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頻尿とは別物? 過活動膀胱とは

頻尿とは別物? 過活動膀胱とは
河上 哲 先生

K-クリニック 院長

河上 哲 先生

目次
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この記事の最終更新は2016年09月30日です。

一般的に、「トイレが近い(頻尿)=原因は過活動膀胱」という認識が広がっていますが、トイレが近い方が必ずしも過活動膀胱というわけではありません。頻尿には、過活動膀胱のほか、さまざまな要因が知られています。

今回は過活動膀胱の定義と、過活動膀胱の代表的な症状の1つである頻尿の治療方法と予防方法について、泌尿器科医であるK-クリニック院長の河上哲先生に教えていただきました。

症状や検査・画像所見などで共通の病態を示す一方、原因が分からない症状の集まりにとりあえず名前をつけて「症候群」として区別することがあります。

過活動膀胱(OAB:Over Active Bladder)というと、「トイレが近くなる病気」というイメージを持たれている方が多いかもしれません。しかし、過活動膀胱とは「症候群」です。過活動膀胱は、たとえば尿意を感じてからトイレまでが我慢できないなど、さまざまな症状の方を指します。

過活動膀胱の主な症状として、下記のようなものが挙げられます。

・昼間頻尿:日中に8回以上尿意を覚えてトイレへ行く

夜間頻尿:就寝中に1回以上尿意を覚えて目が覚める

・尿意切迫感:急に尿意を覚える

・切迫尿失禁:急な尿意を我慢できず失禁してしまう

過活動膀胱の症状をチェックするのに、過活動膀胱症状質問票(OABSS)というシートがあります。これは頻尿や尿意切迫感などの症状を点数化したものです。日常生活で心あたりのある方は、過活動膀胱の可能性がないか一度チェックされることをおすすめします。

過活動膀胱症状質問票(OABSS)

 

過活動膀胱の症状は上記のように一定の基準があり、男女によって症状が極端に異なるということはありません。

あくまでも推定の値ですが、過活動膀胱に悩まれている方は日本国内だけでも約810万人に達すると考えられています。排尿など泌尿器に関するトラブルは、たとえ親しい人であっても相談しづらいと感じる方が多い病気です。そのため実際に泌尿器科で過活動膀胱の治療を受けている方は全体の1~2割程度にとどまり、そのほかの方はトラブルを抱えていても誰にも相談できずに悩んでいたり、治療を受けていなかったりすると考えられています。

過活動膀胱の主な症状は、頻尿や急な尿意を我慢できないことです。それでは、何が過活動膀胱を引き起こす原因となっているのでしょうか。過活動膀胱は男性と女性によって原因が異なることが多いです。

前立腺は男性のみが持っている生殖器で、精液の一部を産生するはたらきがあります。この前立腺が何かしらの原因によって肥大することで、頻尿や残尿感など排尿に関連する症状が現れるようになります。

過活動膀胱に伴う頻尿は40歳代以降に多いのですが、前立腺肥大症も同じく40歳代以降に好発する病気です。男性の頻尿はこの前立腺肥大症が関係していることが多いため、排尿に関するトラブルを相談されたときは、まずはこの前立腺肥大症を疑うことが多いです。

女性の膀胱炎

過活動膀胱は男性よりも女性に多い病気といわれています。骨盤底の筋肉が加齢により低下し緩みやすくなることも、女性に過活動膀胱が多い原因の1つと考えられています。

頻尿は過活動膀胱の症状の1つですが、頻尿の方が全員、過活動膀胱というわけではありません。「過活動膀胱かもしれないと思っていたがそうではなかった」というケースをいくつかご紹介します。

一時的な体の冷えによる頻尿

スーパーマーケットで生鮮食品を取り扱っている部門は、商品の鮮度を保つため売り場を一定の温度に維持しています。この極端な冷えが寒冷刺激となって、膀胱を刺激して頻尿を引き起こすことがあります。ほかにも、冬場や寒冷地などの極端な冷えも寒冷刺激となります。これは過活動膀胱とはいえません。

心理的ストレスによる頻尿

心理的ストレスが引き金となって神経性頻尿が生じることがあります。

毎日約30分電車に乗って通勤をする間に、必ず一度、電車を降りてトイレに行く患者さんがいらっしゃいました。しかし、その患者さんは会社に到着してからも頻尿が続くのかというと、決してそうではありません。会社では頻繁にトイレに立つこともなく、また自宅でも症状が現れることはないそうです。

ほかにも、電車でA地点に行くときにはなんら不都合はないのに、B地点に行くときのみ頻尿に悩まされる方もいらっしゃいます。

このように、ある種の心理的ストレスが頻尿を引き起こす場合があります。この場合も過活動膀胱とはいえません。

検査

過活動膀胱症状質問票で過活動膀胱の疑いがある場合、残尿検査とエコー検査を行います。通常、膀胱は200~300ml程度の尿を溜めることができ、排尿後にはほとんど尿が残らないことが多いです。残尿検査とエコー検査では残尿量と膀胱の形態の変化を調べます。

より詳しく検査するために、患者さんに排尿日誌を記録していただくこともあります。何時にどのくらいの水分を摂取して尿が出たのかを記録することで、診断に必要なデータを収集すると同時に、患者さん自身にもより詳細な排尿状況を把握をしてもらうねらいがあります。

また、男性は前立腺肥大症、女性は尿路感染症の可能性がないかも視野に入れます。これらの病気の症状として頻尿が生じていることもあるため、もし前立腺肥大症や尿路感染症などほかの泌尿器系疾患が見つかったときには、まずはこちらの病気の治療を行います。

残尿検査とエコー検査、そして排尿記録の結果を総合的に判断して過活動膀胱と診断されると、主に薬物療法がおこなわれます。使用される薬は主に下記の3種類です。

・抗コリン薬

神経伝達物質であるアセチルコリンのはたらきを弱くすることで、膀胱の筋肉の過剰な収縮を抑え、膀胱に尿を溜められるようにします。便秘や尿が出にくくなる、口の渇きなどの副作用が生じることがあります。

・α1ブロッカー

主に、前立腺肥大症が頻尿の原因となっているときに使用します。もし十分な効果が期待できないときには、抗コリン薬を併用することもあります。

・β3作動薬

βアドレナリン受容体を活性化させます。膀胱を弛緩させる働きのある薬です。比較的最近登場した薬で、抗コリン剤の副作用が強く出てしまう患者さんに使用されることが多いです。

男性の場合、基本的にはα1ブロッカーを処方しますが、十分な効果を確認できないときには作用がやや強い抗コリン薬やβ3作動薬を使用します。なお、膀胱内の残尿量が多いときには、抗コリン薬は禁忌とされています。

女性の治療では、抗コリン薬もしくはβ3作動薬を処方することが多いです。

食生活

これまで過活動膀胱の症状と原因、そして原因ごとの治療方法についてお伝えしてきました。その代表的な症状である頻尿には、漢方薬や冷え対策など、いくつかの治療方法が知られています。

過活動膀胱が原因ではない頻尿の場合には、治療に漢方薬を使用することがあります。特に寒冷刺激が頻尿の原因となっているときに頻尿改善薬として使用することが多く、使用される漢方薬としては主に下記の2種類があります。

八味地黄丸(はちみじおうがん)

前立腺肥大症治療として適応することができるので、前立腺肥大症を確認できるときに使用することが多いです。

牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)

頻尿の原因が冷えにあるときに使用することが多い

そのほかに、清心蓮子飲(せいしんれんしいん)猪苓湯(ちょれいとう)などを処方して頻尿を改善することがあります。

先にご紹介したように、寒冷刺激が頻尿をもたらしている場合、体を冷やし過ぎないようにすることで症状が改善されます。体が冷えやすい環境にいることが多い方には、靴下や下着を2枚重ねにするなど体を冷やしにくくする工夫をするよう提案しています。

心理的ストレスが原因となって神経性頻尿を起こしているときには、患者さんには先にご紹介した薬ではなく、抗不安薬など不安を和らげる薬を処方します。

先ほどご紹介した患者さんに共通しているのは、乗り物に乗っているときに頻尿が現れるということです。この2人の場合、電車内にトイレがないことによる心理的ストレスから頻尿となったと考えられます。そのため、治療には頻尿を抑える薬ではなく、トイレがないことに対する不安を和らげる抗不安薬を処方しました。

過剰な水分摂取を避ける

健康のため水分を多く摂取している方がいらっしゃいますが、過剰な水分の摂り過ぎは避けるようにしましょう。

カフェインを控える

コーヒーや紅茶、緑茶に含まれているカフェインが頻尿の原因となっていることもあります。カフェインが入っている食品を多く摂取しているようであれば、控えるようにしましょう。

アルコール

アルコールも水分ですので、頻尿対策として過剰摂取は避けるようにしましょう。特に男性の場合、前立腺肥大症の方がアルコールを過剰摂取すると尿路閉塞(にょうろへいそく)を引き起こすことがあるので注意が必要です

過活動膀胱や頻尿など泌尿器関連の病気は、恥ずかしいと感じる方が多いかもしれません。そのため症状が出ていても医療機関を訪れない、または周囲の方に相談していないという方が大勢いらっしゃいます。

過活動膀胱は約810万人の方が悩まれている病気です。もし頻尿かもしれない、尿意が我慢できないなど日常生活に不安を抱えているようでしたら、一度泌尿器科に相談されることをおすすめします。
 

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