100人の妊婦さんがいれば100通りのお産がある

DOCTOR’S
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100人の妊婦さんがいれば100通りのお産がある

1つの考え方に固執せず、常に新たな道を探る三原 卓志先生のストーリー

戸塚共立レディースクリニック 副院長
三原 卓志 先生

中学生の頃に芽生えた使命感

私の父は内科の勤務医でした。夜中に病院から呼び出されて出かけていく父の背中を目にしたことは覚えていますが、仕事について直接父から話を聞くことはほとんどなかったように思います。それでも、“医師になる”という選択肢はいつの間にか自分の中に存在していました。とはいえ、幼い頃から明確に医師を目指していたわけではなく、旅行、特に鉄道旅行が好きだったことから鉄道運転士に憧れた時期などもありました。

医師になろうという思いが特に強くなったのは、中学生の頃でした。3歳年の離れた兄が高校の文理選択で文系に進んだことで、兄は医師にならないのだと分かりました。そこで“医師にならなくてもいいのか”と考えてもおかしくはなかったのですが、なぜか当時の私には“俺が医者にならなくては”という強い使命感が芽生えたのです。そこからは医師以外の選択肢はあまり考えなくなりました。

内科的要素と外科的要素を併せ持つ産婦人科へ

私が医学部に在籍していた頃は、今の研修医制度のように医学部卒業後に各科で研修を行ったうえで、最終的に自身の専門領域を決めるというものではなく、医学部卒業時点で自身の専門領域を決め、その科で研修医として学ぶという制度でした。そのため、私は医学部4年生か5年生のときには、今後自分はどうしていきたいのかを具体的に考えるようになっていました。初めに考えたことは“医師になったからには、薬を用いた内科的治療と手術などの外科的治療、両方をやっていきたい”ということでした。しかし、その当時、私が内科と外科それぞれに抱いていたイメージは、内科はお薬を出すだけ、外科は手術を行うだけ、というものでした。実際には内科がカテーテルを用いて治療を行ったり、内科と外科でチームを組んで治療にあたったりすることがありますが、現場を目にしていない私はそのように感じていたのです。

そして、内科的治療と外科的治療、どちらの要素も持つ科はどこだろうと考えたときに思いついたのが、産婦人科でした。産婦人科では妊婦さんの健康を薬で管理したり、外科的な処置である帝王切開を行ったり、婦人科の腫瘍を手術で取り除くこともあれば、薬で治療することもあります。こうして私は、内科的要素と外科的要素を併せ持つ産婦人科へ進むことを決意しました。

すでにあるレールに“乗せる”のではなく、自らレールを“敷く”

現在ではお産を専門にしていますが、産婦人科に進んだ当初はどちらかといえば婦人科をメインにしたいと考えていました。医学部時代から、内分泌領域の勉強が好きだったため、関連性のある不妊症治療に関わりたいと考えていたのです。しかし、ちょうど私が中堅医師となる頃、産婦人科医がお産時の過失責任を問われ逮捕されてしまう事件が起きました。この事件がきっかけで、全国的に産科を希望する医師が減少するという事態となってしまったのです。私がいた大学病院も例外ではなく、産科は人手不足となり、人事的な側面から私は産科をメインとするようになっていきました。

こうした社会的な背景から、当初の希望とは異なり産科がメインになったものの、元々産科領域も好きだったため、診療を重ねることでさらにその面白さにのめり込んでいきました。

私にとって産科の最大の魅力は、“自らレールを敷いていく”という点にあります。妊娠の期間には必ず終わりがあり、その最終的な目標は母子ともに健康にお産を終えることです。ただ、それに向かう日々の経過は本当に人それぞれです。ほかの診療科では“この病気だから、治療はこう”とすでにある程度レールが敷かれている場合が多いですが、そのレールにうまく乗れるように治療を進めていくことが非常に難しい点でもあると思います。一方で、産科の場合には目的地は決まっており、そのうえで目的地に至るまでの道筋は、患者さん1人ひとりに合わせて医師が土地を開拓しレールを敷いていく必要があるのです。私は、100人の妊婦さんがいれば100通りのお産があると考えています。妊婦さんごとに、どういう経過になるのか、どういう点に注意していく必要があるのかを考えること、そしてそのレールがベストだったのかを毎回振り返ることは非常に難しく、また産科の大きな魅力でもあります。

三原 卓志先生

“主治医”として自分の子どものお産に携わった経験

これまでの産科医人生のなかで、産科医をやっていてよかったともっとも感じたのは、ちょうど1年ほど前、主治医として自身の子どもを取り上げたときでした。妊婦健診から超音波で自分の子どもが成長する過程を見続け、実際に子どもが生まれてきたときにはとても不思議な気分になりました。私のように自身の子どものお産を担当する産科医もいらっしゃるようですが、お産が難航し、子どもの心音が下がったときなどに冷静さを欠いてしまう方も多いと聞いていました。今振り返ってみると、お産自体が非常に順調だったこともありますが、私は終始、父親としてというよりは産科医としてその場にいたなと感じます。自分でも驚くくらい、冷静な自分がいましたね。妻も産婦人科医で互いに専門知識があるため、少し特殊な状況ではあるかもしれませんが、子どもを思う親の気持ち、出産を控えて不安になるご家族の気持ちなどを、これまでよりもさらに考えるきっかけになった非常に貴重な経験でした。

“絶対”や“100%”と決めつけず、あらゆる可能性に対する準備を

私がお産に携わるうえでもっとも大切にしていることは、“決めつけない”ということです。このようなお産になるだろうという見通しを持ちつつも、常に“これは私が経験していないお産だ”という気持ちで臨んでいます。だからこそ、そのときの状況に合わせてさまざまな選択肢を持てるよう、1つのことに固執しない、こだわりすぎないように気を付けています。これまで多くの先生方にお世話になってきましたが、その都度、“この先生のこの考え方を取り入れよう”“こんな考え方もあるのか”と、いろいろな方々のいいところ取りをしてきました。お産と同じように、100人の医師がいれば考え方も100通りあると思っているので、ほかの先生方がどんなことを考えているのかということには常に興味を持っていますね。そして、この根本にはどんなお産であってもお母さんと赤ちゃんが安全な状態で終われるようにという思いがあり、また、それこそが産科医として私が目指すべき最高の医療でもあります。これからも私が経験したことのないたくさんのお産のレールを敷き、新たな命の誕生と向き合っていきたいと思います。

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