DSDが起こる過程は、性分化のステップを3つに分けて考え、さらに①ステップ間の進み方に異常がある②それぞれのステップの状態に異常があるという2つの場合を考えることで理解しやすくなります。ただし、この考え方はあくまで便宜的なものです。実際の病態によっては、単一ではなく複数の要因が重複していることもあります。
本来の性分化の進み方が典型的でない場合で、どこかが入れ替わっているようなケースが含まれます。
たとえば、XXの染色体を持っているにも関わらず性腺が精巣に分化して外性器が男性と同様の形で生まれてくる場合、あるいはXYの染色体を持ち性腺も精巣に分化しているにも関わらず、それ以降が本来の形で進行しないため、外性器や内性器が女性と同様の形で生まれるような場合などがこれに当てはまります。
性染色体の組み合わせ、性腺の発達、内外性器の発達のいずれかの過程において男女両方の成分が混在している、あるいは形成が悪くどちらともいえない状態にあるといった場合です。染色体で46,XYと46,XX両方の核型を持つ場合や、精巣と卵巣両方の性腺を持つ場合、逆に性腺の形成が不十分(低形成)で性腺機能が悪く、その後の性分化が不十分になる場合などがこれにあてはまります。
ここで簡単に「モザイク」という言葉についてご説明します。人間の身体は、たった一つの細胞である受精卵が数多くの分裂を繰り返してできたものです。本来であればこの分裂の際に遺伝子を含む染色体も完全にコピーされてそれぞれの細胞に同じ形で維持されます。たとえば、受精卵の性染色体の組み合わせが46,XY であった場合、血液、髪の毛、皮膚、手の爪などどこの細胞からとっても遺伝学的情報はすべて同じであり、性染色体の組み合わせはXYしか出てこないはずです。
しかし、何らかの原因によって細胞が分裂する際にそれぞれの細胞がもつ染色体の組み合わせが同じ形で伝わらないことがあり、一人の中に2種以上の染色体の組み合わせが混在していることがあります。このように一つの受精卵に由来する個体(一人のヒト)の中に複数の異なる遺伝学的な情報を持つ細胞が混在している状態を「モザイク」といいます。こうした性染色体のモザイクはDSDの中でも比較的頻度が高く、45,X/46,XY、46,XX/46,XYなどの核型などが知られています。この場合、卵精巣(精巣と卵巣を両方持っている)、性腺や内外性器の低形成・異形成・無形性が生じます。
また、典型的な内性器・外性器であっても、性染色体の組み合わせが典型的でないこと、性腺機能の低下があることから学問的にDSDのひとつとして考えられている疾患もあります。代表的な核型として45,Xという核型を持つターナー症候群、Xの性染色体が1~3個多く47,XXYという核型を持つクラインフェルター症候群などもこのグループに含まれます。ただし、あくまで学問的な話でもあるため、通常の臨床の場でこのような疾患の方にDSDであるとお伝えすることはありません。
身体の性差が最も大きく現れるのは内外性器です。内性器とは体内にあり、外部に露出していない性器を指します。女性では膣・子宮・卵管、男性では前立腺・射精管・精嚢・精管・精巣上体などです。内性器とは逆に、外性器は体外にあらわれている性器を指します。具体的には男性では陰茎(ペニス)・陰囊,女性では陰核・陰唇(大陰唇・小陰唇)・膣前庭などです。ちなみに陰茎と陰核、陰嚢と陰唇はもともと同じもので、男性ホルモンの作用によって陰核になるはずの部分が大きくなると陰茎が、陰唇の部分が大きくなり皮膚が薄くなると陰嚢ができます。これら内外性器は、性を形作ると同時に、生殖にも必要となります。通常、胎内にいる間に形成され、それぞれの性器をもって生まれてきます。
内外性器の発達は、主には精巣から分泌されるホルモン(男性ホルモン[アンドロゲン]、抗ミュラー管ホルモン等)に依存的です。まず大原則として、それらのホルモンの作用がない状態では、内外性器は女性型として発生します。
つまり、性腺までが正常に発生してもその後の男性ホルモンの作用が適切でないと、典型的な男性型、女性型の内外性器をもって生まれてくることができなくなります。たとえば、46,XYの核型をもち性腺が精巣に分化しても、精巣から分泌されるホルモンの作用が不十分であれば、内外性器は典型的な男性型ではなくなります。また46,XXの核型を有し、性腺が卵巣に分化しても、どこからか過剰な男性ホルモンの分泌が生じれば内外性器は完全な女性型ではなく、相応の男性化(陰核が大きくなる、陰唇が癒合するなど)が生じます。
一方、これらホルモンの作用と関連なく、内外性器が非典型的になることがあります。その多くは、外内性器を形成する器官そのものになんらかの発生上の問題があり、形成されないと考えられています。たとえば、本来ペニスの末端にあるはずの尿の出口が別の場所にある尿道下裂の多くはこのグループに入ると考えられています。
DSDには、どのくらい存在するのか厳密に数えることができない背景があります。なぜなら、先に述べたターナー症候群やクラインフェルター症候群、尿道下裂など頻度の高いものを含めれば「100人に1人いる」といえるからです。しかし、生まれた時に男女の判別をするのが難しい、非典型的外性器を呈するケースなど臨床的に大きな問題となる場合は、おおよそ5,000~6,000人に1人といわれています。
これはあくまで小児科医の私の経験則からですが、ある先天性疾患の頻度が「2万人に1人の割合で出生する」という場合、小児科医であればその疾患に一生に一度は遭遇し、自分で診察・診断をする必要とする場面に遭遇する可能性があります。「10万に1人」という場合、その道の専門家であれば一生に一度、「100万人に1人」という場合、その道の専門家でも一生に一度出会うか出会わないか、という確率であると考えています。この確率のイメージを当てはめてみると、小児科医として一線で働き続ければ一生のうちに数回はDSDの赤ちゃんに出会うことになります。決して多い確率ではありませんが、非常に稀であるともいい難い数字なのです。
東京科学大学 大学院医学系研究科発生発達病態学 准教授
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