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インタビュー

性分化疾患(DSD)とわかったら-社会的性を選択するということ

性分化疾患(DSD)とわかったら-社会的性を選択するということ
鹿島田 健一 先生

東京医科歯科大学 大学院医学系研究科発生発達病態学 講師、日本内分泌学会 評議員

鹿島田 健一 先生

DSDの中には、生まれた時に男女の判別が難しい状態である非典型的外性器の方も多く含まれます。男性か女性か判別が難しいという状態はご家族に大きな精神的打撃を与えます。医療者はお子さんの診断治療はもちろん、そうした面への配慮をしていく必要があります。どちらの性で育てていくかをご家族と相談しながら選択することも重要な医療行為のひとつです。東京医科歯科大学小児科鹿島田健一先生にお話をうかがいます。

もし非典型的外性器をもち男女の判別が難しい場合には、生まれた時にすぐにわかります。最近では、胎児エコーの技術も発達し、場合によっては胎内にいる時にもわかることもあるようです。

一方、一部の疾患では、「二次性徴がこない」など生後しばらくたってからわかることもあります。たとえば、外性器は完全に女性型であり女性として育てられていたけれど二次性徴が進まないために調べたら46,XYの核型を持っていた、という場合などです。症状が極めて軽微な場合には、仮にDSDと診断できる状態であったとしても気がつかないまま生涯を終えられる方もいると考えられています。そのような意味ではDSDが見つかる時期はさまざまで、必要とされる時期に最も適切な対応をすることが医療者には求められます。

もし赤ちゃんが生まれた時に外性器による男女の判別が困難だった場合、たとえば「男性か女性かわからない」などと安易な発言をしてしまえば、親御さんは「元気で生まれてきたけれど自分の子どもは人間ではない」といわれているに等しいほどの衝撃を受けてしまう可能性があります。なぜなら、人間は男性か女性二つの性しか存在しない、あるいは男性であるか女性であるか二つのあり方しか存在しないと考えている方が大多数で、性別がその人のあり方を決める最も重要な要素のひとつだと考えられているからです。そのため、医療者は説明する際には十分な注意が必要です。

出生時の問題は、親御さんのその後の養育に対する積極的な態度を引き出すためにも非常に重要で、それは医療者の説明の仕方によっても大きく左右されます。説明の仕方としてはいくつか考えられますが、たとえば「赤ちゃんは、お腹の中で受精卵という男女の区別がない状態から少しずつ発達して、男の子と女の子に分かれそれぞれの特徴を持って生まれてきます。しかしその特徴が完成される前に生まれくることがあります。お子さんはそのような状態にあると考えられます。ですから、これから検査をし、どちらの性か確認していきましょう」という表現などが考えられます。「男の子か女の子、どちらかで生まれてきているのだ」と暗に示すことで親御さんの極度な不安を取り除くことができると考えています。

こうした知識は、私たち小児科医に限らず、産婦人科医や助産師、看護師などお産にかかわる可能性があるすべての医療者と是非共有したいと思っています。一般に、胎児もお母さんも特別な問題がなく出産まで至る場合、分娩に小児科医が立ち会うことはありません。そのため、小児科医が不在でも生まれてきたお子さんの性別について十分に配慮のある説明ができることが望ましいと考えています。

DSDにより、非典型的な外性器をもつお子さんが生まれた場合、医師にも親御さんにも他にはない難しいケアを求められます。それは、お子さんをどちらの性別で育てていくかという「社会的性の決定」です。

「性」は、決して自明なものではありません。もう少し踏み込んでいえば、染色体の核型、性腺の性状、内外性器の形状、これらはいずれも単独で性を決める根拠にはならないのです。さらには、原因疾患によって性が「わかる」ということもなく、同じ疾患でもその重症度によって選択される性が異なる場合さえあります。つまり、医学的に明らかにできる要素によってその人の性別が「わかる」という保証はないのです。その場合、さまざまな状況を鑑み、お子さんにとってもっとも適切であると思われる性を社会的性として「選択」し、それに合わせて治療を行うというプロセスが必要となります。この「社会的性の選択」という医療行為はDSD特有のものであり、DSDを扱う医療者が高い専門性を求められる要因のひとつにもなっています。

欧米などでは、性別を決定しないでそのまま養育するという考え方もあるようですが、いまの日本の社会的な事情を考えると社会的性を決定せずに長い間そのままにしておくことは大変困難であると考えています。そのひとつに、法的にも文化的にも性別を前提に成り立っている社会構造があります。日本では戸籍という身分登録簿があり、名前と同時に性別を登録することになっています。したがって、実際の社会では「中間の性」という社会的概念は形成されにくいといえます。一度戸籍登録された性を変更するにも、家庭裁判所の判断が必要ですし、性変更が受容される環境が整っているとは言い難い現状です。

性別を決定しないことの困難さは日常会話ひとつ考えても理解できます。たとえば、お子さんが生まれたら親戚やご近所に「男の子?女の子?」とごく普通に聞かれます。上にお子さんがいれば、その子が「生まれたのは弟?妹?」と聞くことはごく自然な流れでしょう。また上のお子さんは、周囲から「生まれたのは弟さん?妹さん?」と聞かれることもあるでしょう。その時に男の子か女の子かどちらか答えられないことは、ご家族にとっては心の休まる時がないといっても過言ではないでしょう。親御さんの心の傷が深くなってしまうと、お子さんの養育にも深刻な影響を与えてしまう可能性もあります。お子さんの健康を維持していく上でご家族の愛着形成は最も重要な条件であり、過度のストレスを与えないようにすることも小児科医の大切な役割なのです。

誤解のないように申し添えると、私たち医療者は全ての人が男女いずれかの性別であるべき、と考えているわけではありません。社会には、さまざまな性のあり方が存在します。ただ、まだ自我がなく成長発育が養育環境に大きく依存する新生児の場合、お子さんを育てる親御さんへの配慮は大変重要であり、社会的性を決めることがより好ましいと考えているのです。こうした考え方は、将来否定される可能性があることも十分に理解しています。

なお、この疾患の第一人者であるリューベック大学のO. Hiort教授は、2014年発行のNature Reviews Endocrinologyにおける総説で『将来的に批判を受ける考えかもかもしれないが、現時点では、家庭の調和(the integrity of the family)を保持するためにも、全ての小児DSD患者に対して社会的に性決定をすることが無難である』と書いています。EUを代表するDSDの専門家であるHiort先生がこのように述べたことは、私たち医師にとっては大変重みのあることです。特に、お子さん本人のみならず”the integrity of the family”とDSDの家庭環境について目を向けている点は、立ち止まって考える必要があると思っています。

性別を決める時期ですが、明確な基準はありません。種々の事情を鑑みれば、可能な限り早いほうが良いです。とはいえ、必要な検査がおろそかになったり親御さんへの説明が不十分になるような事態は避けることが大前提です。個人的には、なるべく生後1週間程度で社会的性を決定できるのが望ましいと思っています。なお、戸籍登録は通常生後2週までとなっていますが、医師の証明書があれば性別の登録を延期、追完することが可能です(追完の記録は戸籍に残る)。つまり、法的に生後2週までに性別を決定しなければならない、ということはありません。

 

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