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インタビュー

性同一性障害の診断と治療方法

性同一性障害の診断と治療方法
康 純 先生

大阪医科大学 神経精神医学 准教授

康 純 先生

ここまで、性同一性障害とはどういうものかについて述べてきました。性同一性障害の方は、小さい頃から身体的にも心理的にも大きな負担を抱えながら生活しているため、すぐに手術治療を希望したり、診断を急ぎたい方も少なくありません。しかし、身体的治療は慎重に決断されるべきであり、多くのガイドラインを参考にして多くの医師が関わることによって治療方針が決定されます。実際の手術やホルモン治療についての詳細を、大阪医科大学の康純先生にうかがいました。

ホルモン治療という性同一性障害の治療があります。MTF(体は男性で女性として生きたい)の場合は女性ホルモンを、FTM(体は女の子で男の子として生きたい)の場合、男性ホルモンを投与していくという治療方法です。しかし、このホルモン治療はある程度年齢が経過すると骨格が固まってしまうため、限定的な効果しか見込めないこともあります。つまり、若いうちに、二次性徴が始まらないうちならば、身体的にほぼ違いがないので、ホルモン治療によって身長が高い、低いなどの特徴はありますが、本当にそれぞれ女性、男性のようになっていくと言われています。人の風貌には、後天的なホルモンが大きく影響するのです。

ジェンダークリニックとしては、子どもたちと大人とは分けて考えています。基本的に、幼稚園や小学生など中学生になるまでの子どもたちに関しては、身体的治療をするわけではありません。

大人には身体的治療を求める方がかなり多いので、精神神経学会が出している診断と治療のガイドラインに沿って、望む治療を提供することもクリニックとしての役割です。まずは二人の医師による確定診断を行い、その後必要に応じて身体的治療も行いますが、一番の目標はその人が自分らしさをきちんと表現して生活できるようになること、そのための精神的サポートをしていくということです。昔のような「精神療法といわれる精神的な介入」というよりも、あくまでも本人の希望している部分を受け止めて、それがよりうまく行えるようにサポートするということが重要です。

ただし、性同一性障害の方々は身体的な違和感を非常に強く感じていることが多いので、それを和らげるためにホルモン療法や手術療法が規定されています。本人がどうしてもという希望を持っていれば、身体的治療に移行する場合もあります。その場合、「身体的治療に関する意見書」というものが作成され、一定の条件がクリアされているかどうかが判断されます。

ホルモン療法や手術治療は身体的な変化をもたらします。その際に、周囲の理解が望めるか、仕事が続けられるかなど、治療によって身体的変化が起こっても、日常生活が問題なく続けられるほどその方の生活が確立されているかが判断されるのです。その意見書をもとに、多くの医師によって身体的治療が必要だと判断されてはじめて身体的治療を受けることができます。身体的治療はそれぞれの専門医が行いますが、その過程での精神的なサポートと、最終的に性別変更診断書も書きますし、必要であれば性別変更後も精神的サポートを行うのが精神科医の役割です。

一方、子どもには身体的治療をしないのが大原則です。私たちの本質的な役割は、その子がしっかり自分らしさを表現しながら、学校生活、家庭生活を送っていけるようにサポートすることです。これは完全に、家族の理解と、学校や友達など環境の理解によるところが大きく、医者が介入しなくても受け入れる環境が整っていれば可能なことです。

ただ、その環境としての学校には、準備や経験がない場合がほとんどです。さらに、二次性徴が始まる時期には個人差がありますが、その時期に自分の二次性徴(身体的変化)に嫌悪感を覚える子は非常に多いです。月経が始まるなどの大きな体の違和感に気持ちが対応しきれずにリストカットなどの自傷行為を行ってしまうケースが圧倒的に増える時期でもあるのです。

あるMTF(体は男の子で女の子として生きたい)のお子さんで、幼稚園のときにはじめて来院したお子さんがいました。その親御さんは、本人の希望する性別で小学校に通学させたいという希望をお持ちでした。その子は女の子として小学校に入学することはできたのですが、これからさらに大きくなって身体が変わっていく段階でどうサポートできるのかという点が問題です。当時、二次性徴を迎える子どもをどうサポートすれば良いのかというガイドライン(指針)もなく、どう対応すればいいのかがわかりませんでした。

そのとき、ちょうど第10回GID学会(性同一性障害の学会)を主催することになり、外国からリチャード・グリーンという専門家に来ていただきました。この方には、小さい子どもたちをずっと診てきた実績がありました。彼らの文献を見ていくと、外国では「思春期抑制療法」を採用していました。

抑制療法を行うと、思春期、つまり二次性徴が止まります。二次性徴を止めていいのかという議論もありますが、ここで使われるGnRHアナログというホルモン製剤は、前立腺がん閉経前の乳がんなど、その進展にホルモンが影響するような場合の治療に使われています。他には思春期早発症といって、通常よりも思春期が早く来てしまう子どもの治療に使われていたのですが、この思春期早発症に対する治療のデータを見るとほとんど副作用がありません。海外の性同一性障害の子どもに使った例を見ても、副作用がなく、かなり高い効果があることがわかっています。また、この治療を中止すると再び二次性徴がはじまるという、完全な可逆的治療といわれているのです。

海外でも、幼少期に性別確定を行なったり、クロスホルモン治療(その時の身体的性別と違う性別のホルモンを入れる)を行うのはかなりリスキーであると認識されています。それに対してGnRHアナログは、大人と同じ身体的治療が開始できるまでの猶予期間を持てるようにするための一時的な措置として、非常に有効な治療とされていました。これを機に、この治療法をガイドラインにのせるよう日本精神神経学会の「性同一性障害に関する委員会」に提案しました。

ここで「どの程度の期間二次性徴を止めるのが適当なのか?」という問題があります。二次性徴がはじまる時期には個人差があります。二次性徴を抑制するのは、二次性徴が始まったときに身体的変化に対する違和感が非常に強くなった場合に開始します。

しかしこの治療は1回3万5千円かかるため(2015年時点)、それぞれの家庭の事情も考慮する必要があります。GnRHアナログ治療を行い、身体的違和感を軽減しながら、自分はどのような性として生活していくのがふさわしいのかをじっくり見つめていただきます。その上で身体とは別の性別で生きていくことが自分には必要だと判断され、それが可能な実生活を確保できているときにクロスホルモンによる治療に移行していきます。

海外の文献ではGnRHアナログ治療からクロスホルモン治療に移行するまでに2年を基準にしているものがあります。これまでの日本のガイドラインではGnRHアナログ治療を行うのは18歳までとなります。これは、クロスホルモン治療を開始できるのが18歳であることに起因しています。しかし、小学校の高学年で二次性徴が始まったとして18歳まで二次性徴を押さえておくことが必要だとは思われませんでした。現在は15歳頃を目処にクロスホルモン治療ができるようにガイドラインの緩和を提案し、それが認められました。

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