概要
肺胞微石症とは、主にリン酸カルシウムで構成される物質が肺に蓄積する病気を指します。
肺は、肺胞と呼ばれる小さな空間が多数集まることでできあがっています。ぶどうの房のように多数存在する肺胞は、酸素や二酸化炭素といったガスを交換するのにとても重要な空間です。肺胞微石症に罹患すると、肺としての主要な役割を担うこの肺胞にリン酸カルシウムを主成分とする小さな石(微石と呼びます)が蓄積します。
肺への物質沈着は、ゆっくりと慢性的に進行しますが、病状が進行すると呼吸困難を自覚するようになることもあります。しかし、無症状のままというケースもあり、別の疾患などを理由に撮影したレントゲン写真からたまたま診断されることもあります。
原因
肺胞微石症において、微石が蓄積する原因は、SLC34A2と呼ばれる遺伝子に異常が生じるためです。SLC34A2遺伝子は、細胞内のリン酸の濃度を調節するために重要な役割を果たすタンパク質と大きく関係しています。このタンパク質は身体中の細胞に広く分布していますが、特に肺のなかに存在する「Ⅱ型肺胞上皮細胞」において多数みられます。
Ⅱ型肺胞上皮細胞は、サーファクタントと呼ばれる物質を産生する働きを持っています。サーファクタントは界面活性剤の一種であり、呼吸運動に一致した肺の形態学的な変化(肺が膨らんだり、しぼんだりといったもの)を容易に行うことができるようにする働きを持っています。サーファクタントはリン酸を含む脂肪成分から構成されており、リン酸の濃度がⅡ型肺胞上皮細胞において適切に調整されていることが求められます。
SLC34A遺伝子に異常が生じてしまうと、サーファクタントを産生するⅡ型肺胞上皮細胞を中心として機能障害を起こします。サーファクタントにはリン酸が多く含まれる関係性から、リン酸を多く含む物質が肺胞内に蓄積することになり、結果として肺胞微石症が発症します。
肺胞微石症は、SLC34A2遺伝子の異常によって発症する病気であり、常染色体劣性遺伝と呼ばれる遺伝形式をとります。この遺伝形式は、両親共に病気の保因者となります。お子さんが病気を発症する可能性は、理論的には25%です。また病気の症状を呈さないまでも病気の保因者になる可能性は50%であり、残りの25%は発症者でもなく保因者でもない状態となります。
症状
肺胞微石症では、肺胞内に微石が進行性に蓄積しますが、実際に症状が現れるのは成人期以降であるとされています。症状が現れると咳や息切れ、運動時の易疲労感などが生じます。また、咳や深呼吸などによって増悪する胸の痛みがみられることもあります。さらに病状が進行すると、心臓にも負担がかかるようになり、全身のむくみなどがみられるようになります。
リン酸カルシウムの沈着は基本的には肺にみられることが多いですが、そのほかにも腎臓や心臓、胆嚢などにもみられることがあります。肺による症状に比べるとまれではありますが、これら臓器への沈着によって症状が現れることもあります。たとえば、心臓の大動脈弁にリン酸カルシウムが蓄積してしまい、心臓から全身への血液の流れが阻害されるようになり、息切れなどの症状につながることがあります。
肺胞微石症は、別の理由から撮影された胸部単純レントゲン写真や、家族歴の情報などから、無症状の段階でも診断されることがあります。
検査・診断
肺胞微石症を診断するためには、胸部単純レントゲン写真やCT(エックス線を使って身体の断面を撮影する検査)といった画像検査を詳細に評価することが大切です。家族歴に加えて肺胞微石症で特徴的な画像所見がある場合には、それのみで肺胞微石症と診断することがあります。
画像所見から肺胞微石症が疑われる場合には、肺の組織や痰などを採取して顕微鏡的に検査する病理検査も検討されます。さらに、肺胞微石症はSLC34A2遺伝子の異常によって発症する病気であることが判明しているため、血液を用いた遺伝子検査で本遺伝子異常を証明することも診断には有用です。
治療
肺胞微石症の進行を食い止めるような治療方法は現在までのところ確立しておらず、肺移植をする以外の治療方法はありません。経過中に呼吸不全症状や心不全の症状が出現した場合には、酸素投与をはじめとした対症療法が選択されます。
確実な治療方法が存在しない肺胞微石症では、肺移植を視野に入れた治療介入を早期の段階から行うことが重要です。肺移植を行うことができる施設は限られているため、タイミングを見計らいながら専門の医療機関への受診することが必要であるといえます。
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