まんせいえんしょうせいだつずいせいたはつしんけいえん

慢性炎症性脱髄性多発神経炎

別名:多巣性運動ニューロパチー
神経

目次

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概要

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(まんせいえんしょうせいだつずいせいたはつしんけいえん)とは、2か月以上にわたる慢性的な経過で末梢神経の炎症が生じる病気を指します。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎を発症すると、筋力の低下やしびれ、ピリピリ感などの神経症状を認めることになります。類似した病態を示す病気にギラン・バレー症候群がありますが、ギラン・バレー症候群は慢性炎症性脱髄性多発神経炎と異なり、基本的に急性経過を示し、再発や慢性経過をきたすことはありません。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎は、日本において難病指定を受けている病気であり、全国に数千人の患者さんがいらっしゃることが推定されています(2019年時点)。また、やや男性に多く、発症年齢も2〜70歳まで幅広いことも報告されています。

末梢神経の炎症による病気であり、ステロイドや免疫グロブリン静脈内投与、血漿(けっしょう)浄化療法、免疫抑制剤などの治療方法があります。治療に対する反応性や病気の進行の仕方は人それぞれであり、長期的な経過観察をすることが重要な病気です。

原因

末梢神経は、電気活動によって運動や感覚などの刺激伝達を行っています。刺激伝達をより迅速に行うことを目的として、有髄神経線維は周りを「髄鞘(ずいしょう):ミエリン」と呼ばれる絶縁体で覆われています(これはちょうど電気のコードと同じような構造です)。

神経線維単独で電気活動を行うのと比較して、ミエリンが存在する状況下では、ミエリンとミエリンの間を跳ぶように(これを跳躍伝導といいます)電気活動を迅速に行うことが可能となり、運動や感覚の刺激伝達が素早く行われることになります。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎では、何かしらの原因をきっかけとしてミエリンが破壊されることから発症します。ミエリンが破壊されることを脱髄(だつずい)と呼びますが、自分自身の体の一部を攻撃する自己抗体がつくられたり、誤ってミエリンを攻撃するようになる細胞が存在したりすることが原因で脱髄は発症します。

しかし、どういったことがきっかけとなって免疫系に異常が生じて脱髄が生じるようになるのかは分かっていません。今まではこの病気に特異的な自己抗体が分かっていませんでしたが、neurofascin155、contactin-1というタンパク質に対する抗体が現れることが発見されています。

同じように脱髄をきたす病気には、ギラン・バレー症候群や多発性硬化症などを例に挙げることができます。ギラン・バレー症候群は、慢性炎症性脱髄性多発神経炎と比較して急性疾患としての側面が強く、症状が慢性的に経過したり再発したりすることは基本的にはありません。

また、多発性硬化症(たはつせいこうかしょう)は慢性炎症性脱髄性多発神経炎と同様に慢性・再発性の経過をとりますが、末梢神経が障害を受けるのではなく、中枢系の神経障害である点が異なります。

症状

慢性炎症性脱髄性多発神経炎は、末梢神経の障害により運動や感覚に慢性的な症状が生じ、再発性の経過をとります。

運動神経に異常が生じることから、四肢の脱力や筋力の低下が生じます。その結果、腕が上がらない、物をつかみにくいなどの症状が現れます。

また、感覚を(つかさど)る神経にも異常が生じる結果として、しびれや震え、痛みを感じにくい、触られた感じが分かりにくいなどの症状が現れます。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎では、慢性・再発性の経過を辿ることから、症状がよくなったり悪くなったりを繰り返すことがあります。障害の程度は徐々に進行が進み、最終的に車いす生活を余儀なくされることもあります。

また、慢性炎症性脱髄性多発神経炎は基本的には末梢神経に関連した病気ですが、まれに中枢神経系に異常が生じることもあります。中枢神経系に障害が生じると、しゃべりにくい、表情筋の麻痺(まひ)などが生じます。

検査・診断

慢性炎症性脱髄性多発神経炎では、末梢神経における電気の伝達速度が障害を受けていることを確認することが大切であり、末梢神経伝導検査と呼ばれる検査を行います。

また、腰から針を刺し、髄液を採取して髄液検査を行います。この検査を通して、髄液中のタンパク質が正常よりも多くなっていることを確認します。

また、MRI検査において、神経の炎症性変化を確認することもあります。さらに、末梢神経を生検し、神経の脱髄性変化を検索することもあります。

治療

慢性炎症性脱髄性多発神経炎は、自己免疫に関連した炎症性疾患であると考えられており、ステロイドや免疫ガンマグロブリン療法、免疫抑制剤、血漿浄化療法などによる炎症鎮静が治療として行われます。

急性期の症状については、これらの治療方法を用いることで一時的には沈静化できることが期待できます。しかしながら、慢性炎症性脱髄性多発神経炎では、時間経過と共に症状が再発することもあるため、ステロイドを長期的に内服したり、定期的に免疫ガンマグロブリン療法をしたりすることもあります。

これらの治療方法は、あくまでも炎症を抑制する対症療法的な意味合いが強く、炎症が生じるようになっているきっかけ・根本を対処しているものではありません。そのため、慢性炎症性脱髄性多発神経炎は、こうした根本治療の開発が今後利用可能になることが望まれる病気です。