概要
騒音性難聴とは、慢性的に激しい騒音にさらされることで徐々に聴力低下する病気です。工事現場・工場など常に騒がしい場所での仕事への従事で発症することもあるため「職業性疾病」にも指定されており、一定の基準を満たすことで労災認定を受けることもできます。
原因
外部からの音は空気の振動として外耳道を通り、鼓膜を揺らすことで中耳に存在するツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨に伝播します。次に、骨の振動は内耳のなかでも蝸牛と呼ばれる部位の内部にあるリンパ液へと伝わります。このタイミングで空気の振動である音の情報は、液体の振動へと変化します。
蝸牛の中には有毛細胞と呼ばれる神経細胞があります。髪の毛のような突起物を有する細胞で、蝸牛中の液体が振動すると毛にあたる部分が曲がったり揺れたりします。物理的な変化が細胞に生じると、液体の振動情報が電気信号へと変換され、脳へと情報伝達されます。そして、最終的に音として認識されます。
騒音性難聴は長時間にわたって大きすぎる騒音に曝され続け、有毛細胞が障害されることで発症します。障害を受けた有毛細胞は二度と再生しません。したがって騒音性難聴での難聴は不可逆的なものとなります。85db(デシベル)以上の騒音に8時間さらされ続ける状態が5~15年ほどあると、発症リスクが高まるといわれています。しかし、同じ環境にいる全員が騒音性難聴を発症するわけではありません。
症状
聴力低下は基本的に両側とも同程度で、騒音環境から離れるとそれ以後の進行がないことが多いです。騒音性難聴で障害を受ける音域日常会話で使用される音域は一致しないため、初期は日常生活に大きな支障がありません。そのため聴力障害に気づかないまま難聴が進行して、徐々に日常会話の音域にも影響をきたし聴力低下の自覚に至ります。音がこもったり、ゆがんだり聞こえることもあり、また言葉も不明瞭になるため会話を理解しにくくなることもあります。
こうした症状を自覚しても、加齢に伴う聴力低下と考え医療機関の受診が遅れることも少なくありません。
検査・診断
騒音性難聴が疑われる場合は聴力検査で評価を行います。初期の段階では4,000Hz周辺における聴力低下が典型例です。病状が進行すると、4,000Hz領域以外の音域も聴力低下がみられます。また、聴力低下では気導値や骨導値などの値も重要になるため、両者に差がないかも確認します。
中耳炎などを除外するため、鼓膜所見の確認や必要に応じてCT検査、言葉の聞き取りを調べる語音明瞭度検査、内耳機能検査などを追加で行うこともあります。
聴力検査で4,000Hz周辺の特異的な聴力低下がみられる場合ばかりではないことに注意が必要です。
治療
騒音によりダメージを受けた有毛細胞を元にもどす有効な治療方法はありません。そのため騒音性難聴では進行予防を目的とした適切な管理が重視されます。
85db以上の音は騒音性難聴発症のリスクとなるため、予防策として耳栓を使用する、騒音の生じる環境を少しでも改善する、騒音環境下での就労時間短縮化などがあげられます。また聴力検査を定期的に実施して、症状の進行度合を確認することも必要です。病気に対する理解を深めることも大切です。
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