足の親指である「母趾」が外側に曲がり痛みを引き起こす「外反母趾」。この外反母趾に対しては、どのような治療をしていくのでしょうか。日本の外反母趾診療における第一人者である、奈良県立医科大学教授の田中康仁先生に、引き続きお話をお聞きしました。
まず、よく聞かれるのはロキソプロフェンナトリウム水和物などの「痛み止めの薬」についてですが、ほとんど効果がありません。外反母趾の痛みは体重がかかったときの痛みです。そのような痛みに関しては、痛み止めの効果は薄くなります。
簡単な装具であっても効果があるケースは少なくありません。これは、外反母趾により神経が圧迫されているパターンが多いからです。このような神経が圧迫されて痛むパターンに対しては、神経の圧迫を外す装具を用いることにより、物理的に痛みを解除することができます。
この種の装具には、特注品でない市販のものも多くあります。ただし、滑液包炎という炎症であるとあまり痛みがとれないこともあります。
足底板療法は、中等度までの外反母趾に対しては有効と言われています。特に子どもの外反母趾に対しては有効になります。子どもの外反母趾の場合は、まだ解剖学的に正常な位置に筋肉が走っています。つまり、母趾は曲がっているもののまだ筋肉はまともな位置にあるということです。そこで筋肉をうまく使えるように足底挿板で調整します。具体的には、体重をかけた時に足の指が広がるような形にするため、足底挿板を使って調整していきます。
外反母趾体操では、足の指のすべてを開く体操を行っていきます。具体的にはグー・チョキ・パーを足で作ったり、両足の母趾に輪ゴムをかけたうえで足先を開く体操を行っていくこともあります。
外反母趾体操の目的は、母趾外転筋がきちんと「利く」ようにトレーニングをすることです。このトレーニングに必要なのは、何よりも足の指を使っていくということです。普段、足の指の筋肉を鍛えるということを意識している人は少ないのではないでしょうか。足の指の筋肉を鍛えることは外反母趾を防ぐためにも、外反母趾の治療をしていくためにもとても大切なことです。
足の指をきちんと動かしていけば、身体のバランスがよくなっていきます。理学療法士の先生にはこれを行われている方もいます。しかし、この観点は現在の医療の多くの場面で抜け落ちてしまっている感覚でもあります。
このように、筋肉をつけたりうまく使うことによって変形を止めることができる間には、手術をしなくても治療をすることが可能です。しかし、ある段階を超えると筋肉も変形を助長する方向に進むようになります。そうなると、これらだけでは治療ができなくなり、手術を行うことになります。手術については、次の記事でご説明します。
筋肉をつけるという考え方は予防のポイントにもなります。また、その他の足の指の拘縮を予防すること、つまり足の指をやわらかく保っていくことも予防になります。普通の人は足の指のことに注意を払っていません。足を触ったり、意識する癖もありません。しかし実は、足の指に注意を払うことも予防の第一歩といえるのです。
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