インタビュー

認知症治療の「今」とは―最大の問題は医療の一面性にある

認知症治療の「今」とは―最大の問題は医療の一面性にある
内門 大丈 先生

医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授

内門 大丈 先生

この記事の最終更新は2015年09月26日です。

2013年に、厚生労働省が「がん」「脳卒中」「急性心筋梗塞」「糖尿病」「認知症」の4大疾病に、うつ病や認知症などを含む「精神疾患」を加えた「5大疾病」を、地域医療の基本方針となる医療計画に盛り込むべき疾病として決定しました。
認知症は誰もが発症するリスクを抱えている病気です。しかし、現状の医療には問題点も多くあります。今回は特に認知症治療に軸を当てて、湘南いなほクリニック院長 横浜市立大学医学部臨床准教授の内門大丈先生とともに、医療の問題点について考えます。

認知症に対する医療の最大の問題点は、その一面性にあるといえます。 認知症患者の「終末期ケア」の考え方とはでも触れたように、認知症は経過の長い病気であり、認知症が進行していく過程で体の病気も発症する可能性があります。そうした場合には、精神科的なケアと併せて、内科的・外科的なケアも必要になってきます。

しかし、認知症の専門医だとしても、体の病気のことまで把握している医師は少ないのが現状です。また、体の病気を診る医師からしたら、認知症は専門外であり、適切な医療を施せないリスクがあります。それぞれの医師が「自分は専門外だから」といって患者さんを押し付け合い、結果的にたらい回しになってしまうという危険性をはらんでいるのです。

「認知症を診る」といったとき、その意味は非常に広範囲に及びます。脳や精神症状だけではなく、その患者さんが持つ持病や合併症に対するケアについても考えられる医師でなくてはなりません。体の病気であれば、専門の医師に連絡をし、連携していくことが重要です。

認知症に対する医療について、重要になるのが「プライマリ・ケア」という考え方です。これは「かかりつけ医」と理解してよいでしょう。患者さんを多面的に診て、精神症状が強ければ精神科、体の治療の優先度が高ければ体の疾患の専門医につないでいくような、治療をコーディネートしていく存在です。

ただ今後は、「認知症も身体の病気も診ることができるかかりつけ医」が求められていくはずです。現在、かかりつけ医に対して、認知症サポート医の研修がおこなわれており、これは厚生労働省の「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」の中でも目標数が設定されています。

認知症の患者さんは、最終的には寝たきりになってしまい、通院できなくなってしまうことが多いため、訪問診療もできるかかりつけ医というのが、なおのこと重要になってくるのではないでしょうか。

医療機関を受診して認知症だと診断されたものの、実は認知症ではなかった、というケースも実は少なくありません。
以前も、他院で認知症だと診断された患者さんが私のもとを訪ねてきました。よく話を聞くと、身体愁訴(漠然とした身体的な体調不良)が多く、悲観的で、意欲低下が強いとのこと。認知症というよりも老年期うつ病を疑いました。そこで、抗うつ薬を服用してもらったところ、症状がとてもよくなりました。この患者さんは認知症ではなくうつ病だったのです。このようなケースを「うつ病性の仮性認知症」と呼んだりします。

この患者さんに対する診断のように、「歳をとっているから全員認知症」と安易に診断を下してしまう医師がいるのも、残念ながら事実です。

さらに認知症の中には、甲状腺機能低下症などの内分泌疾患による認知症や特発性正常圧水頭症などの治療可能な認知症(treatable dementia)も存在します。よって、高齢者の記憶障害や精神症状をみたときに「そもそも認知症なのか? ほかの病気の可能性はないだろうか?」と広い視野を持つことが重要なのかもしれません。

そのうえで、変性の認知症である場合には、それがどのようなタイプの認知症なのか、アルツハイマー型認知症なのか、レビー小体型認知症なのか、前頭側頭型認知症なのか、ということを診断し治療していくことが重要になってきます。

このような現状のなか、医師に求められるのはどのようなことでしょうか。
私は、「2.5人称の視点」こそ、医師に必要な視点なのではないかと思っています。この言葉は、2013年第4回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会の特別講演(日本の覚悟―危機の時代と「決断する医療人」―)で聞いた、柳田邦男氏の言葉です。

3人称(=患者さんと距離を置いた)の視点で患者さんに接すれば、冷静に患者さんを分析することができますが、対人間の医療という面から考えると少し冷たすぎます。患者さんも見放されたと感じてしまうかもしれません。

一方、2人称(=患者さんとの距離が近い)の視点で接すると、感情的になりすぎてしまいます。医師は家族ではないので、近すぎる距離は治療を困難にさせます。そのため、3人称と2人称の間の「2.5人称」の視点が、認知症の患者さんにとってちょうどいい距離感なのではないかという考え方です。柳田氏は認知症の患者さんにと言ったわけではなかったのですが、この考え方は、認知症においてもどの患者さんにおいても大事だと感じました。

 

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    日本精神神経学会 精神科専門医・精神科指導医

    内門 大丈 先生

    1996年横浜市立大学医学部卒業。2004年横浜市立大学大学院博士課程(精神医学専攻)修了。大学院在学中に東京都精神医学総合研究所(現東京都医学総合研究所)で神経病理学の研究を行い、2004年より2年間、米国ジャクソンビルのメイヨークリニックに研究留学。2006年医療法人積愛会 横浜舞岡病院を経て、2008年横浜南共済病院神経科部長に就任。2011年湘南いなほクリニック院長を経て、2022年4月より現職。湘南いなほクリニック在籍中は認知症の人の在宅医療を推進。日本認知症予防学会 神奈川県支部支部長、湘南健康大学代表、N-Pネットワーク研究会代表世話人、SHIGETAハウスプロジェクト副代表、一般社団法人日本音楽医療福祉協会副理事長、レビー小体型認知症研究会事務局長などを通じて、認知症に関する啓発活動・地域コミュニティの活性化に取り組んでいる。

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