私の親戚には多くの医師がいましたが、幼い頃は医師になりたいと考えたことはありませんでした。中学生の頃から英語が好きだったので、海外での駐在生活を描いたテレビ番組に触発されて、いつか海外で働く商社マンになろうと思ったこともあります。
その後、医師になる道を選択しましたが、英語は今でも学会などで使用しています。語学好きが高じて、英語だけでは飽き足らず、最近では中国語の勉強も始めましたね。
研修医時代にお世話になった岩崎喜信先生、井須豊彦先生、秋野実先生らが活躍されていた脊髄外科を専門領域に選んだことが、私の人生のターニングポイントです。脊髄空洞症に対する脊髄―クモ膜下腔シャント術(S-S shunt)など、新しい手術方法などを間近で見る機会があり、脊髄外科へ入ったら先進的かつ国際的な仕事をできるのではないかと思いました。
先生方と出会い、学ばせていただいたことが私自身の栄養となり、臨床医としての今の私が形作られたのだなと感じています。
臨床を長くやっていると、患者さんから多くのことを学ばせていただきます。そこで学んだことや気づきを、次回の臨床で患者さんへお返しする。それが医師としては一番大切なことだと思っています。これまでたくさんの患者さんとの出会いがあり、経験値を積んできました。それぞれの患者さんに合った手術や治療を行うことが大切だと思っています。患者さんが笑顔で帰宅されていくことは何よりも嬉しく、やりがいを感じます。
私が考える“よい医療”は、3つの事柄で構成されています。
1つ目は、患者さんが病気や治療内容をよく理解し、納得してくださる医療を提供することです。病院側の独りよがりで治療を行うことは決してありません。そのため、普段から患者さんとのコミュニケーションを心がけ、ご本人のお気持ちを伺うようにしています。
2つ目は、新しい情報にアンテナを張り巡らすことです。時代とともに、病気の情報も治療方法も日々変化していきます。そのため、私たち医師は新しい情報、知識を吸収しなければなりません。新しい情報は、国内外問わず、広く収集するようにしていますね。
3つ目は、患者さんにとってベストだと思ったら、他の診療科や、より専門的な医師をご紹介することです。患者さんを診ていくうえで、自分自身が限られた選択肢しか持っていない場合には、より広い視点で治療法を考えていくことが大切だからです。もちろん逆も然りで、私が得意な分野については、他の先生から患者さんをお願いされることも多々あります。
私が医師を続けるうえでの原動力は、患者さんに喜んでいただける瞬間です。患者さんが満足そうな顔で退院されるときは、自分のことのように嬉しくなってしまいますね。
しかし、残念ながらすべての患者さんの病気が治るわけではありません。それがこの仕事の辛いところでもあります。先日も、術後の予後が悪く、若くして亡くなられた患者さんがいらっしゃいました。彼女はまだ20歳という若さでしたが、手術後に腫瘍が転移し、春先にもう一度お会いしたときには自分の命が長くないことを悟られていたのです。
この手で助けられなかった方々のことは、この先もずっと胸に残っていると思います。
院長として、当院は努力家な先生方が多く揃っている医療機関だと自負しています。ですから先生方には、私から直接的な指導を行うというよりも、診療や学会公演、研究会、論文などをご覧いただき、私の医師としての働き方を見ていただけたら嬉しいですね。
現在も中国から3人目の先生が脊椎脊髄外科を学びに来ていただいており、頸椎(けいつい)の前方アプローチなど、低侵襲で効果が高いと考えられる手術方法を習得していただいています。
医師になってから35年以上になりますが、後進の医師はもちろん、海外から来る先生にも学びの場を提供できる今の環境を、非常にありがたいと感じています。忙しく働く私に周囲は「あまりご無理をなさらないでください」と言うこともありますが、私自身はサッカー選手のメッシがゴールするのと同じつもりで、確実に診療や手術を積み重ねていますし、学会、社会との関連など年齢を重ねた今だからこそできることがたくさんあると考えています。ですからこれからも、後輩医師の皆さんを手助けしながら仕事を続けていきたいですね。
脊髄腫瘍など特殊な病気の場合、私のもとへ来られる患者さんもいらっしゃいますが、その際には必ず地元の医師からご紹介をいただき、当院での治療が終わった後には、その先生にフォローしていただいています。
ただし、特殊な病気ではない場合は無理に遠くへ行かれるよりも、ご自身が通える範囲の医師にきちんと診てもらう方が賢明だと思います。手術はその日だけで終わりますが、何より重要なのは術後のフォローですから。そのため、患者さんには通いやすい範囲の医療機関で、治療を検討してみることをおすすめします。
また、突然病気になってしまっても「どうして私が病気になったのか」と悩むことはやめましょう。すぐに納得はできないでしょうが、悩みつづけることで答えは導かれません。病気をいかに治療し、どうやって付き合っていくか。それを私たちと一緒に考えていきましょう。
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