医療に必要なのは1人のスーパースターではなく、チーム力

DOCTOR’S
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医療に必要なのは1人のスーパースターではなく、チーム力

現場を大切にしながら、患者さんと常に真正面から向き合う荻野 秀光先生のストーリー

成田富里徳洲会病院 院長
荻野 秀光 先生

医師を志すきっかけを与えてくれた父

私の実家は、とある温泉地のスキー旅館で、姉と兄と私と弟という4人兄弟で育ちました。私は幼い頃から勉強が好きではなく、どちらかというと野山を駆け回るような少年で、家族や親戚に医者がいる環境でもないので、自分自身から「医者になりたい」と思ったわけではありません。

父は旅館を経営する、いわゆるサービス業を担っていましたが、比較的病弱でした。今はとても元気ですが、私の幼少期は病院にかかることが多く、大学病院に入院するような機会もあったと記憶しています。

そういう経験のなかで、父なりの“医療サービスのあり方”というものを感じることがあったようです。自身がサービス業だからこそ、患者として医療サービスを受けるなかで、「医療とはこうあるべき」という思いが生まれ、自分の子どもを1人、医者にしたいと思ったそうです。そこで私に白羽の矢が立ち、「お前は医者になれ」と言われ続けました。

でも、私はずっと拒否し続けていました。勉強しなければならないし、そもそもなれるわけがないと思っていました。しかし、小さい頃からずっと刷り込まれると、効果があるもので。中学生ぐらいになると、将来どんな職業につきたいかということを学校で聞かれますよね。その段階になって、やはり医師という職業が頭に浮かぶようになっていました。

それから、医学部を受験する時期に、私を育ててくれた祖母が脳梗塞で、兄が交通事故で亡くなるという、人の生死に触れる出来事がありました。それらも全てあいまって、医師を本格的に目指そうと決心したように思います。

医療現場で体感した、外科医のかっこよさ

医師を志して山形大学に進学した後は、医療の道をひたすら突き進む……ということにはならず、ラグビー部の活動に勤しむ日々。しかし、大学4年生の夏休みにひとつの転機がありました。

実家の旅館に、毎年お正月にお客さまとして滞在される常連客の方で、外科医がいたのです。その方の提案で、ある病院に1週間、単独実習に行かせていただきました。そこで外科医が診療をしたり治療をしたりする姿を見て、単純に「かっこいいな」と思いました。

医大生ですから大学内に医師の先輩はたくさんいらっしゃいますし、素晴らしい先輩方も大勢います。しかし、4年生だと実習が始まってはきますが、実際の医療現場、患者さんに携わったり手術に関わったりすることはそう多くありません。その段階で実際の医療現場に入り、外科医が活躍している姿を目の当たりにして、自分も外科医になりたいなという思いが芽生えました。

もうひとつのターニングポイントは、大学を卒業して最初に所属した医局の存在です。大学を出て最初に入局した湘南鎌倉総合病院は、とても忙しい病院でした。忙しいということはそれだけたくさんの患者さんを診て、接することができるということ。

医学の道は机の上で参考書を読んだり論文を読んだりする勉強と、現場に出て実際に患者さんや疾患に関わる勉強の2軸があります。当然、両方をバランスよくできないといけないのですが、私はどちらかというと前者が苦手でした。ですから、現場で鍛えてもらうという意味では、湘南鎌倉総合病院で、比較的若いときから手術を経験させてもらったことで、外科医としてやっていく決意が固まったように思います。

医療はプロフェッショナルが集まったチームでこそ、なし得るもの

大学時代はラグビーに打ち込んでいたのですが、幼い頃からスキーをするなどスポーツにはずっと親しんできました。そのなかで地域の子ども会などに属していて、周囲に先輩や後輩、同期がいたり、チームでスポーツをしたりするような環境で育っています。これは、医師になった今も大いに活きていると感じます。

医療はチームが成り立たないと機能しません。単独で誰かがずば抜けた技術なり知識を持っていても、治療はうまくいかないのです。さらに、チーム内でコミュニケーションがとれていて、お互いの立場を尊重して高め合う、そういう姿勢がないと医療は務まらないと思います。

これはラグビーの構造にとても似ていると感じます。ラグビーは15人でやるスポーツです。チームには、小柄だけどすばしっこいとか、足は遅いけれど力持ちとか、それぞれのポジションにそれぞれの役割があります。それが結束してひとつになったときに、大きな力を発揮する。それぞれがバラバラに役割を果たしていてはダメで、ちゃんと機能しないといけない。病院に置き換えるとまさにそれで、病院の診療も、いろいろな役割の人がそれぞれのポジションをきちんと、プロフェッショナルとして役割を果たしていく。なおかつ、互いがしっかりとまとまって対処していくことで、患者さんが望む医療に近づいていけるのではないかと考えています。

複雑な治療になればなるほど、さまざまな人が関わることになります。患者さんおひとりをひとりの医師が支えるのではなく、プロフェッショナル集団が支えているのが病院だという理解が、もっと深まるといいなと常々考えています。

多くの患者さんに接するからこそ、得られるものがある

最初に入職した湘南鎌倉総合病院は、朝6時から外科の回診がある病院でした。当然、若い研修医は回診の準備をしないといけませんから、もっと早い時間に出勤します。夏はいいのですが、冬場はまだ真っ暗で、なおかつ家に帰れる時間帯も日付が変わってからという毎日でしたから、夜中に帰って夜中に出ていくような生活でした。でも、そんな毎日を楽しんでやっていました。つらいことも当然ありましたが、寝る時間も惜しんで、とにかく日々の仕事を楽しんでいくうちに、だんだんと外科医としての力に変わっていったのかなと思います。とにかく現場に出る、患者さんと接する、これはかけがえのない経験でした。

成田富里徳洲会病院の院長となった今も、この気持ちは変わっていません。院長は病院をマネージする仕事ではありますが、私は現場主義、現場が全てだと考えています。ですから、私は今も臨床の場に出ています。そうすると、今、現場で起こっていることや問題、よいことも悪いことも、その場で見ることができるのです。そうすれば、すぐに改善につなげることができます。

ほかにも、意識して医師たちとコミュニケーションをとっています。院長という肩書きになってしまうと、やはり声をかけづらいだろうなと思いますから、できるだけ私のほうから声をかけて、現場の声を聞くようにしています。

ですが、私は本来人見知りなのですよ。ひとりでいるほうが好きなタイプなのですが、スポーツや旅館業などの育ってきた環境や、過ごしてきた仲間たちのお陰で、こういったことができているのかもしれません。

初心を忘れず、さらに未来へ

湘南鎌倉総合病院では、研修管理委員長という、研修医を束ねる役割をしていました。外科だけではなく、内科などのほかの診療科や後期の研修医も含めると80人ほどの研修医が在籍していたと思います。

そのときに伝えていたのは、「三つ子の魂百まで。初期研修医のときに学んだことが、この先、10年経っても20年経っても基本になっていくよ」ということです。

先輩の立ち居振る舞い、患者さんに対する態度や話しぶりなど、マナーひとつとっても、全てが礎になります。それは私自身も実際に経験したことでもあります。ですから、これは当院で研修してくれた医師に対しても伝えています。常に最初が肝心ということですね。

外科医としては、やはり自分が経験した治療などをできるだけ後進に伝えたいという思いがあります。この技術はどうして身につけたものなのか、どういう訓練を積んだのか、という手術の細かい話も含めて、できるだけ伝えたい。ですから、今もできるだけ後輩と一緒に手術をするようにしています。成田富里徳洲会病院では、後輩の先生たちと手術をする機会が多く持てているので、自分にとってもその場が多いことは有益です。

患者さんのニーズは何か、真摯に向き合うことを忘れずに

両親が日々、旅館業で実践していたこともあり、私の根底には“お客さまにいかにして満足して帰っていただくか”というホスピタリティ精神が根付いています。これは医師として働く今も確実に生きていて、患者さんの満足を、ニーズを満たすということを常に考えています。

たとえば日々の診察で大切にしているのは、患者さんの話を聞くこと。外来では、患者さんが増えてくると、ひとりにかけられる時間は少なくなりがちです。それでも2時間、3時間と待ってでも、私に会いに来る患者さんがいらっしゃいます。さらに1か月おき、3か月おきでの来院だと、その期間に体に起こったことを話したり相談したりしたくて外来に来ている。そういう患者さんに対して、忙しさにかまけて話をきちんと聞かないということはしないようにしています。

どんなに時間がかかっても、待ち時間が長くなったとしても、可能な限り話を聞く。それだけでも患者さんの支えになる部分があると思うので、外来、日々の診療の全てで常に心がけています。これが最終的には、“患者さんがいかに満足して帰っていただくか”ということにつながるのかなと思います。

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