眼窩と呼ばれる目を入れている骨に囲まれたところにできる腫瘍のことを眼窩内腫瘍といいます。眼窩内の腫瘍は良性のものが多くみられますが、とはいっても眼球の突出(眼球が飛び出ること)など外見上の変貌や視力低下といった生活上の不便さを感じて手術を希望される方も少なくありません。ときに眼球の摘出という究極の選択を余儀なくされることもありますが、必ずしも眼球の摘出は必要ではないといいます。眼窩内腫瘍では国内屈指の手術数をほこる飯塚病院脳神経外科部長の名取良弘先生に眼窩内腫瘍の現状についてお話を伺いました。
目の玉の周りの骨に囲まれているスペースを眼窩(がんか)と呼びます。この部分に発症する腫瘍のことを眼窩内腫瘍といい、私が専門とする領域となります。眼球周辺の手術を脳外科の医師がすると聞くと驚かれるかもしれませんが、眼科の先生ももちろん手術をされます。ただ、対応する箇所が眼科と脳外科とでは少々異なります。
眼科の先生方が対応するところは多くの場合、目の外側や上の部分・骨の内側で、涙腺という涙を作るところを主体に発生する腫瘍になります。一方、目のうしろや奥深くといった部分になると、頭の骨を開けて上部から手術をすることがあり、このときに脳外科医の我々が登場することになるのです。
眼窩内腫瘍は眼球の奥の骨に囲まれたところにできるものですから、腫瘍ができると眼球が前に押し出されます。そのため、右の目と左の目の大きさが何か違うといったことや、右と左の目の開き方に差があるなど、ごく初期にはこういった症状が出てきます。
もちろん、腫瘍が大きくなってくると、こぼれ落ちそうになるくらい明らかに目が飛び出てくることがあります。しかし、一般的に痛みはあまりなく、ゆっくりと進行することが多いようです。最後まで痛みは感じないという方もおられます。
そのため患者さんが一番困ることは、専門用語でいうところの整容性(眼球の突出や左右の目のズレなど見た目の変化)です。何とかしてほしいという訴えで受診される方が少なくありません。
眼窩の腫瘍には悪性と良性があります。悪性の場合は涙を作る涙腺というところから発生するものがあり、良性のものは眼球を動かしたりする神経の表面部分のビニールコードのようなところにできるものがあります。眼窩の腫瘍は良性のものが多いのですが、悪性であろうが良性であろうが、患者さんにとっては見た目を何とかしてほしいというのが手術を希望されるひとつの理由に挙げられます。
ですから、悪性でなければ多少大きくても「多少目は飛び出ているけれど、命には関わらないから手術はしたくない」という方もしばしばおられます。女性の方は特にそういう傾向が強いように感じられます。我々も絶対に手術をしなければならないというものでもないと思っています。
またその他の症状としては、視力の低下があります。眼窩の非常に奥にできる眼窩内腫瘍で、腫瘍は小さいのに急激に視力を低下させるタイプのものです。
遠方から通われていた患者さんで、「突然、昨日から目の見え方がおかしいのです。目がかすんで見えません」とおっしゃるので、すぐに飯塚病院に来てもらって検査をすると、やはり内出血していました。さらに視力も衰えていたので緊急手術を行ったということもありました。眼窩の腫瘍ですが、このように緊急手術になることも稀に起こります。
飯塚病院 副院長・脳神経外科部長、九州大学 医学部 臨床教授
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