デュピュイトラン拘縮は、アジアではみられない病気であるとされていました。ところが近年、日本でもデュピュイトラン拘縮の患者さんがしばしば手の外科を受診するケースがあるといいます。日本手外科学会の認定手外科専門医でもあるJR東京総合病院整形外科部長の三浦俊樹先生にお話をうかがいました。
手のひら(手掌)の皮下には線維性の手掌腱膜(しゅしょうけんまく)というものがあり、ほかの部分に比べて手のひらの皮膚が移動しにくい構造になっています。このことによって物が握りやすくなっているのです。
前腕の屈側中央を走る長掌筋腱(ちょうしょうきんけん)と手掌腱膜はつながっていて、手掌では長掌筋腱が各指に向かって扇状に広がっています。
デュピュイトラン拘縮とは、手のひらから指にかけて硬結(こぶのようなもの)ができ、皮膚がひきつれて徐々に伸ばしにくくなる疾患です。薬指と小指に多く見られますが、他の指や足の裏にもできることがあります。進行すると指が手のひらに対して垂直に立っているような状態になり、さらに進むと常に指を握ったまま、伸ばそうとしても指が伸びなくなってしまいます。
病名はこの疾患を研究していたことで知られるフランスの外科医Dupuytrenの名前からつけられていて、デュピュイトラン、デュプイトラン、デュプイトレンとも表記することがあります。
高齢の男性や糖尿病患者に多く見られます。他の手の疾患と同様に、糖尿病の方はコラーゲンなど結合組織の異常が起こりやすいのが要因であると考えられます。
また、北欧系の白人に多く黒人に少ないため遺伝的な素因が疑われていますが、詳しい原因は分かっていません。従来はアジアでは発症しないと考えられていましたが、近年、日本でも患者数が増えつつあります。このことから、高血圧やほかの病気と同じように、遺伝的な素因だけが関与しているのではなく、高齢化や生活習慣の欧米化といった環境要因が相互に関わっているのではないかと考えられています。
腱の断裂や癒着、腫瘍などのほかの病気と区別する必要がありますが、手の硬結と典型的な指の変形などにより、整形外科医が見れば正確に診断することができる病気です。
この拘縮は組織が肥厚(厚みが増すこと)して突っ張るという構造なので、本来の意味での腫瘍とは異なるものですが、腫瘍であると考えて安易に切除してしまうと、一緒に巻き込んでいる神経を切ってしまい、障害が残ることもありえます。
指の変形で日常生活に支障をきたすようになると、皮膚の突っ張りをとる手術(腱膜切除)を行います。基本的に薬物療法や注射は効果がなく、手術による治療になります。痛みがなく、進行しない場合は手術の適応ではありません。しかし、屈曲拘縮が進行すると、手術をしても関節可動域が完全に改善しないこともあり、手術のタイミングが非常に重要です。
たとえばMP関節(人差し指〜小指のつけ根の関節)が曲がっている場合、ある程度時間が経過してからでも手術によって指が伸ばせるようになりますが、ひとつ先のPIP関節が曲がっている場合、手術のタイミングが遅いと手術しても指が伸ばせないといったことがありえます。このため、同じデュピュイトラン拘縮であっても、そのパターンによって手術をお奨めするタイミングが異なってきます。
これまでは手術以外に治療方法がありませんでしたが、海外では先行して使われ、今年(2015年)日本でも承認されたコラゲナーゼという薬による治療が可能になりました。この薬はコラーゲンを分解して溶かす働きがあるので、患部に注射して力学的に弱くなったところで、強制的に指を伸ばして拘縮している部分を切るという使い方をします。その結果、しこり自体は残りますが指を伸ばせるようにはなります。手術に比べて侵襲度の低い(患者さんの身体を切開などで傷つけない)治療ではありますが、周りに薬がもれてしまうと患部以外の正常な組織を壊してしまうというリスクがあります。そのため手の外科専門医の中でも、さらにe-ラーニングを受けるなど限られた医師のみが使えるということになっています。
JR東京総合病院 整形外科 部長
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