概要
多発性汗腺膿瘍とは、主に乳幼児の顔や頭、背中、お尻などにみられる皮膚の感染症です。一般的には「あせものより」と呼ばれる皮疹であり、あせもに細菌感染が併発することで生じます。
皮疹は膿を持ち、痛みがあるため乳幼児は機嫌が悪くなったり、母乳やミルクの哺乳量が減少したりすることもあります。多くは適切な抗菌薬の内服で治りますが、重症なケースでは切開して膿を排出する治療が必要になることもあります。
多発性汗腺膿瘍に先行するあせもは、夏場など汗のかきやすい環境下では多くの乳幼児にできるものであり、多発性汗腺膿瘍に移行しないように適切な対応が必要となります。
原因
人の皮膚には汗腺と呼ばれる構造があります。汗腺は、全身に広く分布して汗を排出するエクリン汗腺と、脇の下や乳輪、陰部などの限られた部位にのみ分布して元来フェロモンという臭い物質を排出する機能を持つアポクリン汗腺に分けられます。
この2つのうち、エクリン汗腺は発汗によって体温調節を行う重要な役割を担っており、真皮から始まって表皮を通り、皮膚に開口する構造をしています。通常、エクリン汗腺が閉じることはありませんが、乳幼児はその構造やはたらきが未熟なため、汗が皮膚表層の角質層の内部や表皮内に溜まり、汗腺を閉塞させることがあります。
閉塞したエクリン汗腺は炎症が生じやすく、1~2mmほどの小さな赤い皮疹が形成されることがあります。この皮疹は汗疹とよばれ、いわゆる「あせも」として知られています。
多発性汗腺膿瘍は、この汗疹を掻きむしった際などに、エクリン汗腺の内部に皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌が感染することで生じる皮疹です。
症状
主に乳幼児の顔、頭、背中、お尻に、膿を溜めた1cmほどの皮疹が多発します。色調は赤く、皮疹の周囲が赤みを帯びていることもあります。痛みを伴い、押すと痛みが強くなるのが特徴です。皮疹は、発症後は硬い塊として触れますが、膿が多く溜まるようになるとブヨブヨとした水っぽい触感になります。
感染による炎症が重度な場合には、発熱やリンパ節腫脹などの一般的な感染兆候がみられることがあります。治療が行われずに放置されると、膿瘍が大きくなって、真皮の深くや、皮下組織にまで到達することもあり、治癒後にくぼみのような瘢痕をのこすことも少なくありません。
言葉を話せない乳幼児に生じた際には、不機嫌や夜泣き、哺乳力の低下などがみられます。
検査・診断
多発性汗腺膿瘍は、視診にて皮膚の状態を観察することにより診断が下されることがほとんどです。しかし、毛包炎などの他の化膿性皮膚疾患との鑑別が必要になることもあります。多発性汗腺膿瘍は、皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌が感染することで生じる皮疹であるため、膿瘍から摘出した膿を培養し、黄色ブドウ球菌の存在を確認することで鑑別を行います。
治療
多くは、黄色ブドウ球菌に有効な抗菌薬の内服と塗り薬で改善します。しかし、貯留した膿が多く、自然に排出される可能性が低いと考えられる場合には、皮膚を切開して膿を排出させる切開排膿が行われます。
また、室温調節やこまめな着替えなどで、汗が溜まりにくい環境を心がけることも大切です。入浴時の丁寧な洗浄で患部を清潔に保つことや、乳幼児の爪を短く切るなどの対策も重要です。
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