目を入れている骨に囲まれたところにできる腫瘍のことを眼窩内腫瘍といいます。発症頻度が少ないため、専門家も限られており、医師によって治療法にも差があるようです。眼窩内腫瘍の治療とはどんなものなのか、眼窩領域を専門とし、眼窩内腫瘍では国内屈指の手術数を誇る飯塚病院脳神経外科部長の名取良弘先生に、眼窩内腫瘍の治療法についてお話を伺いました。
目の玉の周りの骨に囲まれているスペースを眼窩(がんか)と呼び、この部分に発生する腫瘍のことを眼窩内腫瘍といいます。眼窩内腫瘍の検査では、主にCTやMRIを行います。眼窩は検査をしやすい場所なので、通常は血管造影まで行う必要はありません。場合によってはCTだけでも手術をすることが可能です。
一般的に、がんの治療法には手術療法・薬物療法・放射線療法という三通りがありますが、眼窩内腫瘍は眼窩という非常にデリケートな場所にできるので、放射線を使いづらいということがひとつの問題です。目が近くにあるため、放射線をあてることで視力を失ってしまったり、目のレンズの水晶体というところに放射線があたることで、白内障を起こしてしまったりすることがあります。そのため、よほど悪性でない限り、基本的に放射線治療は行いません。
となると、薬物療法ということになりますが、その場合は、まず腫瘍の組織を採ってどんなタイプの腫瘍なのかということを顕微鏡で確認しなければなりません。これは眼窩内腫瘍に限らず、他の臓器、胃や大腸や肺などにできた腫瘍でも同じことがいえるわけです。そのため腫瘍の一部を採取して組織検査を行うのが基本になります。
ただ、そのときに一つ問題があります。それは腫瘍の一部を針で採取するときに、もし悪性だった場合には、がん細胞が周りに飛び散ることがあるということです。
たとえば、胃がんや大腸がんなどは生検(針を刺して組織を採取する検査)のときにがん細胞が飛び散ったとしても、そのまま消化されて便として排出されるので問題はありません。しかし、眼窩内というのは、まわりが脂肪細胞で包まれているため、生検時にがん細胞が脂肪のなかに飛び散ってしまうと出ていくところがありません。こうなると、飛び散ったものを全部取らなければならなくなるのです。そうなると目の機能を失うことになります。
つまり、眼窩内腫瘍の場合は腫瘍の一部を採取する生検を行ってはいけないということです。
私は眼窩内腫瘍を専門領域として20年ほどになりますが、当時からの患者さんで、これまで9回手術をされた方がおられます。若い頃に腫瘍の一部分をとる手術を少しずつ繰り返しされていた患者さんで、再発をしてこられました。しかし、10数年以上前にがん細胞の種がまかれたため、あちらからも、こちらからもパラパラとがんが芽を出し、それも進行が早いため、まとめて取ることができずに、ひとつひとつ腫瘍を切除しなければならないという状態でした。
専門でない先生方は少量ずつ取って、最終的に全部取れればいいと考える方もいますが、 それは間違いで、そんな手術をされると頑固に再発を繰り返して、結果的に患者さんが困ることになるのです。再発は15年、20年と経って起こります。最初に手術をされた先生はその後の結果を知らないのでしょうが、手術では腫瘍をひとかたまりにして取るというのが原則になります。
目の中の腫瘍は良性のものが多いので、手術後の術後療法として放射線を照射する、あるいは薬剤を投与するといったことは一般的にはありません。腫瘍を顕微鏡で確認してがん細胞がみつかった場合には追加の抗がん剤治療、もしくは放射線治療を行うことがありますが、そういったケースは比較的稀です。
飯塚病院 副院長・脳神経外科部長、九州大学 医学部 臨床教授
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