インタビュー

性分化疾患(DSD)の診断の進め方

性分化疾患(DSD)の診断の進め方
鹿島田 健一 先生

東京科学大学 大学院医学系研究科発生発達病態学 准教授

鹿島田 健一 先生

この記事の最終更新は2016年08月03日です。

なぜ性分化の過程が非典型的な形で進むのか、DSDのすべての原因は明らかになっていません。しかし、遺伝学的な解析が進み少しずつ原因がわかり始めています。DSDの原因について東京医科歯科大学小児科鹿島田健一先生にお話をうかがいます。

学問的にはDSDは、持っている核型から大きく3つの種類に分けられます。これらはさらに、病態によっていくつかに細分類されます。

46,XY DSDや46,XX DSDにおいては、1:性腺の発生の問題、2:それ以降のアンドロゲンの作用の過不足、3:それ以外と3つの要因に従って分類されている(表:鹿島田先生提供)

一部の疾患を除き、これらの分類はあくまで核型に則したものに過ぎず、それぞれにはさまざまな病態を含みます。従ってこの分類がそのまま社会的性の選択を意味するようなことはありません。たとえば、46XY, DSDであっても社会的性として女性が選択される可能性も男性が選択される可能性もある、ということです。社会的性は、症例ごとにさまざまな状況を勘案して選択されます。つまり、原因疾患を診断することと、社会的性を決定することとは密接に関係するけれど異なる医療行為であるといえます。

また、どんなに慎重に検討を重ねて社会的性を決定しても、選択した社会的性とその後の性自認が異なる場合もあります。いわゆる性別違和(性同一性障害)の状態です。性自認は脳の性分化による主観的な営みであり、その仕組みは残念ながらよくわかっていません。しかし、もし性別違和が生じた場合、決定された社会的性がご本人にとって満足とは言い難い状況を意味します。残念ながら、現状ではある一定以上の確率でこのような問題が生じており、これらを改善していくには、DSDの原因解明のみならず、今後脳の性分化についても詳細な研究が進む必要があります。

DSDでは厳密に病因を診断することも大切ですが、それ以上に社会的性を決定するために必要な情報を的確かつ迅速に集めることが優先されます。これは、DSDの治療の主な部分が選択された社会的性によって異なるからです。

社会的性を決定する上で必要な情報はさまざまですが、まず、性分化の3つのレベル、すなわち核型、性腺、内外性器、それぞれがどのような状態にあるかを知ること、また合併症の有無について知ることが重要です。

DSDの診断に必要な要素(イラスト:鹿島田先生提供)

まず知るべきことは、染色体の性です。もう少し厳密にいえば、男性決定(性腺を精巣にする)に必要なY染色体の有無を調べます。染色体の性はYの有無によって決まるからです。Y染色体上にある小さな「SRY」という遺伝子が精巣を形成する最初のきっかけをつくります。これは、通常血液の検査で知ることができますが、稀に頬の粘膜など血液以外の組織を必要とする場合があります。

次に、性腺が精巣か卵巣いずれかを調べます。性腺の状態はもちろん、性腺がどのくらい機能しているかを知ることが重要です。なぜなら、内性器外性器の男性女性への分化は、精巣から分泌されるアンドロゲンや抗ミュラー管ホルモンの有無によって決まるからです<記事1『性分化疾患(DSD)とは?性分化疾患の種類や特徴について』参照>。これらは、血液や尿で調べることができます。一部、薬を投与してその後数回の採血をして調べる負荷試験が必要になることもあります。また性腺外見や位置を確認するために、一般に画像検査、超音波検査やMRI検査を行います。

内性器、外性器の状態を詳細に調べるために、入念な診察と画像検査を行います。画像検査は、性腺と同様MRIが最も大きな威力を発揮しますが、尿道と膣がどのような状態か知るために造影の検査が必要になることもあります。

DSDは、一部合併症を伴うことがあります。一番多いのは、21-水酸化酵素欠損症という病気です。これは、生まれつき酵素が欠損するために副腎で産生されるホルモンが不足する病気ですが、場合によっては重篤な症状を引き起こすことがあり注意が必要です。ただし、この疾患は新生児マススクリーニング(すべての新生児が受ける検査)にも含まれているため、今の日本で見逃されることはまずないといっていいでしょう。

上記4つの検査をしっかり行えば、社会的性を決定するための判断材料はある程度揃ったことになりますが、いくつかの疾患では遺伝子検査による確定診断が必要になります。

遺伝子検査は、いくつかの疾患では診断の確定に大変な威力を発揮しますが、一方で配慮するべき課題があり、慎重に進めるようにしています。といいますのも、まず、DSDを起こすことがわかっている遺伝子だけですでに数十はあります。その全てを調べることはあまり現実的ではないかもしれませんし、少なくとも社会的性を決めるために数十全ての遺伝子を調べる必要はありません。

また、こうした遺伝子検査は原則研究レベルで行われており、実施可能な施設は国内でも数施設と限られています。検査費用も全て研究費で賄われているため、その施設が将来にわたって検査可能な体制を維持できる保証もありません。また、遺伝子は文字どおり「遺伝する」ため、その解釈が本人だけにとどまらないという認識も重要です。つまり、検査をするにあたり親御さんや将来生まれてくるであろう次のお子さんのことも考える必要があるのです。

このように、遺伝子検査も含めた医学的な検査は疾患の診断に大変有用である反面、それぞれ十分に注意して行う必要があり、患者さんのご家族と医療者が十分なコミュニケーションをもった上で行うことが重要です。

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