治療法の中で最善のものを指しています。そのため、医師が「標準的な治療」と言っていたとしても、決して心配する必要はありません。
日本の乳癌診療ガイドラインの始まりは、2002年に作成された『厚生労働省科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン作成に関する研究』でした。このガイドラインが作成されて以降、日本乳癌学会によって、2年ごとにガイドラインの改訂作業が行われています。
現在は、2015年版のガイドラインが発売中であり、2018年版のガイドライン作成に取り組んでいる最中です(2018年版の乳がん診療ガイドラインについては記事2『患者さんと医師が治療方針を決める材料となる 2018年版乳癌診療ガイドラインの特徴とは』をご参照ください)。
2015年までの乳癌診療ガイドラインの作成手順は、大きく4つの段階に分けられ、約1年かけて作られました(詳しい作成手順については日本乳癌学会乳癌診療ガイドラインのHP「http://jbcs.gr.jp/guidline/」をご参照ください)。
クリニカルクエスチョン(CQ)とは、臨床的な疑問のことです。ガイドラインを作成する際は、まず、“薬物治療”“外科的療法”“放射線療法”“疫学・予防”“検診・画像診断”“病理診断”の6つの分野に対して、ガイドラインに記載する重要なクリニカルクエスチョンを選出します。
次に、選出したクリニカルクエスチョンに関連するキーワードから、文献を検索していきます。できる限り漏れが出ないように、網羅的な文献検索を行います。ガイドライン作成委員会の委員は、1人あたり複数のクリニカルクエスチョンを担当します。
検索された文献を吟味し、それを基にクリニカルクエスチョンの解説を作成します。
上記の流れで作成した試案を、作成した委員とは別の委員の医師が評価し、領域のメンバー全員で内容を議論したうえで修正を行い、最終版を完成させます。
乳がんの診療は、多くの場合外来診療です。そのため、外来の診療室にガイドラインを置きながら、その都度、ガイドラインをチェックし、患者さんに必要な治療方法を説明しています。
また、乳癌診療ガイドラインは、薬物治療だけでなく、外科療法、放射線療法、検査・診断・予防・疫学の範囲まで幅広く記載されています。そのため、がんを発症していない検査の段階から、さまざまな治療の場面、治療が終了した後の再発予防でもガイドラインを使えるようになっています。
医師だけでなく、乳がん治療にかかわる看護師や薬剤師も使用しています。そして、自分たちが行っている治療は、しっかりとしたエビデンスに基づいたものなのかということを、ガイドラインを活用しながら確認して、日々患者さんの治療にあたっています。
日本乳癌学会では、2017年現在、2018年版の乳癌診療ガイドラインの作成を進めています。2018年版は、2015年版の作成方法とは異なる手法で、より患者さんのためになるガイドラインを目指しています。記事2『患者さんと医師が治療方針を決める材料となる 2018年版乳癌診療ガイドラインの特徴とは』では、2018年版乳癌診療ガイドラインの特徴や作成方法について詳しくご説明します。
愛知県がんセンター 副院長兼乳腺科部長
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