概要
膝蓋腱損傷とは、膝蓋腱に何らかの外力が加わることで生じる損傷のことです。損傷の程度はさまざまですが、非常に強い外力が加わった場合や、膝蓋腱自体に脆弱性(弱い性質)がある場合では断裂が生じることもあります。
膝蓋腱とは、大腿四頭筋の末端部で膝蓋骨と付着し、さらに脛骨近位端(体の中心に近い方)を結ぶ腱のことですが、脚を伸ばすために重要なはたらきをします。すなわち、大腿四頭筋の収縮により腱が上方に引っ張られることで、下腿の脛骨が引き上がり、膝を伸ばすことができるのです。
膝蓋腱に包まれるように存在する膝蓋骨は、いわゆる膝の皿とよばれる表面が滑らかな骨で、膝関節を保護するだけでなく、膝蓋腱がスムーズに動くように、てこの役割を果たします。このため、膝蓋腱が損傷を受けると、膝の伸展に障害が生じます。
膝蓋腱損傷の多くは、ジャンプやキック、ダッシュなどの機敏な動作を要するスポーツにおいて生じます。また、腎不全などの基礎疾患、まれにステロイド剤の長期投与により膝蓋腱に脆弱性があるようなケースでは、微小な外力が加わっただけでも発症することがあります。
原因
バレーボールやサッカー、ハードルなどのように瞬時的なダッシュやジャンプ、キックといった動作を要するスポーツが原因となることがあります。
これは、膝が屈曲した状態から瞬発的に膝を強く伸展させることで、大腿四頭筋が過度に収縮し、膝蓋腱が強く引き上げられるために生じます。
また、強い外力がはたらかない場合でも、腎不全、膠原病、関節リウマチ、糖尿病、痛風などの基礎疾患がある場合には、腱の構造そのものが脆弱化することがあり、些細な転倒などでも損傷が生じる原因となります。
症状
多くは、受傷直後から膝に非常に強い痛みと腫れ、熱感を生じます。痛みのために膝を動かすことができなくなり、歩行が困難になります。
基礎疾患が原因となっている場合には、膝蓋腱の脆弱性とともに徐々に損傷が広がって最終的に断裂に至るため、スポーツなどでの損傷よりも痛みは軽く、受傷後も膝の違和感を覚えながら日常生活を送っている場合があります。
また、膝を伸ばすために膝蓋腱に損傷が加わることで、痛みや腫れが落ち着いても膝の伸展に障害が生じ、完全に断裂した場合には、膝蓋骨が大腿側に引き上げられ、体表からも膝蓋骨のズレと断裂部の凹みを確認することができるようになります。
検査・診断
種々の画像検査によって診断が下されます。もっとも簡便に行われる画像検査は、X線検査です。膝蓋腱が完全に断裂している場合には、膝蓋骨が上方へ転位するため、X線で明瞭に確認することができます。膝蓋骨の下端に薄い剥離骨折を認めることもあります。
一方、膝蓋骨の転位が見られないような、断裂を伴わない損傷の場合にはX線検査で病変を観察することができません。そのため、多くはMRI検査により、腱の状態や膝関節内の炎症の有無などが評価されます。
痛風や関節リウマチなどの病気が原因であると考えられる場合には、関節内にたまった浸出液を注射で採取し、病理検査によって原因を特定することがあります。
治療
スポーツなどによって膝蓋腱の断裂が生じた場合には、なるべく早期に断裂部をつなぎ合わせる手術を行います。時間が経過するにつれて腱同士を縫い合わせることが難しくなり、他部位の腱や人工腱を移植する手術が必要になります。
基礎疾患によって断裂を生じた場合には、その基礎疾患の治療を最優先で行うとともに、年齢や日常生活への影響などを考慮して手術を行うかどうかを決定します。
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