概要
尋常性魚鱗癬とは、皮膚の表面が乾燥してフケのようにポロポロと剥がれ落ちるようになる皮膚の病気です。皮膚の水分を保つのに必要な“フィラグリン”というタンパク質を作るための遺伝子に異常が生じることが原因とされています。
発症すると四肢の伸側や体幹などが乾燥して角質が魚のうろこのように蓄積し、剥がれ落ちるようになりますが、魚鱗癬の中では症状は軽度で自覚症状がないケースも少なくありません。
一般的に、尋常性魚鱗癬は乳幼児期に発症し、大人になると軽快するケースが多いとされています。現在のところ根本的な治療法はなく、保湿薬やビタミンD3外用薬などを用いた対症療法が行われます。
原因
尋常性魚鱗癬は、角層の形成にはたらくフィラグリンというタンパク質を作る遺伝子に異常が生じることで発症するとされており、常染色体半優性(顕性)遺伝という形式をとる遺伝性疾患です。また、フィラグリン(FLG)遺伝子の両方の対立遺伝子(アレル)に変異遺伝子を持つ患者は症状が強くなることが分かっています。
フィラグリンは皮膚の保湿に関わる重要なタンパク質であり、遺伝子の異常によってフィラグリンがうまく作られなくなると、古くなった角質が皮膚から剥がれ落ちにくくなり、皮膚のバリア機能が破綻して乾燥を引き起こします。
症状
特に肘や膝、手足の甲といった四肢伸側や背部の皮膚が強く乾燥することで、角質が魚のうろこのように蓄積し、蓄積した角質が少しずつ剥がれ落ちます。加えて、多くの場合で掌紋がより深くなりますが、こうした症状は夏になると軽快します。まれにかゆみを伴うこともありますが、自覚症状がないケースも少なくありません。
なお、尋常性魚鱗癬の原因となる遺伝子変異*はアトピー性皮膚炎の発症リスクの1つであることから、尋常性魚鱗癬はアトピー性皮膚炎を合併しやすいといわれています。
*アトピー性皮膚炎患者の20~50%はフィラグリン遺伝子変異をもっていることが分かっている。
検査・診断
尋常性魚鱗癬は皮膚の見た目や症状などから診断されますが、魚鱗癬には尋常性魚鱗癬以外にもいくつかのタイプがあるため、鑑別のために以下のような検査を行うことがあります。
皮膚病理検査
皮膚の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べる検査です。尋常性魚鱗癬では角層が過剰に厚く、顆粒層が薄くなるなどの所見を確認できます。
遺伝子検査
ほかの病気と鑑別するために遺伝子検査を行うことがあります。尋常性魚鱗癬ではフィラグリン遺伝子の変異が認められます。
治療
尋常性魚鱗癬の根本的な治療は現在のところ確立しておらず、症状を緩和するための対症療法が主体となります。
具体的には、尋常性魚鱗癬は皮膚のバリア機能が破綻して乾燥が生じるため保湿薬や尿素薬が使用されます。また、皮膚の角化を抑える作用がある活性型ビタミンD3の塗り薬なども使用されます。
予防
尋常性魚鱗癬は遺伝子の変異によって引き起こされる病気であるため、確立した予防法はありません。また、症状が軽く発症に気付かないケースも少なくないとされています。
一方で、尋常性魚鱗癬は皮膚のバリア機能が破綻する病気であり適切な治療を継続することが大切であるため、乳幼児期から肌の乾燥などが長く続くときは医師の診察を受けるようにしましょう。
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