概要
卵巣腫瘍とは、卵巣に発生する腫瘍の総称です。
卵巣は子宮の左右に1つずつある臓器であり、卵子の成熟や排卵が行われるなど“生殖”に深く関わる臓器の1つです。卵巣に発生する腫瘍は、腫瘍の元となる組織によってさまざまなタイプがあります。卵巣腫瘍の多くは良性ですが悪性腫瘍が生じることもあり、お腹の中の臓器に転移しやすいのが特徴です。
卵巣はお腹の奥に存在するため、腫瘍が発生したとしても初期段階での自覚症状はほとんどありません。しかし、良性・悪性にかかわらず卵巣腫瘍は大きくなりやすい性質があり、正常ではウズラの卵大の卵巣が30cm以上にも拡大することがあります。そのため、進行すると腹囲の拡大、下腹部痛、腰痛、お腹の張りなどの症状が見られるようになります。また、治療をせずに放置すると腫瘍が破裂したり、腫瘍の付け根が捻じれて血流が低下することで壊死に至る“茎捻転”が生じたりすることもあるため注意が必要です。
原因
卵巣腫瘍には腫瘍の元となる組織によってさまざまなタイプがあります。その多くは、どのような原因で発症するのかはっきりとは分かっていません。
しかし、良性腫瘍の一種である“チョコレート嚢胞”は、子宮内膜が卵巣内で生育して出血を繰り返すことで発症すると考えられています。
一方、悪性の卵巣がんは妊娠・出産経験が少ない人、多嚢胞性卵巣症候群や子宮内膜症の既往がある人、肥満傾向の人が発症するリスクが高いとされています。さらに、卵巣がんの5~10%は遺伝子の変異が関与していると考えられており、なかには卵巣がんとともに乳がんの発症率も高くなる家族性乳がん卵巣がん症候群の原因遺伝子が分かっています。
症状
卵巣は“沈黙の臓器”と呼ばれるように、何らかの病気を発症しても自覚症状はほとんどありません。しかし、進行して腫瘍が大きくなると下腹部の張りや痛み、腰痛などを引き起こします。また、腫瘍が膀胱や大腸を圧迫することで頻尿や便秘を引き起こしたり、性交痛や排便痛が見られたりすることも少なくありません。さらに腫瘍が大きくなると、下腹部を中心に腹囲が異常に拡大し、体表面からしこりを触れるようになります。また、腫瘍が大きくなる前からお腹に水がたまる(腹水)場合があります。なかには胸にも水がたまって(胸水)呼吸困難などの症状を引き起こすことがあります。
そして、卵巣腫瘍は大きくなりすぎると破裂する危険性があります。ある一定の大きさになると卵巣の血管が捻じれる茎捻転を引き起こしたりすることがあり、激しい下腹部の痛みが生じます。茎捻転のときには卵巣を早急に切除しなければ死に至る可能性もあるため注意が必要です。
なお、良性腫瘍は転移を起こすことはありませんが、悪性腫瘍は進行するとがんが腹膜に転移し、お腹の中の全体に転移が広がってしまうケースも少なくありません。実は、卵巣がんの半数はすでにお腹に広がっている状態で発見されます。このような場合には、上述した卵巣腫瘍としての症状だけでなく、食欲不振・倦怠感・貧血・体重減少などさまざまな全身症状が引き起こされます。
検査・診断
卵巣腫瘍が疑われるときは次のような検査が行われます。
画像検査
卵巣の状態を確認するためには画像検査が必須となります。一般的には、超音波検査で卵巣の大きさや性状の異常の有無を簡易的に評価し、卵巣に異常があると判断された場合はCTやMRIでの精密検査が行われます。
特にMRI検査は卵巣腫瘍のタイプを鑑別するうえでも重要な検査となります。
血液検査
卵巣がんを発症すると腫瘍マーカー(がんを発症すると体内で産生量が増える物質)“CA125”が高値になることが分かっています。そのため、良性腫瘍か悪性腫瘍か簡易的に判定するために血液検査が行われることがあります。
腫瘍マーカーの数値のみでは卵巣腫瘍の有無やタイプの診断を下すことはできませんが、治療効果の判定や再発の早期発見にも有用な検査とされています。
腹水検査
卵巣腫瘍は大きくなると、良性・悪性にかかわらず腹水がたまるようになります。腹水の中には腫瘍の細胞も含まれているため、腹水を採取して顕微鏡で詳しく調べる検査が行われることがあります。良性・悪性を鑑別することができ、治療方針を決めるうえでも必要な検査です。
治療
卵巣腫瘍と診断された場合は、次のような治療が行われます。
手術
基本的に、卵巣腫瘍は手術による治療が行われます。手術の方法は腫瘍の大きさや広がり、年齢などによって異なり、良性腫瘍の場合は腫瘍部分のみを切除する手術が行われます。
一方、良性腫瘍であっても腫瘍が大きくなっている場合は卵巣ごと切除することとなります。また、悪性腫瘍の場合は進行度によって卵巣だけでなく卵管、子宮、周囲のリンパ節・腹膜などを広範囲に切除しなければなりません。
薬物療法
悪性腫瘍の場合は、再発を予防するために手術後に抗がん剤や分子標的治療薬による薬物療法を行うのが一般的です。また、発見時すでに進行していて手術が困難な場合は第一に抗がん剤治療を行い、がんが小さくなった段階で手術を行います。
放射線治療
放射線を照射して腫瘍の縮小を図る治療法ですが、卵巣腫瘍に対して放射線治療を行うケースは少ないとされています。しかし、手術後に再発した卵巣がんに対して、痛みなどの症状を改善する目的で行うこともあります。
予防
卵巣腫瘍は明確な発症メカニズムが解明されていない部分も多く、予防法は確立していません。
一方で、卵巣がんの5~10%は遺伝が関係すると考えられているため、卵巣がん患者が血縁関係者にいる場合は定期的に健診を受けることが大切です。また、近年では遺伝子検査を行ったうえで卵巣がんになりやすいことが分かった場合は、がんを発症する前に予防的に卵巣を摘出する手術を行うケースも増えています。
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