インタビュー

トランスジェンダーの概念はなぜ生まれたか―性同一性障害の歴史的背景

トランスジェンダーの概念はなぜ生まれたか―性同一性障害の歴史的背景
康 純 先生

大阪医科大学 神経精神医学 准教授

康 純 先生

この記事の最終更新は2015年10月17日です。

性同一性障害はいつから社会に認識されるようになったのでしょうか。その背景は、宗教や文化的習慣などと深い関わりを持っています。アジアに比べ、アメリカやヨーロッパなどの性同一性障害の方たちは、非常に厳しい社会的批判にさらされながら生きた時代がありました。トランスジェンダーという概念はその時代を経て生まれていきました。

一方近年の日本では、人気ドラマで性同一性障害が取り扱われたことによって性同一性障害という名前や概念が一気に広がりを見せ、それまで悩みを抱えていた多くの方々が来院するきっかけになりました。

その歴史的背景と認識の広がりについて、大阪医科大学の康純先生にお話をうかがいました。

日本では、文化的背景から見れば現代の対等な関係の同性愛とは少し異なりますが、主従関係なども関係し、戦国時代には男性と男性のセックスもごくごくあたりまえに行われてきました。しかし性同一性障害の概念においては、「自分は体は男性(女性)であるけれども女性(男性)として生活していきたい」「自分を女性(男性)として表現していきたい」という人を対象とします。

古典的な背景の中でいえば、江戸時代の歌舞伎の世界の女形が挙げられます。現代では歌舞伎役者はふだん男性として生活していますが、昔は日常から女性として生活しないと本当の女形にはなれないといわれていたほどだそうです。そして江戸時代には、男性であるのに女性として生活していた人が、現代ほど偏見を受けることなく存在したということです。そうすると、日本は文化的には西洋とだいぶ違う状況にあったようです。

日本の概念の中では、ジェンダーアイデンティティ(社会的性)はありません。これもジョン・マネーの研究ですが、彼の研究対象はトランスセクシャル(性転換症)や性分化疾患(半陰陽)でした。このような方々の研究をしていく中で、生まれた時にどちらの性別かよくわからない状態で生まれてきた子たちの中に、成長過程で決めた性別と全く異なる性表現をする子たちがいました。さらには、交通外傷などによって完全に性器を失った男の子の行動パターンを追ってみると、一般的な男性と同じことができない生活を送りながら、自分の性別を男性と表現していることがわかりました。

これらの事実をどう表現すべきかという議論の中で、ジェンダーという概念が考え出され、ジェンダーロールというものが世に出され、ジェンダーアイデンティティという概念がつくり上げられていったという経緯があるのです。アメリカではこういった研究が昔から行われてきましたが、日本にはそういった研究の歴史がないため、ジェンダーという概念を輸入しているわけです。

ではなぜ、ジョン・マネーやヨーロッパがそういう概念をつくり出さなければならなかったのでしょうか。それは彼らが属すのがキリスト教社会だからです。キリスト教社会における「男は男、女は女」という宗教的規範は非常に厳しいものです。旧約聖書の『申命記』の中に「男は女の格好をしてはいけない、女は男の格好をしてはいけない、なぜなら神はそういう格好をする人を忌み嫌うからである」という意味合いの記述があります。つまり、基本的には宗教上認められないということです。ジャンヌ・ダルクが火あぶりになったのも、異性装をした罪によるものでした。

厳しい宗教的規範のある歴史背景の中でも、体の性と自分が認識する性が異なる人を理解するために、ジェンダーの概念は必要でした(これに対して仏教国は、身体的性と異なる性の表現をする人たちに対して罪であるとは考えません)。ジョン・マネーは、性科学者であり心理学者ですから、そういった概念を持つ人たちにどう対応するのがよいのか、どう説明するかという過程の中でジェンダー概念をつくり出していったのです。

日本で性同一性障害という言葉が広がり始めたのは、2000年前後からです。これは埼玉医大で倫理審査が通り、性同一性障害の人たちに対する性別適合手術を行うことが倫理的にも正しいと認められ、公に治療が行われるようになってからのことです。アメリカでそういった動きがあることを一部の人は知っていましたが、全国的に広まってはいませんでした。

私が大阪医大で治療を始めたのは2000年頃なのですが、私より年上ぐらいの年代で、体は男性だが女性として生きていきたいと思っていた方々が多く来院されました。

その方たちは、悩みを誰にも言えず、ずっと自分のことを変態だと思い続けていました。それまで自分のことを表現する言葉がなかったためです。しかし「男性として生きていかなればいけないから」あるいは「自分が変態なんて認めたくないから」とあえて自衛隊に入ってみたり、「結婚して父親になればやっていけるのではないか」と、なんとか社会の中で男性として生きようと努力してきた方たちでした。

その後で、性同一性障害という概念が入ってきて、「ああ、自分は変態ではなかった」「こういう概念があるんだ」と知り、それならばやっぱり女性として生きていきたいと離婚を経験されたり、葛藤があったけれど周囲の理解を得られたという方たちが多くいらっしゃいました。

人気ドラマでFTM(身体的には女性で男性の自覚を持つ)が取り上げられた影響もあり「性同一性障害」という言葉がどんどん世の中に広がっていって、今や幼稚園の子が親に連れられてくるという時代になっていると感じています。

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