インタビュー

腱鞘炎の概要と治療法-ばね指とドケルバン病

腱鞘炎の概要と治療法-ばね指とドケルバン病
三浦 俊樹 先生

JR東京総合病院 整形外科 部長

三浦 俊樹 先生

この記事の最終更新は2015年10月27日です。

腱鞘炎は指を酷使する人がなりやすい病気として知られていますが、原因はそればかりではありません。加齢や糖尿病も腱鞘炎の要因であることをご存知でしょうか。多くの方が悩んでいる腱鞘炎について、日本手外科学会の認定手外科専門医でもある、JR東京総合病院整形外科部長の三浦俊樹先生にお話をうかがいました。

手首の手前から指先にかけて通っている腱(けん)は、筋肉と骨をつなぐ丈夫な紐のような組織です。腱鞘(けんしょう)は鞘(さや)という字を使いますが、むしろバンドのようなループになっていて、その中を腱が行き来することで指の曲げ伸ばしを滑らかに行なうことができます。手指を曲げ伸ばしするときには腱鞘の中を腱が往復するように動きます。この部分の通過障害による炎症を腱鞘炎といいます。
通過障害が起こる原因は、腱鞘が肥厚(むくみなどのために厚みが増すこと)したり、硬くなることによります。年齢が高くなるにつれて腱鞘の組織が硬くなりますが、糖尿病の方は結合組織に病変を起きやすいため、さらにリスクが高くなります。

指の腱鞘が何らかの原因でむくんで厚くなったり、硬くなったりすると、腱鞘とその中を通っている屈筋腱(くっきんけん)がこすれ合い、炎症のために腫れてきます。このため、腫れた部分が引っかかって、指を伸ばそうと強い力を加えると「カクン」と跳ねるようになります。このような状態がばね指といいます。パソコンのキーボードでの入力作業や楽器の演奏などで指をよく使う人や、中高年の女性に多く見られます。

手首の親指側には腱が2本通っていて、親指を反らしたり開いたりするときに働いています。

  • 短母指伸筋腱(たんぼししんきんけん):主に母指の第二関節を伸ばす働きをする腱です。
  • 長母指外転筋腱(ちょうぼしがいてんきんけん):主に母指を広げる働きをする腱です。

この2本の腱が通るトンネルになっている腱鞘に炎症が起こるのがドケルバン病で、親指を動かすと手首の親指側が痛むのが特徴です。この痛みを生じている部位の特徴や、母指を小指側に引っ張ったときに痛みが強くなるかどうかをみるフィンケルシュタインテストというチェック方法で診断します。

ばね指と違い、引っ掛かりを感じることはほとんどありません。ばね指同様に中高年の女性にも多いのですが、それに加えて出産後の女性にも多くみられるという特徴があります。赤ちゃんを抱くことによって指に負担がかかることもありますが、出産後はホルモンの関係でむくみが起こりやすくなります。このことによって腱鞘がむくんで厚くなり、通過障害を起こすことも一因となります。

治療については、炎症を和らげるために安静にすることもひとつの方法ですが、装具での固定などは基本的に行いません。特にばね指の場合は、関節を固定することで拘縮(固くなること)が起こるというデメリットがあるからです。むしろ関節が固まらないようにストレッチなどを行なうようにします。
痛みが強く生活に支障をきたす場合には、炎症が生じている腱鞘の内部にステロイド薬を直接注射します。特にトリアムシノロンという薬が腱鞘炎に非常によく効きますので、ほとんどの場合はそれで痛みが緩和されます。

一方、その他の内服薬や外用薬では、あまり効果が期待できるものがありません。また、同じステロイドの注射でも、トリアムシノロン以外のものは効果が弱く、効きがよくありません。ただし、ステロイド注射には相応の副作用もありますので、何度も繰り返し使用することはできません。あまりに頻回に使用すると腱が弱って切れてしまうこともありえますので、トリアムシノロンの注射をしてもなお再発を繰り返すようであれば、最終的には手術をするというステップになります。

冒頭で糖尿病の方は腱鞘炎になりやすいということを述べましたが、これは同時に再発を招く要因でもあります。再発を繰り返さないためには、糖尿病の治療もしっかりと行なっていくことが重要です。
ばね指で指の引っかかりがどうしても解消しない場合や、長期にわたって強い痛みが継続する場合には手術の対象となりますが、最終的に手術に至る患者さんは限られます。また、ドケルバン病の場合、親指側の解剖学的な構造に個人差によるバリエーションがあるため、手術に際してはやはり手の構造に精通した専門医が行なうのが望ましいといえます。

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