DOCTOR’S
STORIES
謙虚な気持ちで患者さんと向き合う河野範男先生のストーリー
私の小学校時代に母は胃がんで胃を全摘し、その後幸い再発もなく、長く胃のない生活に苦しみながらも、私の成長を見守ってくれていました。私が医師になってしばらくして、母は婦人科系のがんで亡くなりました。母親の包容力に包まれて育った私には、その死は大変つらい出来事でした。医師を志した当初は、母を胃がんから救ってくれた消化器外科の医師になることが夢でした。しかし、1976年に、胃がんについて勉強するために、がん研究会がん研究所の病理部に研究生として入所したとき、顕微鏡で見た乳がんのがん細胞に高い関心を抱くようになりました。そのがん研究所の病理部への入所こそが、私を乳がんの専門家へと導いたのです。
私が今まで医師として治療を行ってきたなかで、たくさんの患者さんと出会いました。乳がんと闘いながらも、最期まで自分の仕事にプライドと誇りを持って働き続けた患者さん、残される配偶者、子どもたちに無念の思いを抱きながらこの世を去った患者さん、定期的に検査を受けていたのにもかかわらず、思いも寄らない状態で来院された患者さんなど、出会った患者さんの数だけストーリーがあります。
特に、定期的に検査されていた患者さんについては、私自身にとって、とても悔しいと感じる記憶です。残念ながら救いきれなかった患者さんもおり、その患者さんたちに感じる無念や、母を亡くしたご家族のことを思うと、いっそう患者さんを救いたいという気持ちが後押しされます。
一方で、患者さんを救うことができたとき、その患者さんからいただく「ありがとう」は私にとって何ものにも代え難い喜びであり、医師を続けるうえでの励みになっているのです。
骨転移治療に対して骨転移の発生機序を研究しておりましたので、それに適応する薬の試験をさせていただき、多くの骨転移患者さんのQOLに貢献できたことは私の誇りです。世界の骨転移治療に詳しい先生方と交流を深め、今でも海外の学会でお話する機会があります。そこで、最新の乳がん治療についてお話を伺うこともあり、私にとって大切な機会になっています。
今の自分があるのは、患者さんから教わったことはもちろん、よい先輩たちとの出会いがあったからこそだと思います。
私が研究生としてがん研究会がん研究所を訪れたとき、当時所長を務めておられた菅野晴夫先生は、「学問に対して、常に謙虚であること」と、探求心を深めることと謙虚であることの大切さを教えてくださいました。また、同様にがん研究会がん研究所の病院長だった故・梶谷環(かじたに たまき)先生の「がんに笑われるような手術をするな」という名言を、常に心に抱き手術をしています。近年は薬物療法も視野に入れた治療が必要な時代に変わってきていますが、これからもがんに笑われない治療を目指し、尽力していきます。
たくさんのことを先輩方から教わってきた私も、今では多くの後輩を指導する立ち位置になりました。
私は、後輩に対して、「チャンスを逃すな」ということを伝えるようにしています。若いうちにしかできないこと、若い柔らかな頭脳ならではの発想もたくさんあります。疑問を常に抱き解決するチャンスを自分の手でつかみ取ってほしいのです。そのため、後輩がやってみたいという意思を持つ研究などに対して、彼らが全身全霊取り組めるように、積極的にサポートを行っています。また、それらの研究で学んだことは、きっとこれから後輩たちが出会う患者さんの治療に生きてくると信じています。
医師が勉強をし続けないと患者さんは救われません。しかし、勉強をし続けることは気力、体力的にもとても大変なことでもあります。多くの患者さんを救いたいという思いは、乳がんを専門にする医師として当然のことであり、“後輩と共に勉強をし続けること”を大切にしています。
患者さんから安心してもらえる医師になれるように、いつまでも謙虚な気持ちを忘れずに、学ぶことに貪欲でいたいと思います。
科学・医療は常に発展していきます。乳がんの治療においても例外ではなく、今までにたくさんの発展をしてきたように、おそらくこれからも着々と発展していくでしょう。
特に、近年は医療の分野においてもAIが注目されていることから、おそらく乳がん治療でもAIの力を借りる時代がくると思います。さらに、すでに導入されているゲノム医療においても、今まで以上にAI活用が推進されるようになるはずです。医療の進歩は加速していますので、もしかすると予測できないほどに発展することもあるかもしれません。
我々医師は、これから飛躍的に発展する医療に対応できるように準備をしておく必要があります。たくさんの患者さんが救われる未来を信じて、私も常に努力することを忘れずにいたいと思います。
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大阪府済生会中津病院
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