概要
精巣腫瘍とは、精巣から発生する腫瘍の呼び名です。多くは悪性腫瘍(がん)であり、20~30歳代の若い世代に発症しやすいのが特徴です。
発症すると陰嚢が腫れたり、しこりを触れたりするようになります。痛みなどの症状をほとんど伴わないため発見が遅れるケースも少なくなく、進行すると、腹部のリンパ節に転移し、肺や肝臓などに遠隔転移することもあります。かつては進行した状態で発見されると治療ができないケースもありましたが、現在では効果の高い抗がん剤が開発されたことにより、転移を起こしているような進行したケースでも治癒を見込めるようになっています。
精巣腫瘍のはっきりした原因は不明ですが、停留精巣の既往がある場合は精巣腫瘍を発症するリスクが高いと考えられています。
原因
精巣腫瘍は、精子をつくる精細管上皮細胞と呼ばれる細胞から発生します。
明確な発症メカニズムは解明されていません。しかし、精巣腫瘍は生まれつきの病気である“停留精巣”の既往がある男性に発症しやすいことが知られています。精巣は胎児期にお腹の中で形成され、徐々に陰嚢内へ下降していきます。しかし、正常に下降しないと陰嚢内に精巣が収まらず鼠径部(足の付け根)やお腹の中に精巣が存在した状態で生まれます。
このような発生異常を停留精巣と呼び、通常は乳児期に精巣を陰嚢内へ固定する手術を行います。ただし、精巣腫瘍はこの手術の有無にかかわらず、停留精巣の既往がある人に発症頻度が高いことが分かっています。
また、精巣腫瘍は兄弟での発症リスクが通常の人よりも若干高いため、遺伝的な要因の関与も指摘されていますが、親子で遺伝する病気ではありません。
症状
精巣腫瘍を発症すると、陰嚢が腫れたりしこりを触れたりするようになります。痛みを伴うことはほとんどないためすぐに病院を受診せず、発見が遅れることも少なくありません。
また、進行すると腹部のリンパ節、肺、骨、肝臓、脳などに転移を起こすことがあります。ほかの臓器に転移が生じた場合は、その部位により、咳・息苦しさ・血痰、腰痛・骨折、麻痺などの症状が現れます。
また、精巣腫瘍はホルモン様物質を産生することがあり、その結果、女性化乳房(乳房が膨らむ)などの症状が現れることもあります。
検査・診断
精巣腫瘍が疑われる場合は以下のような検査が行われます。
画像検査
精巣に腫瘍があるか否かを調べ、転移の有無を確認するために画像検査が必要となります。
精巣の腫瘍を簡便に調べられるのは超音波検査ですが、MRIで評価することもあります。また、リンパ節や他臓器への転移の有無を調べるためにはCT検査が必要です。
血液検査
精巣腫瘍はhCGやAFPなどの腫瘍マーカーを産生する場合があるため、これらの測定を行うのが一般的です。
なお、腫瘍マーカーの測定は診断に役立つだけではなく治療効果を判定したり、再発の有無を調べたりする際にも行われます。
病理検査
精巣腫瘍には顕微鏡的な分類(組織型)にいくつかのタイプがあり、それによって治療法や経過の見通しが異なるため、手術で摘出した腫瘍の組織を顕微鏡で詳しく観察する病理検査を行います。大きく“セミノーマ”と“ノンセミノーマ”の2つの組織型に分類され、セミノーマのほうがやや治りやすい病状とされています。
治療
精巣腫瘍の最初の治療は手術によって精巣を摘出することです。手術は、精巣の血管を下腹部で縛ってから精巣と腫瘍を摘出する“高位精巣摘除術”という方法が行われます。
転移がなければ手術のみを行い、経過観察を行います。その場合も1、2割の方には将来的に転移(再発)が出てくるため、その際には抗がん剤治療が行われます。
また、再発を防ぐために予防的に抗がん剤治療を行う場合もあります。転移がある場合は高位精巣摘出術を行った後に抗がん剤治療や放射線治療で治療します。精巣腫瘍は抗がん剤が非常に効きやすいがんであり、転移が生じている進行した段階で治療を開始しても治癒率はおおよそ80%に上るとされています。
予防
精巣腫瘍ははっきりした原因が解明されておらず、予防方法は特にありません。
一方で精巣腫瘍は進行が早いことが多く、より早期の段階で治療を行ったほうが完治の可能性は高まります。このため、痛みがなくても精巣が固く腫れているなど疑わしい症状があったら、早めに泌尿器科を受診することがもっとも大切です。停留精巣の既往がある、片方の精巣に腫瘍ができた既往があるなど、精巣腫瘍の発症リスクが高い場合は、自分でも時々精巣にしこりがないか触ってみる、あるいは定期的に健診を受けることが有用でしょう。
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