概要
眼球が収められている、骨で囲まれてたくぼみを眼窩といい、眼窩にできる腫瘍のことを眼窩腫瘍といいます。インターネット上では「眼窩内腫瘍」と検索されていることも多いようです。
眼窩には眼球のみでなく、涙をつくる涙腺や眼球を動かす筋肉、神経、血管、脂肪などさまざまな組織があるため、いろいろな種類の腫瘍が発生します。
腫瘍には良性のものと悪性のものとがあります。悪性腫瘍が癌であり、腫瘍=癌ではありません。また、厳密な意味では腫瘍ではありませんが、炎症などで塊状のものが眼窩にできることがあり、そのようなものも眼窩腫瘍に含められます。
日本における報告では、良性では血管腫(海綿状血管腫、乳児血管腫)や多形腺腫、皮様嚢腫、神経鞘腫などが多く、近年、新しく疾患概念が確立されたIgG4関連疾患も増えてきました。悪性では悪性リンパ腫が圧倒的に多く、腺様嚢胞癌や転移性腫瘍がこれに続きます。腫瘍の種類によっては、眼窩のなかでできやすい場所があり、また両側にできるものもあります。年齢によっても、できやすい腫瘍が異なります。
原因
腫瘍とは、もともと人体を構成している種々の細胞が、過剰に増殖してできる組織塊のことです。腫瘍発生にはさまざまな要因の関与が考えられており、本当の原因はわかっていません。
赤ちゃんにできる乳児血管腫や、中年女性に多い海綿状血管腫は、生まれながらの血管の異常によるものです。子どもに多い皮様嚢腫は本来その場所には存在しない組織(皮膚や毛髪になる外胚葉)が発生の過程で迷い込み発生します。
悪性リンパ腫は、白血球の一種であるリンパ球が腫瘍化した病気です。IgG4関連疾患は、免疫グロブリンのひとつであるIgG4が関与する疾患で、涙腺や耳下腺、膵臓、肝胆道系、後腹膜をはじめとするさまざまな臓器が腫れたり、硬くなったりします。悪性リンパ腫やIgG4関連疾患は、全身的な病気です。
症状
症状は、腫瘍の種類、位置、大きさによってさまざまです。代表的には腫瘍で眼球が押されることによって眼が飛び出る眼球突出や眼の位置がズレる眼球の変位、眼の動きが障害されて物がダブって見える複視などがあります。また、腫瘍による視神経の圧迫や、視神経自体にできる腫瘍によって視力低下をきたすこともあります。
検査・診断
眼窩腫瘍は表面から直接見て確認することができないため、画像検査であるCTやMRIを撮影します。MRIで腫瘍の詳細な性状を調べます。また、腫瘍を栄養する血流の状態や腫瘍の種類を推測するために造影MRIを行います。悪性腫瘍は周囲の骨を破壊することがあります。そのため、骨の状態を知るためにCTも撮影することがあります。
眼科検査としては、一般的な視力、眼圧測定と、眼の飛び出具合を測る眼球突出度検査、眼の位置ずれを測る眼位検査、眼球運動障害を評価するHESS赤緑試験および両眼単一視野の測定を行います。腫瘍による視力低下が生じている場合には、視神経障害の程度を評価する中心フリッカー値も測定します。
悪性リンパ腫では血中の可溶性インターロイキン2受容体、IgG4関連疾患では血中のIgG4が、転移性腫瘍では各種の腫瘍マーカーが高値となるため、採血検査も参考となります。腺様嚢胞癌を代表とする悪性度の高い腫瘍を疑う際には、他部位への転移の有無を調べるために、PET-CTなどでの全身検索が必要となることがあります。
治療
腫瘍の治療は一般的には、手術療法、化学療法、放射線療法などがありますが、眼窩腫瘍では手術療法が適応となります。摘出方法は腫瘍の場所によって異なります。比較的、眼窩の前のほうに位置する腫瘍の場合は、眼の周り(眉毛の下や、下まぶたの縁など)の皮膚を切って前方から摘出します。しかしながら、眼窩の奥のほうに位置する場合には、脳外科で開頭しなければ腫瘍を摘出できないことがあります。
腫瘍の種類が判明する確定診断には、腫瘍の一部を切除する生検や、腫瘍を全部取りきる全摘出などの手術療法を行い、摘出した組織を用いての病理組織学的検査が必要で、その結果次第では追加治療を行うことがあります。腺様嚢胞癌などの非常に悪性度の高い腫瘍では、腫瘍のみの摘出にとどまらず、眼窩内の組織をすべて除去(眼窩内容除去)しなければならない症例や、重粒子線治療という特殊な放射線治療を行う症例もあります。
頭痛や頭部外傷で頭部CTを取った際に偶然、眼窩腫瘍が見つかることがあります。視機能障害(視力低下や複視、眼球突出など)や日常生活への影響がなく、良性腫瘍の可能性が高い場合、定期的な画像検査を行いながら経過観察を行います(海綿状血管腫など)。
手術療法以外が治療の中心となる眼窩腫瘍もあります。悪性リンパ腫が疑われる場合には、腫瘍の一部を切除(生検)して、一般的な病理組織学的検査のみでなく、フローサイトメトリーなどの特殊な検査も行います。悪性リンパ腫は、白血球の一種であるリンパ球が腫瘍化した病気であるため、治療は血液内科での化学療法や放射線療法が中心になります。
IgG4関連疾患を疑う場合も一部組織を生検して、病理組織学的検査で特殊な染色を行います。治療はステロイド剤の全身投与が著効しますが、再発することも珍しくなく、長期に及ぶステロイド治療が必要となることがあります。
乳児血管腫は、8歳ごろまでに少しずつ自然退縮しますが、急速に大きくなるものや、整容的な問題を生じる可能性があるものには、β遮断薬であるプロプラノロール内服療法が有効です。しかし、副作用として除脈や呼吸器症状を来す可能性があるため、眼科と小児科とが連携して治療する必要があります。
眼窩には多種多様な腫瘍が発生し、種類によっては手術療法以外の治療が中心となるため、適切な検査、治療計画が必要となります。
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