概要
思春期は大人になるために心身ともに成長し、それぞれの性に合った生殖能力を獲得する時期を指します。この時期にはそれぞれの性に合致した性ホルモンが分泌されることで、体型が変化し、最終的には女性では初潮、男性では声変わりや夢精が生じます。思春期早発症は、この時期が通常よりも著しく早く生じることを指します。
この病気の問題は、大きく分けて2つあります。1つ目は思春期早発症の背景になんらかの病気が隠れている可能性があることで、その発見のきっかけになる場合があります。2つ目は思春期が早期に発来する結果として生じる問題です。すなわち、周囲とは異なる体型変化によって集団生活に支障が出たり、最終的な身長が低くなったりする可能性があることです。
一般に思春期早発症の定義は、女児では8歳未満、男児では9歳未満で思春期が始まることを指します。ちなみに“思春期が始まる”とは女性では乳房の軽度の腫大、男性では精巣容量の増加など、微細な通常では気付かれにくい徴候を指します。
一方、思春期としてよく認知される初潮や声変わりは二次性徴の完成期の現象です。これらは、思春期の始まりから1~2年経過していることが多く、その時間的ずれについて注意が必要です。また、男性女性に共通したもう1つの思春期開始の徴候が成長率の増加です。このため学校健診での成長曲線作成が発見のきっかけになることもあります。
原因
病気のタイプ
思春期早発症は大きく分けて、1.体質によるもの(特発性思春期早発症)、2.なんらかの基礎疾患が背景にあるもの、3.実は正常の発達で病的な思春期早発症ではないもの、の3つに分類されます。
1は女性に多く、女性の思春期早発症の多くは特発性思春期早発症といえます。一方、男性は、2のなんらかの基礎疾患がある場合が多く、原因検索のための詳細な検査を必要とします。
3は体質によるもので、幼少時に乳房が腫大したり、陰毛が生えたりすることがありますが、本格的に二次性徴が進むことはありません。1、2と3との区別のために詳細な検査を必要とすることがありますが、3と判定されれば治療は不要です。
病気のしくみ
思春期は性ホルモンの分泌によって開始しますが、思春期早発症ではこの性ホルモンが通常より早く分泌されるようになることが原因で発症します。
性ホルモンは卵巣や精巣から分泌されます。精巣や卵巣は脳の下垂体から分泌されるゴナドトロピンと呼ばれる2つのホルモン(LH、FSH)の刺激を受けて性ホルモンの分泌を促します。また、下垂体がゴナドトロピンを分泌するには、脳の視床下部から分泌されるゴナドトロピン放出ホルモンの刺激を受ける必要があります。つまり、性ホルモンは視床下部から下垂体に刺激が与えられ、さらに下垂体から卵巣や精巣に刺激が与えられることで分泌が開始されます。
性ホルモンの分泌が早まる原因は複数あります。多くは、明らかな原因がなくゴナドトロピンが早期から分泌される “特発性思春期早発症”です。
一方、なんらかの病気によって生じる思春期早発症の場合、その原因はさまざまです。下垂体や視床下部に生じる腫瘍や頭部外傷、水頭症などでLH、FSHの分泌が亢進する場合や、LH様作用をもつ腫瘍によって性ホルモン産生が促進される場合、さらには性ホルモンの分泌を促す副腎や卵巣・精巣の腫瘍が原因で発症することもあります。特に男性ではこうしたなんらかの病気が背景にある可能性が高いとされています。
症状
思春期早発症は通常よりも思春期が2~3年ほど早く開始される病気です。
男児の思春期は通常、11~12歳前後で開始します。9歳までの精巣の大きさの増大、10歳までの陰毛の出現、11歳までに声変わりや腋毛・ひげがある場合に思春期早発症を考えます。
女性では通常、10歳頃から思春期が開始します。思春期早発症では7歳半頃までの乳房の発達、8歳までの陰毛や腋毛の出現、10歳半までの初潮を指します。
注意すべき点は、思春期早発症を発症すると男女ともに性ホルモンの効果で一時的に身長が伸びるものの、成長が早期に終了するため最終的には低身長になることです。また、周囲との体の違いが目立つようになることから学校などでの社会生活に支障をきたすケースも少なくないとされており、心理的・社会的な問題も伴いやすくなります。
検査・診断
身体的な特徴や成長曲線の推移などから思春期早発症が疑われるときは以下のような検査が行われます。
血液検査
一般的な血液検査に加え、ゴナドトロピン(LH、FSH)、性ホルモン(男性:テストステロン、女性:エストラジオール(E2)を調べます。
画像検査
主に頭部、腹部の超音波、MRIなどの画像検査をします。思春期早発症は脳腫瘍、副腎腫瘍、卵巣腫瘍、精巣腫瘍などが原因のことがあり、これらの病気の有無を調べることが目的です。
また、思春期早発症では骨の成熟が通常よりも早くなるため、手や手首のX線検査を行って骨年齢を調べる検査を行うことがあります。
治療
治療の考え方
治療開始前に治療の目的について医師からよく説明を受け、理解したうえで行うことが大切です。二次性徴を不必要に遅らせることは、二次性徴期で獲得すべき骨塩量を減少させるとされ、将来的な骨粗鬆症発症のリスクを上げるとされています。また、中学生になっていつまでも二次性徴がこない状態は心理的にも好ましくありません。治療は最小限に留めるべきとされています。
思春期早発症の治療目的は2つです。すなわち、二次性徴が幼い年齢で出現することによる心理社会的問題の解消と最終身長予後を改善することです。ここで大切なことは、思春期早発症と診断された症例の全てが治療対象となるわけではないことです。特に身長に関しては、一般に女性で6歳以降、男性で9歳以降に治療を開始する場合には、改善が期待できないとされていることに注意が必要です。
治療法
基礎疾患によって発症した場合にはその原因に対する治療を行います。治療は原因によりさまざまです。
一方、女児に多くみられる特発性中枢性思春期早発症の場合は、ゴナドトロピン(LH、FSH)の分泌を抑え、性ホルモンの分泌を抑制させる目的で、“LH-RHアナログ”という薬を使用します。この薬はほぼ確実に二次性徴を抑制できることに加え、適切な使用範囲であれば想定外の副作用がほぼないこと、使用を中止することで確実に二次性徴の回復が期待できることが特徴です。原則、月1回の皮下注射で治療します。
LH-RHアナログの治療では、もともとの薬がもつ作用の結果、1回目投与で女性の場合、性器出血が生じる可能性があることに注意が必要です。これは性成熟がある程度進行してから治療する場合に多くみられます。通常、投与後1週前後で生じます。
二次性徴は治療中止後速やかに回復します。女児の場合、治療を始める前に性器出血があった場合は3~6か月以内、性器出血がなかった場合は2年以内にほぼ全ての例で月経が起こります。
予防
思春期早発症は原因が分からないものや、予防方法がない病気が原因のものもあり、発症を予防する方法は現在のところありません。
しかし、思春期早発症は早めに適切な治療を行わないと将来的に低身長になるなどさまざまな支障が生じます。年齢に見合わない身長の伸びや身体的な成熟がみられるときはできるだけ早く医師に相談するようにしましょう。
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