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インタビュー

性分化疾患(DSD)の治療

性分化疾患(DSD)の治療
鹿島田 健一 先生

東京医科歯科大学 大学院医学系研究科発生発達病態学 講師、日本内分泌学会 評議員

鹿島田 健一 先生

医療行為は一般に、原因となる疾患を正確に診断し、それに応じて治療を行うことが原則です。しかしDSDの場合、社会的性によって行われる治療が異なり、ご本人とご家族の考え方だけでなく社会の性への認識が治療に大きく影響するという点に注意が必要です。東京医科歯科大学小児科の鹿島田健一先生にお話をうかがいます。

DSDの治療の多くは、主に3つの要素から構成されます。1と2は、選択された社会的性に応じて行われます。

1 外性器の形成術

外性器の形は、性自認を形成していく上で重要であると考えられています。たとえば、男の子にとって思うように排尿ができる、男子トイレで用が足せることは自分が「男らしい」という自覚を形成して行く上で重要です。そのため、日本では多くは2歳くらいまでに治療を行います。ただし、原因疾患やお子さんそれぞれの事情によって幼児期から成人期以降に治療が持ち越される場合もあります。特に外科的手術が複雑な場合、一度の手術で治療を終えることが難しいため幼児期以降に治療が持ち越されることもあります。また、最近の欧米では、なるべく本人の意向を尊重できるよう、こうした手術を本人が意思表示できる時期まで敢えて遅らせることもあるようです。このような考え方は今の日本では稀ですが、今後は増えてくる可能性もあります。

一般には、児童は2~3歳ころから男性、女性という2つの性があることに気付き、それぞれ外性器の形状が異なること、排尿の仕方が異なることを理解します。さらに4歳ころになると、外見を変えても(服装を変えても)成人になっても性別は変わらないということを理解し、自分が属する性に合った「らしさ」を身につけていきます。ただし、この時期はまだ自身の性に対する理解はステレオタイプな部分が多いことも特徴です。性に対する理解がもう少し柔軟になるのは学童期以降です。

外性器の形成術は極めて専門性の高い手術のひとつといわれています。そのため、小児外科の中でも泌尿器の治療に慣れた医師が望ましいとされています。

2 二次性徴期以降のホルモン補充療法

二次性徴とは、それぞれ男性女性としての性が成熟し、生殖能力を獲得するまでの一連の生物学的変化を指します。子どもから大人へと変化して行く時期でもあり、思春期とも呼びます。「二次」とは、胎内で内外性器が形成され男女の性差が生じる時期を「一次」と呼ぶことに呼応しています。一次性徴が男性ホルモンの有無によって決まるのに対し、二次性徴は男性では男性ホルモン(=アンドロゲン/ テストステロン)、女性では女性ホルモン(エストロゲン)とそれぞれの性に合致したホルモンが必要になります。これらは、男性では精巣、女性では卵巣から産生されます。DSDの多くは、原則一次性徴になんらかの問題があったことを意味します。ですから、そのままでは二次性徴が発来しない、あるいは発来しても不十分な形で終わるため、適切な時期にホルモン補充療法を開始し二次性徴を遂げさせる必要があります。

男性の場合、月1回の筋肉注射による治療が一般的で、女性の場合には内服や皮膚に貼付するテープによる治療が一般的です。二次性徴が全くない方の場合、本来の二次性徴を模した形で補充するため、最初は極少量から開始して少しずつ増量しながら2年ほどかけて成人量まで増やします。女性で子宮がある場合、女性ホルモンのみの補充を続けると将来的に子宮ガンのリスクが増加するため、消退出血を起こす目的で黄体ホルモン(プロゲステロン)を併用し、月1回の出血を起こすようにします。これらの作用によって、男性女性ともに成熟した体つきを獲得することになります。

一般には、男性では11~15歳、女性では9~12歳くらいで治療を開始します。しかし、本人の状態や治療の受け入れ状況などを加味して、個別に慎重に検討します。治療は、女性は閉経程度の年齢まで、男性も同程度の時期まで続けることになります。ホルモン補充は、本来身体にあるべきはずの物質を補充していく作業と考えています。そのため、通常、副作用は問題にならないと考えています。

3 合併症の治療 

一般的に特に問題となるのは、腹腔内にとどまった精巣の扱いです。精巣は、当初は胎児のお腹の中で形成され、生まれるまでの間に下降し、最終的には陰嚢の中に落ちてきます。しかし、なんらかの理由(多くは精巣としての機能が低下した場合)により精巣が体内にとどまってしまうことがあります。明らかな原因はわかっていませんが、体内に停留した精巣は高率に腫瘍化することが知られており、必要に応じて精巣を摘出することがあります。性腺の摘出術の多くは予防的措置として行われるため、実際に腫瘍化してそれが原因で亡くなるようなことは稀と考えています。摘出する時期はDSDの病態によっても異なるため、それぞれの状況を考慮にいれながら決定します。

DSDは、特定の条件下において合併症が起こる可能性があることは事実です。しかし、性腺、内外性器以外に特に医療的に問題がない方も多く、そうした方は社会生活を送るにあたり学業や就労について一般の方と同等の形で考えることができます。

妊孕性とは妊娠する可能性のことを指し、その大部分は性腺の機能によって決まります。性腺は主に二つの働きがあります。ひとつは性ホルモンの産生、もうひとつは配偶子(精巣では精子、卵巣では卵子)の産生です。つまり妊孕性は、個体が性ホルモンによって二次性徴を遂げ性的な活動性をもつと同時に、それぞれの配偶子が適切に産生されることで初めて獲得されるのです。DSDの場合、多くは性腺の機能低下を合併しています。その場合、性ホルモンについては人工的に合成された性ホルモンを使用することで機能を代償する(補う)ことができます。しかし、配偶子(精子と卵子)は今の医療で0から作り出すことはできません。代償が効かないのです。妊孕性は、原因となる疾患によっても異なりますが、多くのDSDにおいては保たれていないことが多く、残念ながら有効な治療法がないのが現状です。

DSDの診療のみならず、先天性の疾患を扱う医療全てにいえることですが、医療者がご家族のみならずご本人とも良好なコミュニケーションを確立していくことは大変重要であり、欠かせません。たとえば、新生児~乳児期であれば、医療的方針は原則ご家族と話し合って進めていきます。しかし、ご本人が幼児~学童と成長すれば、いろいろなことを理解し始め自分が置かれている状況と向き合うことになります。DSDも決して例外ではなく、どのような形でご本人に理解してもらうかという配慮が求められます。

また、今回はあまり触れませんでしたが、DSDの中には二次性徴の発来がないことなどを機に見つかる方もいらっしゃいます。完全型アンドロゲン不応症や重症の5αレダクターゼ欠損症などでは、46,XYの核型で性腺も精巣を持ちながら出生時には外性器が完全女性型を示すため、そのまま女性として養育され成長される方が大半であると思われます。出生からしばらく経ってから、二次性徴が発来しない、あるいは進行しないことを理由に医療機関を受診され、発見されるのです。こうした場合に、ご家族はもちろん、ご本人にどのように検査の結果をお伝えするかは大変難しい問題です。

ですから、私たち医療者は、ご家族だけでなくご本人ともつねに良好なコミュニケーションをとれるようにしておくと同時に、看護師や臨床心理士など、医師以外のサポートも得ながら診療を行うことが望ましいと考えています。そしてそのサポートは、生涯にわたって必要となることを認識する必要があると考えています。

DSDの治療は、専門医が携わるのが最も望ましいと考えています。ただし、残念ながら「DSDの専門医」という認定制度は存在しません。日本内分泌学会は専門医制度を設けていますので、そうした日本内分泌学会専門医、中でも小児科領域の専門医をお探しいただくのが良いと思います。また日本小児内分泌学会でも、今後はDSD診療体系化を目指して、中核施設を選定し、そうした施設に症例を集約していくようにすることを計画しています。このような形で、今後さらにDSDの患者さんにとって良い医療が提供されるよう願っております。

<日本内分泌学会 専門医制度>https://square.umin.ac.jp/endocrine/senmon_i/index.html

 

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