一日一歩の上達がやがて大きな成長になる

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一日一歩の上達がやがて大きな成長になる

患者さんの感謝の言葉を糧に、一日一日の診療を大切に行う安藤献児先生のストーリー

小倉記念病院 副院長 循環器内科主任部長
安藤 献児 先生

患者さんからの「ありがとう」が最大の喜び

私が循環器内科医として喜びを感じる瞬間は、自分が治療した患者さんが元気になってくれたとき。そして、患者さんから感謝の言葉を伝えていただいたときです。

これまでに、狭心症や心筋梗塞などの患者さんや、重症心不全の患者さんを治療してきました。そうした病気の患者さんに対して、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)や心臓再同期療法(CRT)などで治療を行うのが私の役割です。そして、患者さんが無事に回復して退院された後の外来で、「先生、おかげさまで元気になりました。ありがとうございました」と言っていただけることがあります。治療を経て、命が危ぶまれていた患者さんが元気になっていく様子を見ているとき、大きな喜びを感じます。

患者さんが元気な姿で「ありがとう」という言葉をくれるから、私は今までもこれからも、医師として全力で取り組めるのだと思います。

研修医時代に「患者さんのことを何も分かっていない」と言われて

かつて、私が小倉記念病院循環器内科で研修医として臨床を勉強していた頃のことです。当時、私の指導医である延吉正清先生(前・小倉記念病院 院長)に、失神するかと思うほど物凄い剣幕で怒られたことが一度ありました。

そのときの私は1日でも早く一人前の循環器内科医になろうと、臨床や勉強と忙しい日々を送っており、心の余裕もそれほどなかったように思います。ですから、診療の際にも「次はこの検査をして、それからあの検査をして、こういう治療を検討して」と、つい自分の考えで物事を決めてしまいがちでした。

自分なりに一生懸命ではあったのですが、ある日延吉先生に呼び出されて、このことについて激しくお叱りを受けました。「安藤君は患者さんのことを何も分かっていない」と。医師は本来、患者さんがどういう医療を受けたいか、どういう治療を受けたいかを第一にして、患者さんの希望に添うように検査や治療の計画を立てるべきです。しかし、当時の私は、自分や病院の都合に合わせて検査の計画を立ててしまっており、患者さんの気持ちに立って、患者さんがどのような治療を受けたいのか考えるということを後回しにしてしまっていたのでしょう。延吉先生はそのことに気づいて、私を叱ったのだと思います。

延吉先生は、患者さんのためならば絶対に妥協を許さない先生でした。毎日、全員の患者さんを回診し、夜遅くまで残ってカルテを見たり明日の診療の準備をしたりしていました。自分自身にも後輩医師にも、ときには患者さんにも厳しい方でしたが、それが私には合っていたのでしょう、延吉先生に教えていただいたことは今でも大きく影響しています。患者さんが満足できる医療を提供するという、医師として求められる在り方そのものを、教えていただきました。

今日という1日を大切に、「自分は本当に頑張ったのか」を考える

延吉先生から教わった「患者さんのことをしっかり見て、患者さんの気持ちになって治療を考えること」。小倉記念病院循環器内科で主任部長を務める2019年現在、この重要性は私から後輩医師に伝えています。

これまでの経験上、小倉記念病院に研修や勉強に来られる若い先生方は、仕事に対するモチベーションが高く、「循環器医療の世界で、医師として生きていきたい」「努力して高い治療技術を身に着けたい」などと、高い志をお持ちの方が多い印象を受けます。そのように考えていらっしゃる先生方だからこそ、より大きく成長するために、1日1日を大切に過ごすことを意識していただきたいです。

日々の積み重ねが技術の上達につながる

循環器内科を務めるということは、これからの循環器医療を、1歩でも前進させなければならないということです。そのためには、循環器医療に携わる者としての自覚を持って、日々勉強や研究に努めることが重要だと思っています。

私は今でこそ、カテーテルを用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を専門のひとつにしていますが、カテーテルを学び始めたばかりの頃は、当然分からないことばかりでした。やはり、そのようなときは全然上手くいきませんでしたし、自分は本当にカテーテルをマスターできるのか、と悩むこともしばしばありました。

さらに、当時は今のような医師教育体制ができあがっておらず、若手は先輩医師や教授の技術を見て盗め、という教え方が当たり前の時代。若手も中堅もベテランも、お互いがライバル同士のような関係だったように思います。見て盗めとはいえども、当時の私には、先輩医師の手技を見てもよく分からなかった。実際に自分がカテーテル治療を始めても、最初の頃は慣れていないので、合併症が起こらないようにと慎重になるあまり、上手に進める方法が分からなかった。

それでも、少しずつでも治療技術を身につけたいと必死でした。毎晩、眠る前に「自分は今日1日、本当に一生懸命頑張ったのだろうか」「今日は何か成長できただろうか、この数か月で自分はどれだけ成長したのだろうか」と自問する日々が続きました。

そのように、毎日ひたすら学習と実践、振り返りを積み重ねて、何十例かカテーテル治療を経験したあるとき、ふと「自分は上達しているかもしれない」と感じる瞬間がやってきたのです。そして、さらに経験を積み重ねていくと、パッとひらめくように「そうか、こうすればいいんだ」と、よりよいカテーテル治療の方法を理解できるようになる日がやってきました。

循環器医療を進歩させるためには、一人ひとりの技術の上達が不可欠です。「一日一歩でもいいから上達しなさい」と、先輩医師から教えられたことを今でも覚えていますが、これは本当に大切なことです。一歩の上達は小さなものだとしても、一歩の上達を1000日間続ければ、1000歩上達することになるのですから。

自分は自分のままで、自分のできることを

立場や職種、年齢にかかわらず、言葉遣いの丁寧な先生、患者さんとの接し方が上手な先生など、尊敬する先生が私の周りにはたくさんいらっしゃいます。

今までもこれからも延吉先生は私の尊敬する恩師ですし、ステントの研究に尽力された木村剛先生(現・京都大学循環器内科学教授)には、研究を進めるにあたっての調査や論文執筆の方法を教えていただきました。また、PTMCというバルーンを開発された井上寛治先生(現・京都大学循環器内科学臨床教授)は、新しい治療法を開発する面白さを私に見せてくださいました。このほかにも、本当にたくさんの先生方に影響を受けてきましたし、だからこそ今の自分がいるのだと思っています。

周囲には尊敬する先生方ばかりですが、「あの先生のようになりたい」と思うことはありません。私は私のままで、私のできることをしていきたいです。まだまだ勉強することはたくさんありますから、尊敬する先生方からもっと多くの学びを得て、これからも成長していきたいと思っています。

余談ですが、延吉先生とは今も定期的にお会いしています。現役を引退してから少し丸くなられた先生と一緒にご飯を食べながら当時のことを思い返すと、あのとき叱っていただけてありがたかったなと思いますね。

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  • 小倉記念病院 副院長 循環器内科主任部長

    京都大学を卒業後、小倉記念病院にて循環器内科医療に携わる。2013年より同院循環器内科主任部長として、循環器内科医を束ねる。冠動脈インターベンションや植込み型除細動...

    安藤 献児 先生の所属医療機関

    小倉記念病院

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    • 093-511-2000
    公式ウェブサイト

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