脊髄腫瘍は背骨の中にある脊髄に生じる腫瘍のことで、良性の腫瘍と悪性の腫瘍(がん)があります。脊髄の中には体と脳の情報伝達を行う神経が存在するため、腫瘍によって脊髄が圧迫されると、さまざまな症状が現れます。また、発生部位によって4つの種類に分類され、種類別に発生頻度や治療の難易度などが異なります。このページでは、脊髄腫瘍の概要や主な症状、種類などについてご紹介します。
脊髄腫瘍とは、脊髄(首から腰にかけて伸びる神経)が通るトンネル(脊椎管)に発生する腫瘍の総称です。腫瘍がどこにできるかによって、硬膜内髄外腫瘍、硬膜外腫瘍、髄内腫瘍、砂時計型腫瘍に分類されます。
脊髄は脳と同じ中枢神経(全身に指令を送る役割をする)の1つで傷つきやすいため、内側から順に軟膜・くも膜・硬膜という3つの髄膜に覆われたうえ、さらに背骨(脊椎)に守られています。脊髄腫瘍になると、脊髄やその周辺に腫瘍が生じることで脊髄が圧迫されて、さまざまな症状が現れます。
脊髄腫瘍は病気の種類によっても異なりますが、若年者から高齢者まで幅広い年代の方にみられる病気です。中でも40歳代以下の方に多いといわれています。また脊髄腫瘍の発生頻度は年間10万人に1〜2人といわれ、比較的まれな病気といえます。
脊髄腫瘍の初期症状は、手足や体幹の痛み、しびれが現れることが一般的です。腫瘍の発生部位によりますが、その後、四肢の麻痺や歩行障害などがみられることもあります。
脊髄腫瘍は、発生部位によって大きく4つの種類に分けられます。
硬膜内髄外腫瘍とは、脊髄硬膜の内側に生じるタイプの脊髄腫瘍です。脊髄腫瘍の中ではもっとも頻度が高く、約70%を占めるともいわれます。
また、腫瘍は神経鞘腫や髄膜腫などの良性腫瘍の割合が高いことが特徴です。頻度は低いものの類皮腫、類上皮腫などの良性腫瘍の場合もあります。
硬膜外腫瘍とは、腫瘍が硬膜の外に生じるタイプの脊髄腫瘍です。脊髄腫瘍の15%程度を占め、その大部分はほかの悪性腫瘍(がん)が転移したものといわれています。時に硬膜内の腫瘍が硬膜外に進展することにより硬膜外から脊髄を圧迫することもあります。また、神経鞘腫や血管腫など良性腫瘍が生じることもあります。
髄内腫瘍とは、脊髄の実質から発生し、髄内に腫瘍があるタイプの脊髄腫瘍です。脊髄腫瘍の5〜15%を占めるといわれており、腫瘍は上衣腫、星細胞腫、血管芽腫、海綿状血管腫などが代表的なものです。
砂時計型腫瘍とは硬膜内腫瘍が硬膜外に進展し、硬膜内外に進展している脊髄腫瘍です。腫瘍は神経鞘腫がほとんどですが、まれに髄膜腫でもみられることがあります。
脊髄腫瘍は現段階では原因が分からない病気ですが、多くは子どもに遺伝することはない病気と考えられています。また前述のとおり、脊髄硬膜外腫瘍の場合はほかの部位から生じたがんが原因となっている可能性があります。
脊髄腫瘍の主な治療方法は、手術治療です。硬膜内髄外腫瘍や硬膜外腫瘍の場合、脊髄の外に腫瘍があるため、比較的手術で腫瘍を取り除きやすいといえます。一方、髄内腫瘍の場合、脊髄の中に腫瘍があるため、脊髄を傷つけないように腫瘍を切除する必要があり、治療の難易度が上がることが一般的です。手術治療に併せて、放射線治療や抗がん剤による化学療法が検討されることもあります。
また、ほかの部位のがんが転移して発生した脊髄腫瘍の場合、手術を行わずに放射線治療や化学療法などが検討されることもあります。
脊髄は障害を受けすぎてしまうと、治療をしても元の状態に戻らなくなる可能性があります。そのため首や背中、腰の痛みがなかなか治らない、体のしびれが持続するなど気になる症状があれば、速やかに医療機関の受診を検討し早期発見に努めましょう。
札幌麻生脳神経外科病院 病院長
札幌麻生脳神経外科病院 病院長
日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医
1981年に北海道大学医学部医学科医学専門課程卒業後、北海道大学医学部附属病院医員として脳神経外科において脳神経外科学についての研究に従事する。1988年からはカリフォルニア大学デイビス校へ客員研究員として留学し、生体NMRスペクトロスコピーの研究に打ち込んだ。帰国後、北海道大学医学部研究生として北大脳神経外科教室にて脊髄・脊椎疾患についての研究に取り組んだのち、1991年に北海道大学医学部附属病院助手、2000年に北海道大学医学部講師をつとめ、助教授、准教授、診療教授を経て、2013年からは札幌麻生脳神経外科病院の病院長に就任した。
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